artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

大西伸明個展「鏡を通り抜けて彼女は何をみたのか」

会期:2017/04/01~2017/04/29

MA2ギャラリー[東京都]

壁に大小の鏡が3点かかり、床には半割りの頭蓋骨と巨大な手が置かれている。鏡は鏡面も外枠(額縁)もブロンズ色の白銅製で、鏡面が少し前に出ているため、本物の鏡を型どりした鋳型であることがわかる。いわば「鏡を通り抜けて」振り返って見た状態か。頭蓋骨と手のほうはどちらも内側はメタリックな白銅で、外側は白く塗られている。本来は隠されている物体の内側を表として見せている(しかしよく磨かれているので反射する)わけだ。版画科出身の大西は「版」の概念を問題にしており、同じものを2点並べていた先日のギャラリー21yo-jでの個展が、「複製」や「複数性」をテーマにしていたとすれば、今回は「反転」や「表裏」がテーマになっているようだ。

2017/04/28(金)(村田真)

大西伸明「Infinity Gray」

会期:2017/04/01~2017/04/30

NADiff Window Gallery[東京都]

ナディッフのエントランス横の目立たない場所にも、大西の作品がひっそりと。ガソリンの缶や植物の枝の先端部だけ透き通っているもので、透明樹脂を用いた大西の代表的なシリーズだ。しかしこれはよく見なきゃスルーされるだろ。

2017/04/28(金)(村田真)

羽永光利一〇〇〇

会期:2017/04/28~2017/05/28

NADiff Gallery[東京都]

モノクロプリントが計200枚くらい、縦長の写真もすべて横にして展示してある。土方巽、ハイレッド・センターのハプニング、反戦デモ、ヤマギシ会、ダダカン、京大紛争、第10回東京ビエンナーレ、都知事選の秋山祐徳太子、「モナリザ展」に抗議する障害者たち、千円札裁判の赤瀬川原平、唐十郎と状況劇場など、60-70年代の肖像だ。この時代は政治も文化も一体化していたというか、陸続きだった気がする。左右がはっきりしていた比較的わかりやすい時代で、ある意味いまより戦いやすかったともいえる。これらの写真を収めた『羽永光利一〇〇〇』が一〇〇〇BUNKOから出版された。文庫版ながら千ページを超すオブジェだ。

2017/04/28(金)(村田真)

本田健展「ゆきつき」

会期:2017/04/01~2017/04/30

MEM[東京都]

本田は岩手県の遠野に住み、山野を歩き回ってその風景をチャコールペンシルで描き続けている。今回はタイトルのごとく雪景色や月明かりらしき光景もあり、ほとんど真っ黒な画面もある。ふつう鉛筆や木炭で描いたあとはフィクサティフ(定着液)をかけるもんだが、最近はよい状態を保つためにかけてないそうだ。そのせいか以前より白黒(明暗)のコントラストが強くなった気がする。

2017/04/28(金)(村田真)

石黒昭 大理石絵画

会期:2017/04/07~2017/05/06

ロコギャラリー[東京都]

ヨーロッパではしばしば建物の壁に大理石模様が描かれているのを見かける。一種のだまし絵なのだが、日本のトリックアート美術館の出し物とは違い、フェイクなのに堂々として恥じる様子がない。石黒はこの大理石模様を描く職人だったが、いまではそれを美術作品として制作している(それ以外の絵も描くが)。その「大理石絵画」は表面がツルツルのうえ模様が緻密に描かれているため、どう見ても大理石そのもの。今回はそんなリアルな大理石絵画に加え、大理石模様を抽象表現主義的に発展させた新作も発表している。これは美しい。たしかに大理石といわれれば大理石のようにも見えるが、しかし青、赤、緑とカラフルで、しかも霜降り肉のサシのように画面全体を覆う白い絵具が盛り上がっているので、本家本元の大理石から逸脱しようとしているようにも見えるのだ。これはもはや大理石のフェイクであることをやめ、「大理石絵画」という新たなジャンルとして自律しつつあるのかもしれない。

2017/04/28(金)(村田真)