artscapeレビュー
THE ドラえもん展 TOKYO 2017
2017年11月15日号
会期:2017/11/01~2018/01/08
森アーツセンターギャラリー[東京都]
1990年に東京国立近代美術館で「手塚治虫展」が開かれて以来、美術館でのマンガやアニメの展覧会は珍しくなくなった。でも本来マンガは雑誌、アニメはテレビか映画で見るものであって、美術館で鑑賞するものではない。同じく実物を持ってこれない建築も、使ってなんぼのデザインも、手に持ってながめる浮世絵も美術館で見る(見せる)ものではないと思っている。でもこの「ドラえもん展」は、原画や映像を紹介するのではなく、いま活躍中のアーティストに「あなたのドラえもんをつくってください」と依頼して制作された作品を展示するもの。だからいわゆるマンガ展ではなく、現代美術展というべきだろう。
じつは同じ趣旨の「THEドラえもん展」は15年前にも開かれていて、それも見た覚えがある。たしか大阪のサントリーミュージアム天保山(閉館)だったような気がするので調べてみたら、サントリーミュージアムで見たのは故東谷隆司が手がけた「ガンダム展」(2005)で、「ドラえもん展」のほうは巡回先の横浜そごう美術館で見たのだった。「ドラえもん展」もサントリーミュージアムから立ち上がってるし、どちらもアーティストが参加した現代美術展なので勘違いしていた。ていうか、ぼくは世代が違うので、ガンダムだろうがドラえもんだろうがどっちでもよく、ただアーティストがサブカルチャーにどれほど影響を受けているのかを知りたくて見に行っただけなのだ。ちなみに前回展で強烈に覚えているのは、レンブラントの自画像とドラえもんを強引につなげた福田美蘭の作品。今回はこれと対になるように水墨画とドラえもんを結びつけた新作を描き、うれしいことに旧作と並べている。美術史への愛と冒涜をドラえもんを介して表現した2点。ほかに奈良美智、蜷川実花、村上隆、森村泰昌が前回に続いて2度目の出品となる。
初出品では、自主規制でしずかちゃんを描いた(いや描かなかった)会田誠、ドラえもんの彫刻をつくって表面にプロジェクションマッピングした西尾康之(このふたりは「ガンダム展」にも強烈な作品を出していた)、もっと下の世代では、走る鉄道模型で一瞬ドラえもんらしき影を映し出すクワクボリョウタ、巨大化したしずかちゃんを超リアルに描いた坂本友由、ひみつ道具をいかにもそれっぽく立体的に再現した伊藤航と、それを水墨画でリアルに描写した山口英紀のコラボレーション、黒板にチョークで「のび太の新魔界大冒険」の1シーンを描いたれなれななど、予想以上に力作がそろっている。前回はグラフィックや映像が多くてガキンチョが喜んでいたが、今回は絵画を中心にアート系が大半を占め、しかも技巧的に確かな作品が目立つ。これは同展を監修した山下裕二氏の力によるところが大きいだろう。ドラえもん世代でなくても十分に楽しめる展覧会になっている。
2017/10/31(火)(村田真)