artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
第60回 表装・内装作品展
会期:2017/05/20~2017/05/27
東京都美術館[東京都]
昨年に引き続き「千人仏プロジェクト」を見に行く。これは東日本大震災の被災者に千体の仏画を木炭で描いてもらうという計画。昨年は930体余りだったが、昨秋ようやく千体を突破、表装した計1006体の仏画が床から天井まで埋め尽くすさまは圧巻。いちおうフォーマットが2パターンほどあるようだが、フォーマットどおりに忠実に描く者もいれば、サル顔やタヌキ顔に改変するヤツ、原型を留めないほど崩すヤツ、主催者の意図を忖度しない投げやりなヤツもいて、興味深いものがある。さて、これを今後どうするかが問題だ。
ところでこの「表装・内装展」、当然といえば当然ながら、大半の出品者は図(絵)より地(表装)を見せようとするのだが、なかには変わり種もいる。例えば石井三太夫は、床の間の大きな写真を壁に掛け、そのなかに清水の舞台を描いた掛軸を掛けるという二重構造の作品を出品。コンセプチュアルな掛軸の試みだ。また、小鍋篤志は「うんこ」の文字をとぐろを巻いたかたちの絵文字に仕立てて軸装している。タイトルもそのまま《うんこ》。勇気あるなあ。
2017/05/24(水)(村田真)
千一億光年トンネル
会期:2017/05/20~2017/08/06
ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション[東京都]
若手作家への支援なのか、コレクション展だけでは人が集まらないからなのか、理由はどうあれ、個人美術館が現代美術展を企画するようになったことは歓迎すべきだ。今回は奥村綱雄、Nerhol、水戸部七絵に浜口陽三を加えた4人展。奥村はビルの警備のかたわら、夜の守衛室で黙々と刺繍を制作しているという。さまざまな色を密集させた刺繍は縦横20センチ程度と小さいものの、仕上げるまでに1点1年以上かかり、これまで15点しか制作してない。そのうち7点を公開し、併せて守衛室で刺繍する自撮りポートレートや刺繍道具なども展示。Nerholは、少しずつ異なる木のかたまりを撮った「multiple-roadside tree」のシリーズが中心。これは街路樹の切り株をスライスして1枚1枚撮影し、プリントを重ねたもの。平面+奥行きに時間までも入れ込んだ4次元写真だ。水戸部は油絵具を鉄製パネルに大量に盛った半立体絵画。だが、あまりに重いため4点中3点は寝かせている。モチーフはすべて人体か顔。いずれの作品も時間の蓄積を感じさせ、それが「千一億光年」という大げさなタイトルになったんだと思う。
2017/05/24(水)(村田真)
C/Sensor-ed Scape
会期:2017/04/15~2017/05/28
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
昨年度TWSのレジデンス・プログラムに選ばれた8人のアーティストが、滞在・制作の成果を発表している。瀧健太郎は暗いギャラリーの窓際、壁、コーナーの3カ所に人物を映し出し、相互に接触がないのに偶然シンクロしてしまうという映像インスタレーション。これはよくできているし、おもしろい。バーゼルに滞在した村上華子は、知の流通(カレンシー)と通貨(カレンシー)の繁栄はライン川の流れ(カレント)があってこそと気づき、バーゼルの印象(インプレッション)を古い活字を用いて印刷(インプリント)するという、言葉遊びのような映像を上映。写真や印刷の考古学と翻訳の技能を持つ彼女ならではの作品。あとは省略。
2017/05/19(金)(村田真)
大英自然史博物館展
会期:2017/03/18~2017/06/11
国立科学博物館[東京都]
ロンドンの自然史博物館はぼくの好きなミュージアムのひとつ。動植物の装飾で飾られたロマネスク様式の建物といい、ディプロドクスの骨格標本が鎮座する中央ホールといい、昔ながらの古きよき博物館の面影をとどめているからだ。んが、今回の展覧会では残念ながら、そうした博物館の全盛期ともいうべき19世紀の香りが伝わってこない。出品は目玉の始祖鳥の化石をはじめ、さまざまな動植物の標本、オーデュボンの鳥類図譜、ベスビオ火山から採集した岩石、ダーウィンの『種の起原』手稿、日本への探検で発見された隕石など。それらが学者単位、探検単位で分類・展示されているのだが、ちっとも胸が躍らないのだ。それはおそらく出品物のせいではなく、会場が地球館と呼ばれるモダンな建物の貧相な地下空間だからではないか。ラスコーの洞窟壁画展なら地下でもいい、というより地下のがいいが、今回はそうはいかない。どうせなら、本家にはかなわないものの、築80年以上を誇るクラシックな日本館を会場にしてほしかった。
2017/05/12(金)(村田真)
只在此山中 廖震平
会期:2017/05/12~2017/05/28
トーキョーアーツ・ギャラリー[東京都]
廖震平はBankARTにスタジオを構える台湾出身のアーティスト。彼が描くのは写真に基づいた風景画だが、一見フォトリアリズム風の写実絵画に見えながら、どこかちょっと不自然なところがあり、CG画像のようにも見えなくはない。それは構図を決めるとき、画面を上下左右あるいは対角線で2分割したり、モチーフを左右対称に収めたり、建物や道路など人工物の幾何学形態と自然の曖昧な形態を交互に組み合わせたりするからだ。
今回は昨年、高野山と伊勢への旅の途中で撮った写真に基づいて描いたもの。例えばDMにも使われた絵は、手前に2本の木が並行して立っているが、その2本の隙間が画面を左右に2分割する中央線となる。また山の斜面は大ざっぱに左上から右下へ走っているが、その内側に左辺と下辺の中心を結ぶ斜線が見え、その内側が黒く塗りつぶされている。さらに目を凝らすと、遠方にかすかな稜線が見え、これが上下を2分割する中央線となっている。このように廖の作品はただ写真をなぞっているだけでなく、きわめて周到に構成されていることがわかる。
2017/05/12(金)(村田真)