artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

開館記念展「未来への狼火」

会期:2017/04/26~2017/07/17

太田市美術館・図書館[群馬県]

ちょっと遠いし、規模も大きくなさそうだし、話題にもなってないけど、なんとなく美術館と図書館が一体化している点に惹かれて行ってみた。そもそも美術館(ミュージアム)の原型のひとつはミューズを祀る古代の神殿ムセイオンにあり、特に有名なアレクサンドリアのムセイオンは、美術館というより数十万巻の本を収めた図書館付きの研究センターみたいなものだったらしい。また初期のミュージアム、例えばロンドンの大英博物館にしろ、現在ドクメンタの主会場として知られるカッセルのフリデリチアヌム美術館にしろ、当初は美術館(博物館)と図書館の合体した施設だったというから、この2つは単に相性がいいというだけではない、それ以上の深いつながりがあるはずなのだ。
都内から東武伊勢崎線で約2時間は遠いが、駅のすぐ近くというのはありがたい。平田晃久設計の建物は、複雑な形をしているうえ屋上に植栽があるため、外からだとどんな構造なのかつかめない。中に入っていくと、どうやらいくつかの箱状の建物がガラス張りの外壁で囲まれた構造のようだ。大ざっぱにいうと、金沢21世紀美術館のかたちを崩して縦に伸ばした感じか。その箱が展示室になっていたり図書室になっていたり、また箱と箱との間の通路にも美術書や絵本が満載の本棚が並んでいたりする。そして外壁に沿ってスロープがあり、昇っていくと2階の中央に出る。そこに螺旋階段があって3階へと続く。つまり螺旋状に上昇していく仕掛けだ。これはひょっとして、つい先日見た「バベルの塔」の縮小版? いや、ボルヘスに倣えば「バベルの図書館」か? 規模こそ小さいものの、迷宮好きには魅惑的な建築だ。こんな美術館・図書館が子供のころ家の近くにできたらさぞかし喜んだだろうなあ、太田市民がうらやましい。あえて難をいえば、本にとっても迷宮好きにとっても明るすぎることか。
さて、その美術館スペースで開館記念として開かれているのが「未来への狼火」。出品は、太田市内で採取した土を使って壁に泥絵を描く淺井裕介、写真家で隣の桐生市出身の石内都、太田市で育ったアーティストの片山真理、太田市出身の詩人で朔太郎とも親交のあった清水房之丞、前橋市出身で太田市をパノラマ風に描く藤原泰佑ら9人。いずれも太田市か群馬県とゆかりがあるか、その土地に関係する作品をつくる作家ばかり。こういう開館記念展ではしばしば地元で知られたローカルな作家と、全国区または国際的に活躍するグローバルな作家が同居することになり、評価基準がチグハグになりがちだが、なぜか今回そんな齟齬はあまり感じなかった。もとより小規模な展覧会なので各作家の紹介が限られていることもあるが、それ以外にも、展示室が3つに分かれているため、その間の厖大な図書をながめ、時に立ち読みし、再び作品を見ることになり、いい具合に気が散るからではないか。もちろんこれは美術館としては問題だが、ここは「美術館・図書館」であり、美術作品に集中できないことを前提として展覧会を鑑賞するべきなのだ。そういう意味ではこれまでにない展覧会が生まれるかもしれない。

2017/04/24(月)(村田真)

フランス絵画の宝庫 ランス美術館展

会期:2017/04/22~2017/06/25

東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館[東京都]

