artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

東アジア文化都市2017京都 アジア回廊 現代美術展

会期:2017/08/19~2017/10/15

二条城・京都芸術センター[京都府]

東アジア文化都市2017京都の「アジア回廊 現代美術展」をまわる。京都芸術センターの会場では、建築に介入する今村源、堀尾貞治。ヤン・フードン、ルー・ヤンは迫力の映像、中村裕太はホコラのリサーチである。特に中原浩大の幼少時や小中高の作品群が膨大にあって驚かされる。二条城の会場は、まずチェ・ジョンファの作品が点在していた。そして東南隅櫓に久門剛史の揺れる作品、台所では谷澤紗和子、ヒスロム、西京人ら。庭には蔡国強の迫力のインスタレーションを置く。日本において、文化財にこれだけ現代アートを絡ませたのはめずらしいだろう。へ・シャンユのアンフォルムな作品には、ニヤリとさせられる。このエリアは広域に作品が点在し、かなり歩く。もっとも、ここで一番すごいのは、やはり二条城の御殿そのものの建築と室内画だった。おかげで久しぶりに内部空間を体験したが、記憶していたよりも、かなり装飾が多い。そして解説の文章も、空間と絵画の関係への言及が増えたように思う。なお、外周廊下の格天井や壁画は、明治期に天皇が使うようになって権威づけに足されたものである。

写真:左上から=堀尾貞治+現場芸術集団「空気」、ルー・ヤン、中原浩大、チェ・ジョンファ、久門剛史 右上から=谷澤紗和子、蔡国強、へ・シャンユ、二条城(2枚)

2017/08/26(土)(五十嵐太郎)

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徳正寺《矩庵》

[京都府]

京都の徳正寺を訪問した。住居部分の奥、庭の隅に持ち上げられた藤森照信の《矩庵》がある。もともと外の便所があったところで、阪神淡路の震災で壊れ、それを契機に藤森にとって初の独立茶室がつくられた。いまでこそ、彼は数多くの茶室を手がけているが、これ以前は《ニラハウス》の内部のロフトにある茶室しかなく、これが初めての独立した茶室建築となった。大きな開口や椅子の導入など、藤森茶室の原則が最初からもう採用されている。なお、施主は縄文建築集団のメンバーでもある。

2017/08/26(土)(五十嵐太郎)

杉戸洋 とんぼ と のりしろ

会期:2017/07/25~2017/10/09

東京都美術館 ギャラリーA・B・C[東京都]

画家なのだけど、ただ絵を展示するのではなく、あいちトリエンナーレ2013での名古屋市美術館、宮城県立美術館、豊田市美術館に続いて、今回も建築空間そのものを批評的に読みとくインスタレーションである。すなわち、図と地が反転するような仕掛けであり、必然的に何度も見ていたはずの前川國男による建築のテクスチャーを改めてじっくり観察し、ディテールを再発見するきっかけになった。

2017/08/19(土)(五十嵐太郎)

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《真駒内滝野霊園の頭大仏》

[北海道]

札幌国際芸術際を離脱し、見ておきたかった場所をめぐる。まず《真駒内滝野霊園の頭大仏》へ。これは安藤忠雄がデザインしたランドスケープであり、ラベンダーの丘を2つに切断する中心軸を進み、直交する水庭(両サイドにロトンダを置く)を過ぎると、今度はトンネルをくぐって、最後に大仏を見上げる。なかなか普通の建築の仕事で、ここまでアプローチのためのランドスケープをつくることはできないので、地方都市の霊園ならでは、というか建築家冥利のプロジェクトだ。ただし、おそらく都築響一の「ロードサイド・ジャパン」で紹介していた霊園の入口に並ぶモアイ像の群やストーンヘンジの実物大(?)レプリカは、なかなかにキッチュな風景で唖然とする。大仏が古い時代のものだと勘違いして訪れていたイタリア人の集団がいたけれど、彼らもびっくりしていたようだ。

2017/08/17(木)(五十嵐太郎)

夕張 石炭博物館

[北海道]

前々から訪れたかった夕張へ。近代の炭鉱産業で栄えた後、国策変更で衰退し、今度は観光に舵をきり、バブル期のポストモダン・テーマパークなどの事業で失敗した。そして財政破綻し、過疎化が加速する地方自治体は、日本の未来を考えるうえで重要だと思われるからだ。北海道のガイド本を調べても、夕張をまったく紹介しておらず、ネット上でしか情報が得られない。実際、めろん城や石炭村は廃止しており、夕張鹿鳴館は休館、図書館、体育館、雪で屋根がつぶれた美術館はすでに稼働停止だった。学校は閉鎖・統合し、あちこちに空き屋と廃墟を見かける風景は、なるほど普通の観光にはならない。そして無人の夕張駅(喫茶店の裏にホームがある)は来年に廃線となるらしい。街はファンタスティック映画祭ゆえ、映画のポスターの絵をちらほら見かけるが、ほとんど人通りはなく、ゴーストタウンのようだ。夕張で目撃した風景は、福島の放射線量が高いエリアを代表とする東北の被災地ともよく似ている。もちろん、自然災害や原発事故が引き起こしたものではないが、行政や民間事業の失敗がこれだけ重なると、人為的な災害というべき結果をもたらし、人口は最盛期の1960年代に比べると、もう1/10以下まで減少している。かろうじて営業していた施設として、石炭博物館が挙げられる。ただし、本館は改装中(?)で入れず、チケットの販売だけを対応し、別棟の模擬坑道のみを見学できる。地下にもぐって炭鉱の空間をリアルに体験するのは面白いが、スタッフがまったくいない(入り口にいると思ったら人形だった)長い地下空間であり、ほかの観光客が全然いない状況で歩くのはけっこう怖い。また幸福の黄色いハンカチ想い出ひろばは、同名のロードムービーのラストシーンのロケ地現場であり、ここは往年のファンがぱらぱらと訪れていた。黄色い手紙が壁中にはられた部屋は、越後妻有などで出会うアート作品のよう。が、1977年の映画を懐かしめるファンはもうすでに高齢化しており、10年、20年後の集客は厳しいかもしれない。最後に夕張で立ち寄った清水沢のダムとそこから眺めた足下の風景、また向かいの旧北炭清水沢火力発電所のカッコいいことに感心させられた。雨が降るなか目撃したせいか、ほとんど映画や物語の世界のようだ。また発電所の背後に、だいぶ古い住宅団地がまるごと残っている。が、一部プレハブ住宅に住み替えが行なわれていた。

写真:上から、教習所、黄色い手紙の部屋、模擬坑道、旧北炭清水沢火力発電所

2017/08/17(木)(五十嵐太郎)