artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
ローン・サバイバー
映画『ローン・サバイバー』を見る。アクションとしては、アメリカの特殊部隊が激しい銃撃戦のなか、急傾斜の岩肌を傷つきながら転げ落ちるというような、垂直移動の痛々しさは見たことがなく、新しい映像の視覚表現を開拓していた。実話をもとにしているが、切迫した状況において、リスクを厭わず、何を「正義」と考えるかという序盤と終盤の生死を決める選択で、特殊部隊とアフガニスタン人の立場が入れ替わる設定がうまく効いている。
2014/04/01(火)(五十嵐太郎)
中村一美 展
会期:2014/03/19~2014/05/19
国立新美術館[東京都]
国立新美術館にて、中村一美展を見る。斜めの線、そして日本絵画の空間表現からインスピレーションを得て、戦後アメリカの抽象絵画の文脈で翻案した作品群が興味深い。力の入った展覧会である。特に、コンペで残らず、ヴェネチアビエンナーレ国際美術展の日本館では実現できなかったウォール・ペインティングは迫力の仕上がりだった。
2014/03/29(土)(五十嵐太郎)
《大宮前体育館》
[東京都]
荻窪にて、青木淳が設計した《杉並区大宮前体育館》を見学する。これも住宅地に囲まれているが、驚くべきは家よりも低い体育館とプールのヴォリュームだ。コンペでも、もっとも低い案だったらしい(槇文彦の案よりも)。低いが、広い屋上からの風景は意外に見たことがない。ザハの新国立競技場案とは対照的な考えだ。大宮前体育館の外周はSANAA的な曲線ではなく、分節したガラス面の連続で周囲のスケールと調整する。内部に入ると、深く掘られた地下から直方体のコンクリートのヴォリュームが入れ子状に立ち上がり、印象が変わる。この巨大な壁も近づくと、全体が生き物のようにゆるやかに波うち、また驚く。体育館の床の色彩やかわいいプールも印象的だ。ところで、通常の見学会と違っていたのは、杉戸洋、青木野枝、米田知子ら、あいちトリエンナーレにも参加した現代美術家が参加していたこと。やはり、アーティストとの親交が深い青木淳ならではだろう。
2014/03/29(土)(五十嵐太郎)
鶴ヶ島太陽光発電所 環境教育施設《eコラボつるがしま》
[埼玉県]
鶴ヶ島にて、藤村龍至の手がけた《eコラボつるがしま》を見学する。郊外住宅地に囲まれた工場跡地というロードサイド的環境を受けつつ、パブリックミーティングによる集合知の加算を経て、生成された建築だ。と同時に、ヴェンチューリ、東工大系列、篠原一男、カーンらのデザインを参照している。ゲンロンのトークイベントでも話題になった、藤村流シンボリズムの表現を試みたものだ。
2014/03/29(土)(五十嵐太郎)
《原広司自邸》/《トラスウォール・ハウス》
[東京都]
埼玉県立近代美術館の「戦後日本住宅伝説~挑発する家・内省する家」展の準備のために、原広司の自邸を訪問した。玄関は小ぶりだが、傾斜地を活かし、奥には住宅のイメージを超えた幾何学的な空間が展開する。後の京都駅などにも通じる形式であり、住まう家の枠組に囚われないヴィジョンを内包していた。スケールの操作も興味深い。その後、同じ鶴川にある原の初期作品の《慶松幼稚園》と、《鶴川保育園》も訪れた。前者は、のびのびとした造形で、光の穴と鮮やかな色が各部屋を彩る。後の那覇の小学校にも連なるデザインだった。後者は、矩形フレームを内外で反復しながら、丸柱の列柱廊や吹抜けが領域をつくる。ここにも原の他の作品との連続性がうかがえる。
鶴川駅の近くでは、大学院のとき、完成したばかりに見学した、牛田+フィンドレイによるトラスウォール・ハウスを再訪した。キースラーばりの臓器のようなぐにゃぐにゃした造形のインパクトは変わらない。ただ、壁は白さがだいぶなくなっていた。
写真:上=原広司《慶松幼稚園》、中=原広司《鶴川保育園》、下=牛田+フィンドレイ《トラスウォール・ハウス》
2014/03/27(木)(五十嵐太郎)