artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
マリアの首 ─幻に長崎を想う曲─
会期:2017/05/10~2017/05/28
新国立劇場[東京都]
戦争の記憶がまだ残っている時期ゆえに、切実につくられた田中千禾夫の名作を小川絵梨子が演出し、鈴木杏らが出演した舞台である。原爆が投下された長崎において、それぞれの事情を背負い、生きていく女たち。とりわけ圧巻なのが、雪が降る夜、破壊された浦上天主堂に集まり、転げ落ちたマリアの首を保存しようと集まる、美しいラストシーンだった。
2017/05/17(水)(五十嵐太郎)
イキウメ「天の敵」
会期:2017/05/16~2017/06/04
東京芸術劇場[東京都]
倫理的な問題を扱う内容だが、相変わらず笑いの要素もあって、イキウメの作品は本当にハズレがない。特殊な食事法によって、不老不死になった男の数奇な生き様を取材するという形式をとり、ちょうど映画『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のように追体験する。イキウメの『太陽』と似たプロットもあるが、こちらは共同体論ではなく、長いスパンの時間/歴史軸で展開している。
2017/05/17(水)(五十嵐太郎)
YCC Temporary 大巻伸嗣
会期:2017/04/14~2017/06/04
YCC ヨコハマ創造都市センター[神奈川県]
この場所において現代アートを展示する新シリーズの第一弾である。過去に震災と戦争を経験した横浜の昔の地図を床いっぱいに描きながら、両サイドに被災と失われた眞葛焼のイメージ、そして奥にかつてこの建物がキャバレーとして使われた記憶を重ねる。さらに15分の照明の変化によって、鑑賞者が時間/歴史を追体験する気合の入ったインスタレーションだ。なお、ヨコハマ創造都市センターのすぐ近くに槇文彦による新しい市庁舎が完成する予定で、そうなると、このエリアが一気に大勢の人で賑わう未来が待っている。
2017/05/16(火)(五十嵐太郎)
チューリッヒ動物園
[スイス]
チューリッヒ動物園へ。いわば学術展示+テーマパーク+ランドスケープがミックスされた場だが、生態系ごと見せる工夫された展示が面白い。特にマーカス・シュイッツ・アーキテクトンによる象舎は建築的に特筆すべき空間だった。コンペで選ばれた亀の甲羅みたいなドームである。これは3層のCLTによる木造の大屋根になっており、ランダムな隙間はガラスを嵌めているかと思いきや、じつは小さな空気膜が入っている。
写真:右下3枚=マーカス・シュイッツ・アーキテクトンによる象舎
2017/05/14(日)(五十嵐太郎)
OSIRIS Egypt’s Sunken Mysteries
会期:2017/02/10~2017/07/16
リートベルク美術館[スイス]
庭園内にあるリートベルク美術館へ。19世紀の本館の横に、装飾的なパターンを伴うガラスのエントランスをもつ、アルフレット・グラジオーリとアドルフ・クリーシャニッツの設計による新館をつくり、地下で両者をつなぐ。その背後に鹿の頭の剥製風彫像が中央につく建物があり、ちょっとジャン・ジャック・ルクーの空想建築風で驚く。リートベルク美術館は、非西欧系のアートを展示する施設である。常設は時計回りに中国、日本と並ぶが、その次がコンゴなどのアフリカにいきなりジャンプしていた(東南アジアやインドは別棟)。が、普通は横に置かないエリアを隣接させていただけに、平面的な表現を洗練させる日本美術と、荒々しいが、抽象的な立体の造形操作に優れたアフリカの違いがはっきりとわかって興味深い。展示のための什器はクールなデザインであり、ガラスケースで見せる収蔵庫も楽しい。企画はオシリス/エジプト展を開催し、神話の基本知識から最近の研究成果までを扱う。石の彫像の丸みを帯びた表面はつるつるのままで、本当に劣化しない最強の素材である。別館では、インドの細密画を紹介している。
写真:左上から=リートベルク美術館本館、ジャン・ジャック・ルクー風の建築、展示のための什器 右上2枚=新館 右下=収蔵庫
2017/05/14(日)(五十嵐太郎)