artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

大漁居酒屋てっちゃん

[北海道]

札幌国際芸術際の展示にもなっている大漁居酒屋てっちゃんのお店に入る。ほぼ満席の状態で、あいにく名物の刺身は品切れだったが、それよりもエレベータを降ると、いきなり店内になっていること、そして壁と天井を余白なしに埋め尽くす昭和のグッズに圧倒される。座る場所を浸食しない程度には床もモノが放置(?)され、なぜかトイレには生きた魚の水槽がある。やはりビルで見た展示写真よりも、実物の空間が凄い。

2017/08/17(木)(五十嵐太郎)

《旧三井銀行小樽支店》《市立小樽美術館》

[北海道]

小樽を再訪した。前回は吹雪くなかの見学で、かなり視界がさえぎられたが、今回はちゃんと建物のファサードを見ることができた。ニトリ小樽芸術村のプロジェクトで修復された《旧三井銀行小樽支店》の内部が新しく見学可能になっている。当時の詳細図面、工事写真、ボーリング調査など、建築的には素晴らしい展示だった。しかし、一般の人にとって700円は高いと思われるかもしれない。小樽は明治から昭和初期の様式建築で有名だが、《市立小樽美術館》は小坂秀雄が手がけたほれぼれするような郵便モダニズムである。ここでつとめた後にアーティストになった一原有徳の展示と夕張の企画展を見る。後者は見たばかりの夕張の駅やダムの風景ほか、街に触発された現代美術を紹介しており、面白い内容だったが、残念ながらこのカタログは制作していないということだった。

写真:上から《旧三井銀行小樽支店》《市立小樽美術館》

2017/08/17(木)(五十嵐太郎)

札幌国際芸術際2017 その3

[北海道]

札幌国際芸術際の芸術の森エリアへ。美術館は、入り口に刀根康尚の視覚詩インスタレーションや中庭に鈴木昭男の聴く場所群はあるものの、ほぼクリスチャン・マークレーの個展だった。楽器としてのレコード、リサイクル、道ばたのゴミによるアニメーション、そして大友良英らとの競演の記録などをうまく見せるなあと感心する。工芸館は、ボアダムスの∈Y∋による闇の中の光の海のインスタレーションだった。1時間見せるたびに、メンテナンスで1時間クローズする不思議な形式は、実物を見ると、ああこういうことかと納得した。これは巧拙で判断するタイプの作品ではない。制作への執念のエモーションに包まれるような空間の体験だった。有島武郎旧邸では、鈴木昭男による点音のアーカイブを展示する。音のアーティストでかためた芸術の森エリアは、ガラクタ系アートと同様、芸術監督の大友色がよく出ている。なお、この建物は3度目の訪問だが、洋風の外観と内部の和風のギャップの激しいのが興味深い。屋根や窓の収まりにそのしわ寄せがきているのだが、当初の離れた部屋に声を伝える仕組みも室内に残っている。また札幌市立大学の清家清が設計した建物では、空中ブリッジを使い、毛利悠子がサウンド・インスタレーションを展開していた。前回のSIAFのとき、彼女は清華亭の和室で細やかな作品だったが、今回は眺望がよい、長い空間をいかしてダイナミックなスケールで介入を行なう。ただ、ルートが一方通行を指定されているため、まず最初に坂道を登るのがちょっとしんどい。

写真:上から、芸術の森エリア、有島武郎旧邸、鈴木昭男、毛利悠子

2017/08/16(水)(五十嵐太郎)

札幌国際芸術際2017 その4

[北海道]

都心に戻り、再びまちなか展示をめぐる。CAI02では、クワクボらの札幌ブルーラインとさわひらきの過去作の展示を行なう。前者は、これまでのような日用品の集合ではなく、ベタに札幌のランドマークのミニチュアを置き、やたらノスタルジックな音楽を流している。大衆受けはすると思うけど、これではさすがに作品としては後退しているのではないか。またガラクタに注目する芸術祭の趣旨とも違う。金市館ビルの梅田哲也の展示は、上部が空っぽになったデパートのワンフロアをまるごと使い、あいちトリエンナーレの岡崎や豊橋の会場に近い雰囲気だ。おそらくカプセル状の円窓に触発され、球をモチーフにしつつ、ガラクタがメカニカルに連動するインスタレーションである。音響の発生とガラクタの再利用という意味において、今回の札幌芸術際らしさが最もよく出ていると思う。北海道教育大の文化複合施設HUGにて、さわひらきが北海道で制作した新作の映像とインスタレーションを見る。この会場も探すのにえらく苦労した。公式ガイドの粗い地図と鑑賞ガイドと住所一覧をつき合わせても、札幌の一街区は大きいので、結局、近くに来るとしばらく迷う。これは正確に場所をプロットした適度な縮尺の地図がひとつちゃんと用意してさえあれば、解決することなのに。駅前で「サッポロ発のグラフィックデザイン~栗谷川健一から初音ミクまで」展を見る。デザインから切り取る札幌の歴史であり、五陵星や七陵星などのシンボル、オリンピックなど内容は興味深い。札幌の建築もここで少し紹介している。ただ、会場を「プラニスホール」と地図で書かれても、たどりつくのに苦労する。なぜなら、この名称は11階の部分のみを示すものであって、建物全体の名称ではないからだ。地元の人にとっては常識なのかもしれないが、少なくともタクシーの運転手はわからなかった。

写真:上から、札幌ブルーライン、梅田哲也、北海道教育大の文化複合施設HUG

2017/08/16(水)(五十嵐太郎)

札幌国際芸術際2017 その1

[北海道]

札幌国際芸術際2017は、前回とは違って、ビルの空きフロアを活用した街なか展示が増えたのはよいのだが、きちんとしたマップがないために(公式ガイド本もいらいらする内容)、各会場をまわるのに苦労する。まず前回も会場だった札幌市資料館からスタート。ここの三至宝は素晴らしかった。いずれもアーティストの作品ではなく、郵便局長が描いた昭和新山の火山画、実はスイスの発祥らしい木彫り熊コレクション、そして赤平住友炭鉱の資料展示である。特に巨大な坑内模式図は見たことがない複雑さで、美しい図面だった(リベスキンドのマイクロメガスよりカッコいいのでは)。

写真:上から、札幌市資料館、木彫り熊コレクション、坑内模式図

2017/08/15(火)(五十嵐太郎)