artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

尾花賢一「In the night time」

会期:2015/11/07~2015/12/05

ギャラリーMoMo Projects[東京都]

彩色した木彫。KKKみたいな先の尖った覆面をかぶった男がテレビを見てたり、自動車の横にたたずんでいたり、タイマツを掲げていたり、ベッドの脇にひざまずいていたりする「状況彫刻」。もちろんテレビも自動車もタイマツの炎も木彫で、ベッドのシーツにはシミまでついてたりしてマヌケ感が漂う。いったいこの覆面男なにものか? 首から下はごくフツーの服装なのでよけい違和感がある。そうか、これらは本性を隠した一般ピープルの肖像か。

2015/11/11(水)(村田真)

チェン・ウェイ「ナイト・パリ」

会期:2015/10/17~2015/11/28

オオタファインアーツ[東京都]

「夜巴黎」というネオンサインが妖しげに輝くナイトクラブ、みたいな場末の都市を写した風景写真。のように見えるが、すべてつくりものだという。この1枚の写真を撮るためにわざわざネオンサインをつくり、路上を濡らして雨上がりのように見せかけたのだ。このようにホンモノそっくりにつくったモデルを撮影するのは、トーマス・デマンドをはじめ最近よくある手法だが、でもニセモノでしたジャンジャンで終わらせるのではもちろんなく、そこに西洋への憧れや都市問題など現代の中国社会の抱える矛盾を表現するのが目的なのだ。ただ中国社会の矛盾を本気で突こうとしているかといえばそうでもなく、そこは体のいいアート作品にとどまっている。

2015/11/11(水)(村田真)

ゲルハルト・リヒター「ペインティング」

会期:2015/11/10~2015/12/19

ワコウ・ワークス・オブ・アート[東京都]

タイトルは「ペインティング」。もちろん作品もペインティング。もう明解。絵具を何層にも重ね、スキージで擦った鮮烈な「アブストラクト・ペインティング」シリーズ8点を中心に、ガラスにラッカーで描いた「アラジン」シリーズ、スナップ写真に絵具を擦りつけた「オーバー・ペインティッド・フォト」シリーズなど。この「オーバー・ペインテッド・フォト」には瀬戸内海の風景が写ってる写真もあるが、これは2011年に豊島(豊島美術館のある「てしま」ではなく、愛媛県の「とよしま」)を訪れたときのスナップショット。豊島に新作《14枚のガラス》を見るだけの美術館(と呼ぶべきか?)を建設中で、来春公開予定だという。ただ14枚のガラスを見るためにどれだけの人が島を訪れるか、アートの力をためす試みといえる。

2015/11/11(水)(村田真)

ψ history(プサイ・ヒストリー)

会期:2015/11/06~2015/11/15

Chapter 2[神奈川県]

松澤宥の作品資料やパフォーマンスなどの記録写真の展示。現代詩手帖とか芸術倶楽部とか70年代の懐かしい雑誌もあるし、瀧口修造のデカルコマニーも展示されている。いま世界的に日本の50-60年代の前衛芸術が再評価されているが、松澤の作品も高騰しているらしい。見る人が見ればお宝満載の展覧会。

2015/11/09(月)(村田真)

没後100年 五姓田義松──最後の天才

会期:2015/09/19~2015/11/08

神奈川県立歴史博物館[神奈川県]

数日前に行こうと思ってHPを見たら、カタログが売り切れたため増刷中で、6日の午後1時に納品されるとのことだったので今日にする。まさかみんな同じことを考えていたわけではないだろうけど、今日は平日なのにけっこう混んでいる。五姓田義松のような埋もれた画家の回顧展にこんなに人が入り、地味なカタログがこんなに売れるなんて、主催者も思っていなかったはず。日曜美術館で紹介されたのも大きいけれど、従来の近代美術史ではすくいきれなかった日陰の部分に関心が向いている証ではないか。日陰とは義松の場合、前後に高橋由一と黒田清輝という二つの太陽があって、油絵の先駆者というには由一に及ばず、黒田の持ち込んだ近代絵画には乗り遅れてしまったという端境期を生きざるをえなかったがゆえの日陰だ。絵のうまさからいえば両巨匠よりも明らかに才能豊かだから、本人も歯がゆかったに違いない。ちなみにタイトルにある「最後の天才」とは、再現描写能力において最後ということらしいが、由一が決して天才肌ではなかったことを考えれば「最初で最後の天才」でもよかったと思う。出品作品は、巻末の目録を見るとなんと636点。といっても大半はスケッチだが、それにしても決定版といっていいだろう。画材も油彩、水彩、鉛筆、石版画と多岐にわたり、とにかくなんでも描いている。父の五姓田芳柳をはじめとする家族の肖像、横浜界隈の風景画、身近な情景を描いた風俗画、皇室に求められた風景画や肖像画、《操芝居》などのパリ滞在時の作品、日清・日露戦争図など。いちばん気に入ったのは10人以上の裸の女が登場する《銭湯》。アングルと横尾忠則を足して2で割ったような異様な絵だ。これも含めて、明治時代の日本の風景や風俗の記録としても貴重だろう。

2015/11/06(金)(村田真)

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