artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
《和歌の浦アート・キューブ》《和歌山県庁舎》《和歌山県庁南別館》《和歌山県民文化会館》
[和歌山県]
和歌山へ。下吹越武人が手がけた《和歌の浦アート・キューブ》は、海沿いの不老橋(江戸期の石造のアーチ橋)を渡った先に建つ。敷地に大きなヴォリュームひとつ置くのではなく、さまざまなサイズのキューブを分散させ、それらをブリッジでつなぎ、回遊性を与える。空中の立体的な路地のほか、キューブの隙間、銅板のテクスチャーなど、心地よい空間体験をもたらす。もっと人通りが多い場所ならば、さらにアクティビティが増すだろうが、あいにく海辺であり、そのぶん2階のカフェからの眺めはよい。
市内に戻り、内田祥三らによる《和歌山県庁舎》と、道路を挟んで高松伸らの《和歌山県庁南別館》《和歌山県民文化会館》などをまわる。1930年代、70年代、2000年代と異なる時代の建築が並ぶ風景は興味深い。それにしても、市庁舎やミュージアムも近くに集中しており、見事にお城のまわりに主要な公共建築がかたまっている。
写真:上2枚=《和歌の浦アート・キューブ》 中2枚=《和歌山県庁南別館》 左下=《和歌山県庁舎》 右下=《和歌山県民文化会館》
2017/07/28(金)(五十嵐太郎)
《和歌山県立近代美術館・博物館》《念誓寺本堂》《和歌山市民図書館》
[和歌山県]
黒川紀章の《和歌山県立近代美術館・博物館》を見る。正直、あまりに多過ぎて、どうかと思う黒川建築もなくはないのだが、これはよかった。しかも同じ建築家が隣接する2つをともに手がけているので、デザイン上の相互関係も生まれる。いずれも展示室ではあまり変わった冒険をせず、逆にそれ以外の空間はポストモダン的な造形で遊びまくっている。和歌山県立近代美術館では、コレクション展と、夏の子ども向け企画として「すききらい、すき?きらい?」展を開催中だった。前者は地元縁の作家のほか、休館中の滋賀県立近代美術館から借りた戦後アメリカ美術、おはなしとアート特集など、もりだくさん。後者は好き嫌いの価値観を揺さぶる企画である。この館は屋外の彫刻展示も面白い。そして和歌山県立博物館は、企画展「のぞいてみよう! えのぐばこ」が江戸時代の2人の画家、真砂幽泉と桑山玉洲を取り上げ、その作品と絵の具箱を紹介する。ここも2階に熊野古道に関する屋外展示がある。なお、ガラスによる円弧の先端部分にあたる吹抜けのカフェは、素晴らしい空間なのだけど、誰も足を踏み入れないのがもったいない。
相田武文による念誓寺本堂は、ユニークな現代の仏教建築だ。最初に出迎えるゲート型のヴォリュームもさることながら、壁にぎっしりと埋め込んだ瓦の列が独特の表情をかもし出す。よく知られた素材だが、見たことがない使い方をすると、きわめて効果的になる。小さな開口部がある足下に水をはりめぐらせ、光や風をとり入れる。堂内は木の格子パターンであり、振り返ると象徴的な円形の窓が目に入るという仕かけだ。
岡田新一の《和歌山市民図書館》は、天窓からの光と吹抜け、正面のステンドグラスが特徴である。移民資料やそれに関連する絵画作品も収蔵していた。ところで隣の市立博物館はクラシックな造形だけに、前日に見た黒川建築のパターンと同様、これも岡田新一の設計かなと思ったが、結局、確認できなかった。
写真:左上=《和歌山県立近代博物館》 右上=《和歌山県立近代美術館》 左上2番目=《和歌山県立近代美術館・博物館》模型 左下2番目・右中=《念誓寺本堂》 左下=《和歌山市民図書館》 右下=《和歌山市立博物館》
2017/07/28(金)(五十嵐太郎)
リボーンアート・フェスティバル2017 その1(石巻)
会期:2017/07/22~2017/09/10
宮城県石巻市ほか[宮城県]
リボーンアート・フェスティバル2017の各会場を案内してもらう。正直、仙台でも事前にまったく情報がでまわらず(実際ガイドブックの発売がオープンに間に合わず、ホームページもかなり情報不足)、どうなのか? と思っていたが、「地域アート」的な作品が要請される普通の芸術祭とはだいぶ違うことがよくわかった。効率的にクルマでまわったが、それでも1日で全部を見るのは不可能である。2日は必要な規模だった。まず石巻2.0の向かいで、リボーンの情報センターになっている旧観慶丸商店で初めて地図をゲットする。百貨店だった内部をゼンカイハウス的にリノベーションし、ギャラリー仕様になっていた。