artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2016
会期:2016/09/03~2016/09/25
山形県郷土館「文翔館」、とんがりビル、BOTA coffee & BOTA theater、山形県緑町庭園文化学習施設「洗心庵」ほか[山形県]
山形ビエンナーレへ。おそらくあまり予算はなく、入場無料なので仕方ないかもしれないが、作家や内容の山形縛りが強過ぎるかもしれない。その結果、どうしても同じ人物が何度も登場し、持ち弾が少ないように見えてしまう。作品としては、デザイン系よりもアートの方が印象に残る。メイン会場の文翔館では、魚市場で働きながら生涯独自の絵を描き続けたスガノサカエを知ったことが収穫だった。日本近代美術史を振り返る若手の久松知子も参加している。前回、「東北画は可能か?」が面白かった東北芸工大の会場に行く時間は、残念ながらとれなかったが、街中は一通りまわれた。ギャラリー絵遊・蔵ダイマスは一目見て、建築家物件だなと思ったら、やはり竹内昌義さんの設計である。リサーチを伴う田中望の巨大な絵画が天井高のある空間をうまく使っていた。
写真:左上2枚=スガノサカエ 左下=久松知子 右=上から、《ギャラリー絵遊・蔵ダイマス》、田中望
2016/09/23(金)(五十嵐太郎)
ISAIA2016 YKK AP Window Research Institute “Windowology” Luncheon Seminar
会期:2016/09/22
東北大学川内キャンパス中講義棟文化部第2講義室[宮城県]
東北大学で開催されたISAIA(アジア建築交流国際シンポジウム)では、窓研究所のランチョンセミナーで、中谷礼仁とともに登壇する。筆者からは窓学の概要や五十嵐研による窓の歴史や窓の表象リサーチ、そして小津映画の開口部について報告した。中谷氏からは「柱間装置の文化誌」の映像を紹介し、第二弾の日吉大社がワールドプレミア上映となった。妖しい夜の情景をとらえた審美的な第一弾の掬月亭とは監督も違い、昭和的なイメージを予感させるフォントから始まり、だいぶ作風を変えている。祭りの状況をとらえながら、建築の動く要素としては神社から湖への御輿の移動がハイライトになっている。
2016/09/22(木)(五十嵐太郎)
東北大学考古資料展示「先史のかたち──連鎖する土器群めぐり」
会期:2016/09/22~2016/10/14
東北大学トンチクギャラリー[宮城県]
東北大学の考古学とコラボレーションしながら、五十嵐研で展示構成とデザインを担当したトンチクギャラリーの「先史のかたち──連鎖する土器群めぐり」展がスタートした。現場で実寸のスタディを何度も重ねた成果もあって、スケール感がしっかりとした展示空間に仕上がった。今回、通常の博物館とは違う展示デザインが求められたが、セレクションや並べ方は、時系列や出土した場所に関係なく、かたちだけに注目して、類似したグループの土器群を連鎖させていくという手法をとった。筆者もキャプションの文章を大幅リライトするため、3時間ずっと140個近い縄文土器群を観察したが、それだけじっくり見ていることができる、かたちの面白さがある。「先史のかたち」展では、現代美術家の青野文昭に参加してもらい、考古学の正しくオリジナルに戻す修復とは違う、断片が全体の変異を起すような作品も混入させた。縄文土器のレプリカを使った新作も、土器群の外周に設置している。また期間中は、斧澤未知子が土器に触発されたライブドローイングを制作する。なお、前衛的な装幀の雑誌『S-meme』の伝統を継いで、かなり斬新なページのめくり方を必要とする展覧会のカタログ冊子も制作した。
2016/09/22(木)(五十嵐太郎)
スカラ座博物館
[イタリア、ミラノ]
イタリアの最終日は、ミラノにてスカラ座の博物館へ。マリオ・ボッタが増築したエリアを少し見られるかと思ったが、中庭を介して、ちょっとだけかたちがわかる程度だった。それでも作家性がはっきりと認識できるかたちのデザインは、さすがと言うべきか。常設展示は、伝説のマリア・マリブランを含む所縁の歌手や作曲家、当時のグッズなどいろいろ、そしてリッカルド・ムーティの特集展示など。またバルコニー席からは、オペラの舞台設営の様子も見学できる。
写真:マリオ・ボッタの増築部分
2016/09/17(土)(五十嵐太郎)
サン・フランチェスコ教会ほか
[イタリア、ミラノ]
Italoの特急に乗って、ミラノに戻る。ジオ・ポンティめぐりを再開する。かつて彼自身が凝った窓辺空間をつくって、最上階で暮らしたデッツァ通りの集合住宅(1957)へ。各住民が色を決める部分があり、ファサードはかわいらしくカラフルだった。この奥に彼が設計したロッセッリ工房もあるはずだが、道路からのぞいても見えなかった。そして一番見たかったサン・フランチェスコ教会(1964)へ。ダイアモンド形の開口が並ぶ巨大な屏風のような被膜としてファサードが、セラミック・タイルに覆われ、背後の茶色のタイルのヴォリュームと好対照をなす。クセのある造形といい、強力な個性である。最後にミラノ駅前のピレリ・ビルを訪れると、だいぶ見方が変わる。遠景では幾何学的な構成やプロポーションのよさが際立つが、近づくと、やはりタイルのテクスチャーが存在感をもつ。
写真:左=上から、デッツァ通りの集合住宅 左下2枚・右上=《サン・フランチェスコ教会》 右下=《ピレリ・ビル》
2016/09/16(金)(五十嵐太郎)