artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

30周年記念 かいけつゾロリ大冒険展

会期:2017/04/26~2017/05/08

日本橋高島屋8階ホール[東京都]

かーちゃんの命により中2病の息子を科学館へ連れて行く予定が、地下鉄のホームで「かいけつゾロリ」のポスターを見つけてしまい、急遽行き先を変更。「ゾロリ」のシリーズは息子が小さいころ何冊か読み聞かせたので、とーちゃんも覚えている。とーちゃんは本当はテレビの「怪傑ゾロ」の世代だからな。あ、作者の原ゆたかも世代が近いからきっと「怪傑ゾロ」を見ていたに違いない。それにしても「ゾロリ」のシリーズ、子どもが思いつきそうなギャグやストーリー展開だなあと思っていたが、それを大人になっても連発できるというのはやはり才能というしかない。驚くのは、このシリーズ、書き始めて30年、計60冊も出ているという事実だ。親子2代にわたってお世話になった家族も多いだろう。年に2冊のペースで出し続けるというのは、それだけ売れている証拠。どんだけ儲けたんだ? とーちゃんはそっちのほうが気になる。展示は時代順に1冊ずつ、原画やストーリーにまつわるオブジェなどを並べたもの。さすがに60冊もあると見てるだけで疲れる。

2017/05/04(木)(村田真)

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アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国

会期:2017/04/29~2017/06/18

東京ステーションギャラリー[東京都]

ヘンリー・ダーガーと並ぶアウトサイダーアートの代表的画家。ダーガーが15,000ページを超す『非現実の王国で』を残したとすれば、ヴェルフリは25,000ページを超す作品を描いた。しかも余白を残さず画面を絵と記号で埋め尽くす密度の濃さ。この二人、貧しい家に生まれ、両親と早く離別(死別)するという共通点があるが、違うのは、ダーガーが10代から働きながら約60年間ひとり黙々と創作を続けたのに対し、ヴェルフリは31歳で精神科病院に入れられ、そこで絵を描き始め、以後30年にわたって描き続けたこと。その絵は女陰を思わせる紡錘形、円、格子縞、アルファベットや数字や音符などの記号、人の顔などがほぼ左右対称に新聞用紙の画面を埋め尽くすという、アウトサイダー・アートの典型を示している。初期には色がなかったり、後期には写真コラージュを用いるなど多少の変化は見られるものの、基本的なスタイルが生涯ほとんど変わらないのも特徴だ。余談だが、カタログをながめていたら、《偉大なる=王女殿下、偉大な=父なる=神=フローラ》と題する1枚に、ダーガーそっくりの少女像の写しがあった。もちろん彼はダーガーのことなど知るよしもない。
ヴェルフリといえば、かつて種村季弘あたりがゾンネンシュターンなどとともに「異端の芸術家」として紹介していたような記憶があるが、近年の評価の急上昇は驚くばかり。特にヴェルフリの故国では「スイスが生んだ偉大な芸術家」として美術史にその名が刻まれているという。なにせスイス連邦鉄道には彼の名を冠した「アドルフ・ヴェルフリ号」が走っているというから、日本なら新幹線に「山下清号」と命名するようなもんだ。そこまでやるか。

2017/05/03(水)(村田真)

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7つのトランスフォニー

会期:2017/04/22~2017/07/09

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

2015-16年にTWSレジデンスに滞在した海外のアーティスト7人による作品の発表。さまざまな人に、世界が意味をなさないと感じたときに口ずさむメロディをハミングしてもらい、それらを集めて音楽家にひとつの曲をつくってもらったミルナ・バーミアのビデオ・サウンドインスタレーション、東京の町を歩いているうちに疎外感を覚え、料亭のような和室でシャツを切り裂きボロボロにするエリック・シュミットの映像、テヘラン現代美術館に設置された《物質と精神(オイル・プール)》と題する作品への関心から、作者の原口典之をたずねていくシリン・サバヒの映像など。お手軽なのか、とにかく映像が多くて見ていてツライ。それぞれのテーマは悪くないと思うけど、視覚芸術なんだからもっと楽しませてくれよ。もっと網膜の奥まで刺激を与えてくれよ。

2017/04/30(日)(村田真)

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山岸俊之展[WHITE BIBLE]コトバをおくる

会期:2017/04/30~2017/05/07

ギャラリー水・土・木[東京都]

ギャラリーには正方形の桐箱が並び、そのなかに空(雲)の写真と、聖書からの引用を点字と活字で書いた紙が入っている。奥の和室は、畳が取り除かれて江戸期の和書を貼った板が敷きつめられ、その奥の棚にやはり点字訳した童謡20編が置かれている。近年の山岸の関心は聖書と点字にあるようだ。山岸によれば、12年前のクリスマスの日にふと入った教会で、盲目の司祭が点字を読みながら「はじめに、言(ことば)があった」と述べたのがきっかけだったという。以来、聖書と点字を勉強し、五島列島の教会やキリシタンの史跡を巡っているらしい。この日は山岸のトークがあり、以上のようなことを語ったのだが、最後に触れた「五島列島久賀島、牢屋の窄事件」が印象的だった。それは明治元年に約200人のキリシタンが捕まり、わずか6坪の土牢に閉じ込められて多数の死者を出したという悲惨な話なのだが、印象的だったのはその事件ではなく、山岸がその牢屋をたずねたとき、内部は見られなかったものの6坪を示す線を見て想像力を膨らませ、「そういうものをアートと呼びたい」と述べたことだ。実際に見なくても、少ない情報からイメージを膨らませることができるのがアートであり、それが盲目の司祭を通して点字と聖書につながっていったってわけ。なるほど。

2017/04/30(日)(村田真)

北参道オルタナティブ・ファイナル

会期:2017/04/08~2017/05/22

北参道オルタナティブ[東京都]

昨年12月、取り壊し予定の家屋を舞台にグループ展「北参道オルタナティブ」を開催。ところが取り壊しが延期されたため、「北参道オルタナティブ・ファイナル」として第2回目の開催となった模様。このまま取り壊しが延期されれば、どこかの「閉店セール」みたいにずるずると「ファイナル展2、3…」と続けていけるのではないか。なんてことは考えてないよね。もともとこの建物、アクリル絵具のリキテックスで知られる旧バニーコーポレーション(現バニーコルアート)の社屋だったらしい。どうりでチラシにリキテックスの広告が載ってるわけだ。参加作家は、阪本トクロウ、椛田ちひろ+有理、村上綾、角文平、原田郁、市川平、桑山彰彦ら16人。作品は、ファイナルと銘打ってるわりにおとなしく、壁に穴をあけたり床を抜いたり絵具をぶちまけたりする人はいなかった。まあやりたくてもできない大人の事情があるんだろう。てか、そういう空気を読めない人は最初から呼ばれないわけで。その結果、よくも悪くも踏み外した作品はなく、ほどよくまとまりのある展覧会になっていた。

2017/04/29(土)(村田真)