パリ東部に位置するシャンパーニュ地方の最大都市ランスの美術館から、17-20世紀の絵画を借りてきたもの。シェイクスピア劇を絵画化した画中劇ともいうべきドラクロワの《ポロニウスの亡骸を前にするハムレット》と、同じくシェイクスピア劇に取材したシャセリオーの《バンクォーの亡霊》は、どちらも小さいながら佳品だ。驚いたのは、革命期に描かれたダヴィッドによる《マラーの死》がひっそりと展示されてること。でもこれは再制作のひとつで、オリジナルはベルギーにあるという。そして最後のセクションに展示されているのが、レオナール・フジタの作品の数々。フジタは晩年ランスにノートルダム・ド・ラ・ペ礼拝堂を建立して内壁を飾り、死後この礼拝堂に夫人とともに(40年以上の時差はあるが)埋葬された。その縁で、フジタの旧蔵作品や資料など2千点余りがランス美術館に寄贈されたというわけ。1920-30年代の作品もあるが、大半は戦後、それも最晩年の礼拝堂を飾る壁画のための素描や習作で占められている。それらには聖性も崇高さも感じられず、ただキッチュでグロテスクなばかりだが、なにがあろうと筆を折らず最後まで描き続けた点は見事というほかない。

2017/04/21(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00039638.json s 10135531

ファッションとアート 麗しき東西交流

会期:2017/04/15~2017/06/25

横浜美術館[神奈川県]

なぜ横浜美術館で「ファッション」なんだろうと頭に「?」を掲げつつ、会場を一巡して「ああそうか」と納得。ファッションとは洋装のことで、幕末に開港した横浜が西洋文化の窓口として「洋服」を採り入れていったからなのだ。といってもみんなすぐに洋服に着替えるわけでもなく、揺り戻しや和洋折衷があったりして、定着するには長い年月が必要だった。だからサブタイトルに「東西交流」の文字が入っているのだ。でもそれをいえば「食とアート」でも「住とアート」でもよかったはずだが、まあ展覧会として見栄えがするのはなんといってもファッションだからね。そんなわけで、展示は幕末の横浜浮世絵から明治初期の日本製洋服(早くも輸出用!)、洋装の肖像画、鏑木清方の美人画、アクセサリーや陶芸、調度品、そして東西交流のツボともいえるファッションに現われたジャポニスムまで、広範囲にわたっている。キモノの型や柄を採り入れたジャポニスムファッションなどは、いま流行してもおかしくないほどハマってる。ハマだからね。

2017/04/14(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00039184.json s 10135534

横浜美術館コレクション展 自然を映す

会期:2017/03/25~2017/06/25

横浜美術館[神奈川県]

ファッションを堪能したあとで、こんどは自然。このギャップが快い。セザンヌの風景画あたりから始まるが、次に来る日本の近代絵画がすべからく西洋の猿真似に見えてしまうのが悲しいところ。と思ったら、チラシにも使われている丸山晩霞や大下藤次郎の清新な水彩画に救われた。日本人はやはり油より水に親和性があるのだろうか、と短絡してみるのも一興かと。

2017/04/14(金)(村田真)

ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝─ボスを超えて─

会期:2017/04/18~2017/07/02

東京都美術館[東京都]

ブリューゲルの《バベルの塔》が来る。もちろん1点だけではなく、ロッテルダムのボイマンス美術館から16世紀を中心とするネーデルラントの絵画、彫刻、版画89点が来るのだが、こういうタイトルだとそれ以外の作品が前座みたいでちょっと哀しい。最初は彩色木彫の聖人たちが並んでいて面食らう。その後、ディーリク・バウツやヘラルト・ダーフィットらの生硬な宗教画が続き、やや眠くなってくるが、ヨアヒム・パティニールの不穏な空気を漂わせる風景画で目が覚め、ボスの謎解きみたいな《放浪者(行商人)》と《聖クリストフォロス》の2点で立ち止まり、版画はサーッと横目で見ながら通りすぎて、ようやく真打ちの《バベルの塔》にたどりつく仕掛け。絵を拡大したディスプレイの向こうに鎮座するホンモノを見て、だれもが思うのは「こんなに小さいの!?」。縦60センチ、横75センチだから20号程度なので、実際はそんなにちっちゃいわけではないけど、なにせ壮大な建造物をこと細かに描き込んであるものだから、つい大作をイメージしてしまうのだ。拡大写真もあるけど、せっかくホンモノが来ているんだから、ここはやはり単眼鏡を持参してじっくり堪能したい。

2017/04/14(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00039205.json s 10135532