artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
せんだいスクール・オブ・デザイン Interactiveレクチャー♯2 江坂恵里子「“コ・クリエイション”で都市をデザインする」
会期:2014/06/19
house/阿部仁史アトリエ[宮城県]
せんだいスクール・オブ・デザイン2014年度春学期のInteractiveレクチャーは、仙台の将来へのヒントにすべく、今期は「地域からデザインをおこす」ことをテーマとしている。そこで名古屋の国際デザインセンターの海外ネットワークディレクターをつとめる江坂恵里子をゲストに迎えた。名古屋はデザイン都市宣言を行い、ユネスコの創造都市ネットワークで、神戸とともにデザイン都市として認定されていることから、さまざまに国際的な活動を展開している。その鍵となるのが、彼女だ。歴史を振り返ると、名古屋は1988年のオリンピックの誘致に失敗し、その代わりにデザイン博を開催したことから、こうしたデザインへの流れが生まれている。もしオリンピックが来ていたら、なかった可能性も高い。
2014/06/19(木)(五十嵐太郎)
せんだいスクール・オブ・デザイン メディア軸♯5 大山顕レクチャー「ままならなさへのまなざし」
会期:2014/06/19
東北大学片平キャンパス都市建築学専攻仮設校舎SSDプロジェクト室2[宮城県]
せんだいスクール・オブ・デザイン2014年度春学期PBLスタジオ1メディア軸にて、大山顕のレクチャー「ままならなさへのまなざし」を行なう。彼が大学時代に工場に興味をもったいきさつから、団地、ジャンクション、高架下、クリスマスの浮かれ電飾など、現在に至るまでの観察の活動がまとめて紹介された。建築が陥りがちな作家主義を排したところから、当たり前だと思っている風景をいま一度じっくり観察することから、豊かな世界が目の前に広がっていく。土木ファン層の開拓や、ときには貸し切りバスを使う現地見学会のイベントの話も興味深い。
2014/06/17(火)(五十嵐太郎)
建築の皮膚と体温 ──イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界──展
会期:2014/06/06~2014/08/19
LIXILギャラリー大阪[大阪府]
LIXILショールーム大阪にて、「建築の皮膚と体温:イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界」展を見る。ミラノ駅前のピレリ・ビル以外にも、住宅、教会、プロダクトなど、彼が生涯に手がけてきた多くの作品を紹介するが、日本ではその全貌があまりちゃんと知られていないことが改めてうかがえる内容だった。開口やタイルなど、建物の表面へのこだわりが、大きな特徴と言えるだろう。心憎い遊び心で、モダニズムを消化したデザインが楽しい。常滑のINAXライブミュージアムに続き、大阪会場でも展示デザインを担当したトラフは、ポンティのテイストに応えている。
2014/06/16(月)(五十嵐太郎)
野のなななのか
大林宣彦監督の『野のなななのか』を鑑賞した。数百億をかけて、ありえないことをいかにもリアルに映像化するハリウッドとは対極的に、映画のリアリズムの文法を破壊し、大林流に再構築して提示することにより、観者は目眩のような「体験」を経て、その世界に没入する。が、それはむしろ本当に歴史という現実と私たちを深くつなげるのだ。『野のなななのか』は、北海道芦別市のある老人の死を契機に、人のつながりが連鎖し、東日本大震災や太平洋戦争で8月15日以降も戦争が続いた樺太の悲劇から芦別の地方史まで、物語が展開する。『永遠の0』と出だしこそ似ているが、その奥行きの広がりは、生死、あるいは過去と現在が同時存在する宗教的なレベル(輪廻転生?)にまで昇華していく。確かに『野のなななのか』は、同じ大林によるポスト3.11の映画『この空の花──長岡花火物語』やAKB48『So long ! 』のMV(64分版)と連なる共通した手法をもつが、この作品はとくにモノの記憶、古い建物の空間、絵画や文学の意味にも焦点を当てるところが、個人的に好みだ。これまで常磐貴子や安達祐実はあまり作品に恵まれない印象だったが、本作は素晴らしい。
2014/06/14(土)(五十嵐太郎)
プレビュー:ローマ環状線、めぐりゆく人生たち
8月公開のジャンフランコ・ロージ監督の『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』を一足先に見る。世界中が知っている都市ローマの、観光客には知られていない環状線沿いに住む人たちの群像ドキュメンタリーだ。事故に対応する救急隊員、車上生活者、集合住宅の各世帯、虫の音を調査する植物学者らが登場する。まず基本的に映像がどれも美しいのだが、『ローマ環状線』は、人々の生活の断片を織物として再編集し、都市の物語=テクストをつくりあげる。すべてがノンフィクションの映像ながら、巧みな配置と組み合わせによって、それぞれが別のことを意味する隠喩として機能する手腕はお見事。何気ないシーンも意味をもって立ち現れる。この映画は、高速という都市の大動脈、すなわち人工的な川沿いの生態系から物語をつむぐが、現代の土木構築物から切り取られることで、ローマという特殊性よりもむしろどこの都市にでも起きうる普遍性をもつ。本作は、ヴェネツィア国際映画祭でドキュメンタリーとして初の金獅子賞を受賞したらしい。
2014/06/13(金)(五十嵐太郎)