artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
《弘前市斎場》《黒石ほるぷ子ども館》
[青森県]
青森の建築家、佐々木弘男の案内でいくつかの建築をまわる。まず弘前でまだ訪れていなかった前川國男の斎場へ。ちょうど使われている最中で、あいにく内部は見学できないタイミングだったが、正面の車寄せから奥に向かって伸びる大屋根をもつ、火葬棟の外観がシンボリックである。内部についてはまた別の機会に。ともあれ、モダニズムの前川建築としては、めずらしく宗教的な象徴性をおびた表情かもしれない。また陸屋根の待合棟とつなぐガラスの渡り廊下と周囲の庭も印象的だった。
続いて、菊竹清訓が設計した《黒石ほるぷ子ども館》へ。これも休日のために、閉館中であり、窓から内部をのぞくことになった。単純な切妻の屋根をもち、ほとんど住宅の規模で小さいけれど、メタボリズム的なシステマチックなデザインを試みた木造建築は好感がもてる。子供図書館ゆえの遊び心のある細部の工夫も効いている。後期の菊竹建築はやや大味という印象だが、これは繊細さが感じられる。また近くに興味深い温泉建築もあった。
写真:左上3枚=《弘前市斎場》 右下3枚=《黒石ほるぷ子ども館》
2017/08/06(日)(五十嵐太郎)
《康楽館》《立佞武多の館》
[秋田県]
秋田の小坂町に入り、明治時代の康楽館へ。これまでにも類似した芝居小屋はいくつか見学したが、外観が和洋折衷のタイプは初めてかもしれない。が、なによりも30年前に補修した後、毎日、芝居を上演し、生きた施設として活用していることに驚く。これはかつて鉱山の厚生施設だったが、その繁栄ぶりが想像できる。なお、近くに移築した3階建て、中央に螺旋階段をもつ洋風建築、小坂鉱山事務所も関連施設だった。
五所川原の立佞武多の館へ。80年ぶりに復元し、復活した巨大なねぷたの祭のための展示施設である。なるほど、立ち姿のねぷたが20m超えなので、本当にデカイ! 大阪万博のときのデメよりも大きく、5階建てのビルが動くかのように街に出撃するのだろう。この施設は最初にエレベータで最上部まで上がり、螺旋スロープでねぷたのまわりをぐるぐると降りる。出動時は跳ね橋のように、スロープの一部が途切れ、大きな壁が開き、3体が外に向う。まるでロボットの秘密基地ではないか。
写真:上3枚=《康楽館》 下2段目2枚=《小坂鉱山事務所》 下2枚=《立佞武多の館》
2017/08/06(日)(五十嵐太郎)
ねぷた祭
[青森県]
平川の新市庁舎コンペの審査後、弘前に移動し、ねぷた祭を見たが、初めての経験である。まず驚かされるのは、歩道で場所とりを行ない、勝手に椅子を置き、市民が観覧している公共空間の使い倒し方だった。ねぷたのパレードは車道を使うわけだが、歩道を占拠し、観客席に変容させるプログラムの書き換えである。そしてヤンキー魂溢れる、ねぷた群のダイナミックな可動デザインは、まさにヤンキーバロックだ。下手な現代美術よりも迫力があり、しかも圧倒的な大衆性を獲得している。
2017/08/05(土)(五十嵐太郎)
日本の家 1945年以降の建築と暮らし
会期:2017/07/19~2017/10/29
東京国立近代美術館[東京都]
最初の3セクションの密度が異様に高く、このテンションで最後まで突っ走るなら、最高傑作の展覧会ではないか! と思いきや、4番目の「住宅は芸術である」で転調し、後半は原寸で再現された清家清の住宅を中心に、むしろ華やかでポップな展開となった。企画の監修に塚本由晴が入ったからだと思われるが、「日本の家」というニュートラルなタイトルな割には、東工大の建築家の系譜を強く感じる。実際に数えてみたが、建築家も作品数も多い。またキャプションの解説なしの作品が多いので、初心者は予習が必要かもしれない。
2017/07/30(日)(五十嵐太郎)
「ひろしま瀬戸内から始まる学校建築」展 トークイベント
会期:2017/07/29~2017/08/02
ヒルサイドテラス[東京都]
「ひろしま瀬戸内から始まる学校建築」展/宇野享CAn×土井一秀×内藤廣×五十嵐トークイベント@ヒルサイドテラス。現在、広島の県知事は建築に力を入れているらしく、グローバル時代の実験的な教育を掲げ、島に建てる全寮制の中高のプロジェクトが、展示とトークイベントを通じて、東京でお披露目会を行なうことになった。その結果、コンペの審査員と設計者が、現在の進捗状況とヴィジョンを語る面白い会が実現する。展示でも紹介されていたように、設計の指針となる考え方には、亡くなられた小嶋一浩のファースト・コンセプトも組み込まれていた。確かに、この学校が実現したら、すごいと思わせるプログラムとデザインであり、完成が楽しみだ。
2017/07/30(日)(五十嵐太郎)