artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

安藤裕子LIVE 2015「あなたが寝てる間に」

中野サンプラザ[東京都]

ライブで聴くと、やはり声だなあと改めて思う。当然、ヴォーカルにはメロディをかなでるとか、詞を伝える役目があるが、そうした機能以前に、ホールの空気全体を震わすような存在感である。声で包み込むように、耳元でささやくように、あるいは真正面から突き刺すように。またYMOやうしろゆびさされ組などのカバーが原曲との違いを際立たせる。

2015/04/24(金)(五十嵐太郎)

別役実×劇団東京乾電池「眠れる森の美女」

会期:2015/04/22~2015/04/29

下北沢・小劇場B1(北沢タウンホールB1)[東京都]

別役実の作品らしさを堪能する。男が婚約相手の見舞いに病院を訪れただけのシンプルな設定だが、固有名詞をもたない登場人物たちの記号論的なズレによる笑いを伴う、物語の迷宮に変容していく。かといって、カフカの小説のように永遠にたどりつかないわけでなく、最後に笑えるオチが用意されていた。

2015/04/24(金)(五十嵐太郎)

コングレス未来学会議

6月公開のアリ・フォルマン監督『コングレス未来学会議』を見る。前作の『戦場でワルツを』における記憶をめぐるアニメの使い方も斬新だったが、本作はハリウッドが俳優の完全デジタルデータ化によって本人不在で映画を制作する状況を描き、2034年に設定された未来の場面からめくるめくサイケデリックなアニメの世界に突入する。フィッシャー兄弟、あるいはピンク・フロイドやビートルズの映画におけるアニメなどが想起される。

2015/04/23(木)(五十嵐太郎)

さよなら、人類

8月公開のロイ・アンダーソン監督の『さよなら、人類』を見る。徹底的につくり込んだスタジオのセットは、現実の空間を1/1の紙模型で再現して写真で撮影するトーマス・デマンドの作品のなかで、映画を撮影しているような不思議な雰囲気をかもし出す。そして斜めの角度からの室内描写や、開口のポジションも面白い。独特な間合いとシュールな設定による笑いが絶えない、短編の集積のような作品である。

2015/04/23(木)(五十嵐太郎)

六角鬼丈《クレバスの家》

[東京都]

竣工:1967年

六角美瑠の案内で、父・鬼丈の処女作となる自邸、《クレバスの家》(1967)を見学する。名称どおり、小さな家の中央を一直線の割れ目が鮮やかに切り裂く。クレバスに沿って逆遠近法的な階段が展開しているが、遠くの風景を見せるためでもなく(住宅地なので、それは望めない)、高松次郎的でもなく、むしろ壁が迫る内向的な空間である。その後に六角が手がけた塚田邸の造形にも近いのが、個人的に発見だった。六角美瑠が隣に住宅を設計しており、現在、親子の建築が並んでいる。

2015/04/19(日)(五十嵐太郎)