artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
宮本佳明《真福寺客殿》《澄心寺庫裏》
[長野県]
竣工:2013年/2009年
五十嵐研のゼミ合宿で、長野をまわる。宮本佳明が設計した《真福寺客殿》は、本堂の入母屋+唐破風の屋根と連なる、コンクリートによる地形のような白い屋根が特徴だった。一見、現代的なデザインの覆いだが、そっと屋根をつまみ上げるようなイメージで操作された形態は、入母屋や唐破風的なイメージを重ね合わせ、伝統の再解釈となっている。続いて、同じく宮本が手がけた《澄心寺庫裏》を見学した。実は、この建物のコンペの審査員を担当し、一次審査のときから宮本案を推していたが、ようやく完成した建築を訪問する機会を得ることができた。これもコンクリートの屋根がメインの建築だが、もっとシンボリックで大きな白い屋根であり、宗教建築として変わらないアイデンティティを担う。一方、屋根の下の居住部分は、時代に合わせて変化することを前提とした木造だ。
写真:上2枚=《真福寺客殿》、下2枚=《澄心寺庫裏》
2015/04/16(木)(五十嵐太郎)
大阪万博1970 デザインプロジェクト
会期:2015/03/20~2015/05/17
東京国立近代美術館 ギャラリー4[東京都]
「大阪万博1970デザインプロジェクト」が興味深い。以前、同館ではオリンピックのデザイン展を開催していたが、その万博版というべき内容だ。万博については、だいぶ勉強したと思っていたが、まだ知らないことがいろいろある。サイン、ファニチャー、広場、制服、展示など、来場者を取り巻く環境のすべてに、優秀なデザイナー、建築家、芸術家が数多く動員されていた。果たして2020年のオリンピックはどうなるのか?
2015/04/15(水)(五十嵐太郎)
生誕110年 片岡球子 展
会期:2015/04/07~2015/05/17
東京国立近代美術館 企画展ギャラリー[東京都]
国立近代美術館で、繊細な美とは違う日本画を開拓した、片岡球子展を見る。彼女が、一度見たら忘れられない球子スタイルを確立する以前の作品、晩年の裸婦のシリーズ、日常的に描いていたスケッチなどの資料も興味深いが、やはり1950、60年代に才能を開花させたときのパワーが凄まじい。改めてその軌跡をたどると、過去作を引用するポストモダンほか、現代美術の動向と並走しているような印象を受ける。
2015/04/15(水)(五十嵐太郎)
リチャード二世
会期:2015/04/05~2015/04/19
さいたま芸術劇場にて、蜷川幸雄の演出による「リチャード二世」を観劇。ホールの本来の座席を一切使わず、シアター内に三方から囲む場をつくり、バックヤードを使いながら舞台の長大な奥行きも確保する意表をついた空間の使い方に驚かされる。さらに車椅子、タンゴ、和装で洋靴、若手と高齢の男女俳優の組み合わせなど、台詞は流麗なシェイクスピアながらも、古典劇を徹底的に異化していた。
写真:さいたま芸術劇場
2015/04/10(金)(五十嵐太郎)
恐怖分子
エドワード・ヤン監督の映画『恐怖分子』を見る。観客を馬鹿にしたような説明的な台詞も、煽動的な音楽もなく、映画とは、そもそも視覚と「音」による表現なのだ、という当たり前のはずのメディア的な特質の悦びを体験できる。それにしても、寂しげなインテリアの空間の美しいこと。窓辺のシーンも素晴らしい。映画が終わった後にも、作品全体を貫く、静かな不穏さが持続する作品だ。
2015/04/06(月)(五十嵐太郎)