ぽつんととり残された旧階段はオブジェのように見える。また一般公開されていない3階のインテリアが面白い。ここにシュタイナーと名和晃平、コンタクト・ゴンゾ、宮永愛子、ナム・ジュン・パイクらのワタリウム的なセレクションを展示し、全体へのイントロダクション的な場となっていた。続いて被災した南浜を見下ろす、日和山公園の神社では、フジワラボがレストランの内部を改造し、JRのインサイドアウト・プロジェクトのためのカメラ空間を設置する。なお、リボーンでは、藤原徹平事務所が基本的に各会場のデザインを担当した。旧石巻港湾病院では、小林武史×WOWによる鏡の間でふわふわバルーンが浮かぶアトラクション的なインスタレーションを展示する。ここが興味深いのは、全体をリボーンアートハウスに改造し、スタッフ、ボランティア、アーティストの宿泊所として活用されていること。シェフも置き、おいしい料理やゲリラ・ライブも楽しむらしい。そして巨大な冷凍庫をスケートパーク化していたワンパークでは、サイドコアによるストリートカルチャー的な展示を挿入する。石巻にまだこれだけ大きな被災建築が残っていることも重要だが、安全性ゆえ内部が使えなくなったことを逆手にとった展示や動線計画など、石巻ならではの特異性をあぶりだ出すアート的な介入が鮮やかだった。
写真:左上2枚=旧観慶丸商店 右上2枚=旧石巻港湾病院 下2枚=ワンパーク
2017/07/26(水)(五十嵐太郎)
リボーンアート・フェスティバル2017 その2(牡鹿半島、桃浦)
会期:2017/07/22~2017/09/10
宮城県石巻市ほか[宮城県]
牡鹿半島へ移動すると、途中で目によるツアー形式の作品のクルマに遭遇した。建物の和室を経由し、見晴らしをよくした改造車に乗って、防潮堤横やがんばろう石巻などの風景を観賞するらしい。なお、半島エリアはあまり多くのクルマが交通できるところではないので、リボーンの巡回バスが定期的に運行しており、それを使いながら、各地の作品を鑑賞することが推奨された。コアハウスのある桃浦へ。風でぱたぱた小さな木板が動き、音が鳴るインフォメーション、ギャレス・ムーアの過去作のほか、墓地の横で古墳に潜るようなchim↑pomの地下冷凍コンテナ。ここで展示されている涙の氷である。ただし、実はベタな被災者のお涙頂戴とはどうも少し違うようで、ある意味で即物的に得られた涙らしい。近くではap bankのサポートによって、研修・宿泊施設の桃浦ビレッジも建設中であり、貝島研やドット・アーキテクツらが設計したものだった。ファブリス・イベールの水がじゃあじゃあ出ている農園は、給水過剰で野菜が本当に育つか心配だが、なんともユーモラスで意外にこういうタイプの屋外作品は見たことがなかった。
写真:左上から=ギャレス・ムーア《数える噴水》、chim↑pom《ひとかけら》入り口、ファブリス・イベール《エキリブリウム(バランスを保つ場所)》 右上2枚=桃浦ビレッジ、右下=インフォメーション
2017/07/26(水)(五十嵐太郎)
リボーンアート・フェスティバル2017 その3(牡鹿ビレッジ)
会期:2017/07/22~2017/09/10
宮城県石巻市ほか[宮城県]
牡鹿ビレッジでは、フジワラボによる食堂(参道を意識した変形バタフライ屋根に大開口)、大小のとんがり屋根が並ぶトイレがつくられた。広場はワークショップや各種の企業の協賛を得て、かつての村の中心地に実現したものだという。リボーンは、ぎりぎりまでプログラムが確定しないなか、臨機応変に状況に合わせて調整するプロジェクトだ。ここから歩いていく灯台への道では、鈴木康広によるジッパーのかたちをした足こぎボート、ブルース・ナウマンによる音の作品。そして秘境のような貝殻の入江に、今回のメインビジュアルになった名和晃平の大きな鹿の作品がたつ。ここは現在、有料ゾーンだが、自然公園の制限ゆえに永久設置とはならず、3年間の期間限定で残るらしい。貝殻の入江では、人工的に掘られた洞窟の内部に、宮永愛子やさわひらきらの作品を設置し、圧倒的な場の迫力を生かす。海を眺めるレストランも新設され、おいしい料理をいただく。快晴だと本当に気持ちがよい。そして名和の作品のまわりでライブも行なわれるという。
写真:上3枚=牡鹿ビレッジ 左中=さわひらき《燈話》 左下=海を眺めるレストラン 右2番目から=鈴木康広《ファスナーの船(足漕ぎボート)》、宮永愛子《海は森からうまれる》、名和晃平《White Deer (Oshika)》
2017/07/26(水)(五十嵐太郎)