artscapeレビュー
前衛のみやぎ─昭和期芸術の変革に挑んだ表現者たち─
2009年09月01日号
会期:2009/06/20~2009/08/16
宮城県美術館[宮城県]
戦後の宮城県にゆかりのある「前衛」の作家を振り返る展覧会。吉野辰海、升沢金平、針生鎮郎、菅野聖子、新国誠一など、15人による作品およそ150点が展示された。シュルレアリスムからダダ、抽象美術、象徴詩、身体パフォーマンスなど、前衛の現われ方がさまざまな形式に及んでいることが一望できる展示になっている。なかでも圧倒的だったのが、ダダカンこと糸井貫二。50年代の版画から貼絵、パフォーマンスを記録した写真など、これまで発表されることのなかったものも含めて、30点あまりが一挙に公開された。コーデュロイ生地の上にバッジやらアップリケやら花札やらを縫い合わせた《ダダカンベスト》は、いかにもキッチュな見た目とは裏腹に、山伏の衣裳のような凄みを感じさせる。息子とともに制作した貼絵は、色とりどりのビニールテープを切り貼りして魚などを描いた単純な作品だが、よく見てみると、一本のテープで一切のたるみもなく滑らかな曲線を描くなど、思いのほか丁寧に仕上げられている。これらの作品は、今後のダダカン研究にとって貴重な礎となるにちがいない。惜しむらくは、これほど密度の濃い展示でありながら、図録が作成されていないこと。「宮城の前衛史」を読める日を心して待ちたい。
2009/08/15(土)(福住廉)