artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
リボーンアート・フェスティバル2017 その4(鮎川エリア)
会期:2017/07/22~2017/09/10
宮城県石巻市ほか[宮城県]
半島先端の鮎川エリアでは、金華山を望む展望台の草間作品に寄って、お寺にある岩井優の作品へ。半島で投棄されたものを集めて、ドーム群にかけるのだが、廃品はもちろん、殺された鹿の死骸や皮があちこちに。しかも頭だけ残った骨格や脚の断片などである。時間をかけて制作した凄みがにじみ出るが、他の芸術祭では実現しづらい作品だろう。コバルト荘跡地には、宮島達男と増田セバスチャンがある。前者はおなじみのデジタル・カウンター群だが、風景に開く試みに挑戦する。今後も発展する予定であり、現状が完成形ではないが、侵入する外光の調整が難しそうだった。後者は浜に降りる途中に、あっけにとられるようなかわいい要素に埋め尽くされたツリーハウスをつくる。幸い快晴だったが、雨の日の半島無鑑賞は辛そうだ。結局、時間切れで街に引き返したが、評判がよかった島袋道浩、パルコ木下、コンタクト・ゴンゾらの作品を見逃した。
写真:上2枚=岩井優《ダンパリウム》 中2枚=宮島達男《時の海-東北》 下2枚=増田セバスチャン《あっちとこっち #東北》
2017/07/26(水)(五十嵐太郎)
リボーンアート・フェスティバル2017 その5(石巻市街地)
会期:2017/07/22~2017/09/10
宮城県石巻市ほか[宮城県]
市街地に戻り、つい1カ月前まで営業していたポルノ映画館を舞台にしたカオス*ラウンジとハスラー・アキラの作品へ。劇場の歴史や津波の記憶に迫る力業の空間インスタレーションやVR体験もあるが、一瞬どこまでオリジナルでどこまでが介入した作品かわからない部分も興味深く、作家との相性がよい会場である。最後は19時を待って、中瀬のカールステン・ニコライの作品へ。レザーを宙に向かって放ち、細い糸のような線がどこまでも高く高く伸びていくような視覚体験だった。まわりでは普通に釣りをしている人も多く、リボーンを認識していない彼らからは宇宙と交信し、UFOを呼び寄せていると思われたかもしれない。もっとも、石巻の市街地では驚くほど数多くのリボーンの幟やポスターがあって、大都市・名古屋でいくらあいちトリエンナーレががんばっても、この密度感は出せないだろう。音楽フェスからアートに人が流れるか(暑いのに無理して多く体験するのは似ているが)、今後の継続開催など、行方と展開が興味深い。
写真:上4枚=カオス*ラウンジ《地球をしばらく止めてくれ、ぼくはゆっくり映画をみたい。》、ハスラー・アキラ《私たちは互いの勇気になろう》 下2枚=カールステン・ニコライ《石巻のためのstring(糸)》
2017/07/26(水)(五十嵐太郎)
《米沢図書館・よねざわ市民ギャラリー》
[山形県]
山形の米沢市にて、山下設計による《米沢図書館・よねざわ市民ギャラリー》を見学する。道路からはセットバックしたヴォリュームゆえに、あまり大きさを感じないが、内部に入り、階段を上がると、四面の壁が天井まで本棚になった明るい大吹抜け空間が出現する。ここが見せ場である。逆に閉架は、博物館の仕様によって貴重古書を収蔵していた。なお、地上階はフレキシブルに使えるギャラリーとしてフルに活用されている。
2017/07/25(火)(五十嵐太郎)
米沢藩主上杉家墓所
[山形県]
米沢藩主上杉家墓所へ。ずらりと10以上の入母屋の霊廟が、横一列に並ぶ構成は、シンプルだが、見たことがない(ただし、両サイドは宝形造)。ひとつひとつは決して大きくないが、群のつくり方によって強烈なイメージを与える。どこかで見たイメージだと思ったら、3.11の後、宮本佳明が原発神社プロジェクトを説明するときに参照していたからだ。まさにおそるべきものを鎮める聖なる場である。
2017/07/25(火)(五十嵐太郎)
上杉神社
[山形県]
続いて米沢出身の伊東忠太の関わった建築へ。上杉神社の本殿は、大火で焼けた後、彼の設計によって再建したという。隣のRC造の稽照殿に入ると、バッファーなしで、いきなり天井が高い展示空間となる。この空間のプロポーションは外観から決定しているようだ。現在、背後に連結した収蔵庫も展示に使われており、なんとも不思議な空間になっている。山形県の大聖寺の文殊堂も、改築で忠太が関わったらしい。合格祈願で知られ、あちこちにぺたぺたと習字などが公式に張られ、堂後部の壁をほとんど埋め尽くしている! 室内をのぞくと、金色(?)の格天井と赤い斗供がからみあうダイナミックな空間だった。
写真:上=《上杉神社本殿》 左上=《稽照殿》 右下3枚=《大聖寺文殊堂》
2017/07/25(火)(五十嵐太郎)