artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

岡本太郎×建築展 ─衝突と協同のダイナミズム─

会期:2017/04/22~2017/07/02

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

岡本太郎と建築の接点は意外に多い。例えば坂倉準三とは、戦前パリで彼がル・コルビュジエに師事していたころから親交があり、戦後は青山の岡本邸を設計してもらっている。アントニン・レーモンドや磯崎新とも一緒に仕事をしたことがある。だが、太郎が火花の散るような関係を切り結んだ建築家といえば、丹下健三をおいてほかにいない。丹下とは旧東京都庁舎、東京オリンピックの国立代々木競技場、大阪万博のお祭り広場と、大きなプロジェクトだけでも3回コラボレーションしたが、いずれも丹下が設計し、太郎がアートを手がけた。
だいたい建築家とアーティストがコラボする場合、まず建物が先でそこにアートを入れ込むことが多いので、アーティストのほうが立場的に弱い。それに、アートを取り除いても建物は残るが、建物を取り壊したらアートも消えてしまう。建築>アートなのだ。そのことに太郎が自覚的だったかどうかは知らないが、最後の万博のときに立場を逆転させてしまう。先に丹下が設計した大屋根をぶち抜くかたちで太陽の塔をおっ立てたからだ。このことは太郎のリベンジ(それは建築に対するアートのリベンジともいえる)として、しばしばおもしろおかしく語られてきた。後日談として、約20年後に丹下が新宿の新都庁舎を設計したとき、太郎が呼ばれなかったのは丹下の再リベンジだという見方もある。まあそれはないだろうけど、同展は「衝突と協同のダイナミズム」と謳いながら、どうもそのへんがよくわからない。

2017/06/04(日)(村田真)

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第60回記念 新象展

会期:2017/05/29~2017/06/04

東京都美術館[東京都]

新象展を見るのはたぶん初めてのこと。会場はガランとしていて、見やすいったらありゃしない。作品は抽象が多く、いわゆるアンフォルメル風もあれば幾何学的抽象もあるし、レリーフ状や掛軸形式もあるのだが、日展に見られるような日常を描いた温和な具象画だけがないのが特徴か。その意味で、この会が始まった60年前、つまり「抽象」や「モダンアート」という言葉がまだまぶしく輝いて、希望に満ちていた50-60年代の時代相を色濃く残しているように見受けられる。出品は60回記念の旧作展示を含めて約240点。そのうちの一人だけ焦点を当てると、青木孝子はパースのかかった半抽象的な大作を出品。手前には荒々しい褐色の筆触を残し、奥には火や煙を思わせるオレンジ、白の絵具が伸びる。まるでドラクロワの《ナンシーの戦い》かなにか、遠望した合戦図のよう。その図に被せるように三角の線が引かれ、交点に緯度と経度を表わす記号と数字が並ぶ。これはタイトルから察するに東京とダマスカスの地球上の位置だろう。これも一種の戦争画か。都合のいいことに、特別展示として彼女の9年前の作品も出ているので比べてみると、地球規模のグローバルな視点、俯瞰する視点は変わっていない。

2017/06/01(木)(村田真)

鈴木のぞみ個展 Mirrors and Windows

会期:2017/05/22~2017/06/03

表参道画廊[東京都]

窓や鏡に焼きつけた写真を10点ほど展示。窓と鏡は外界を見透す、または写し出すことから、しばしば絵画や写真のたとえとして用いられてきた。鈴木はその窓と鏡に外界のイメージを定着させることで「たとえ」を固定化しようとする。窓ガラスには実際にその窓から見えた風景が焼きつけられ、手鏡にはそれを使っていた人物の顔、壁掛けの鏡には室内風景がプリントされる。窓や鏡が長年見続けてきた光景が、こうして永遠に焼きつけられたわけだ。窓ガラスの風景はニエプスの最初の写真を想起させ、鏡はダゲレオタイプの銀板を思い出させる。そして窓にも鏡にも枠(額縁)がはめられていることも偶然ではないだろう。絵画出身の作者らしい発想だ。

2017/05/31(水)(村田真)

裏声で歌へ

会期:2017/04/08~2017/06/18

小山市立車屋美術館[栃木県]

栃木県小山市に初めて足を踏み入れた。東北新幹線だと宇都宮駅のひとつ手前が小山駅だが、美術館は在来線で小山駅のひとつ手前の間々田駅になる。空っ風の吹きそうな殺風景な街だが、なぜか展覧会のポスターだけはあちこちに貼ってある。あんまり宣伝しがいのなさそうな展覧会なのにね。そもそもどんな展覧会なのかどこにも解説がなく、唯一手がかりになりそうなのが、カタログに一部転載されている丸谷才一の「裏声で歌へ君が代」という一文だ。それについてはあと回しにして、会場を一巡してみて、どうやら「声(音)」と「裏」に関する作品が選ばれていることはわかった。
大和田俊は石灰岩が溶けるかすかな声、國府理は水中のエンジン音を聞くインスタレーションで、加えて地元中学校の合唱コンクールの映像もある。本山ゆかりはアクリル板の裏から描いているし、五月女哲平は裏面はおろか側面も見えない窮屈なスペースに抽象画をはめ込んでいる(しかもタイトルは《聞こえる》)。もうひとつ、明治から昭和初期にかけてブームになった軍艦や戦闘機を描いた「戦争柄着物」が出ているが、これは羽裏や襦袢に描かれることが多かったからだけでなく、君が代は恋歌だったという先の丸谷の「裏話」にも通じるからかもしれない。ちなみに、大和田と五月女は地元出身で、地元中学校の合唱も含めて意外と地元愛が強い。街にポスターが貼られているのもうなずける。

2017/05/28(日)(村田真)

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MADSAKI 個展

会期:2017/05/19~2017/06/15

カイカイキキギャラリー[東京都]

大作が10点以上。いずれも着物をつっかけたヌードの女性がさまざまな姿態を見せている図。スプレーでざっくり描き、黒で輪郭をなぞり、液が滴り落ちている。目は黒のスプレーでプシュッ、プシュと吹いただけ、口は赤一線で鼻もないのに、妙にリアルに感じるのはなぜだろう。うまいからか? 写真に基づいているからか? モデルが嫁さんだからか? ぼくにはよくわからない。

2017/05/27(土)(村田真)