artscapeレビュー
沈昭良 写真展 STAGE
2010年06月01日号
会期:2010/05/12~2010/05/25
銀座ニコンサロン[東京都]
台湾の写真家、沈昭良の個展。「台湾総芸団」をモチーフにした写真作品を発表した。それは歌や踊りなどの演芸を披露しながら台湾の各地を移動していく旅芸人の一座で、移動に使う大型トラックの荷台が演芸の舞台となる。荷台の内部には色とりどりの電飾や照明が仕込まれていて、スイッチひとつで外側に開いていくと煌びやかなステージが完成するという仕掛けだ。写真にはトラックからトランスフォームされたいくつものステージが写されているが、芸人が写りこんでいるわけではないから、旅芸人の演芸を記録した写真というより、むしろ舞台装置を即物的にとらえた写真である。とはいえ、空を赤く染めた夕闇や夜の繁華街のなかに立ち現われたステージは、見えない演芸を想像させる叙情性を強く醸し出している。路上に一時的に生起する非日常的な世界という意味でいえば、これはサーカスや紙芝居に近いのかもしれないし、だとすればこの叙情性は懐古的なニュアンスを多少なりとも含んでいるのかもしれない。けれども、沈昭良は失われた文化を美しくとらえるというより、むしろそうした舞台を内側に含みこんだ都市風景を見せようとしているのではないか。色鮮やかなステージは周囲の街並みを異化しているというより、絶妙に調和しながら溶け合っているからだ。都市と舞台が相対するのではなく、都市そのものが舞台である。そのことを、沈昭良による写真は物語っている。
2010/05/20(木)(福住廉)