artscapeレビュー
彫刻 労働と不意打ち
2009年10月01日号
会期:2009/08/08~2009/08/23
東京藝術大学大学美術館陳列館[東京都]
大竹利絵子、小俣英彦、今野健太、下川慎六、西尾康之、原真一、深谷直之、森靖の8名による彫刻展。タイトルにも示されているように、彫刻の制作を広い意味での「労働」としてとらえ、その過程で訪れる「不意打ち」を中心的なコンセプトとして展覧会が練り上げられているようだ。だが、「労働」が生産利益のために合目的に労働力を使用することを意味している以上、ほとんどの場合、生産利益を直接的に回収できる見込みがない彫刻の制作活動を安易に「労働」とみなすことはできないし、その制作過程から想定外の「不意打ち」が生まれるとしても、それがそのまま鑑賞者に到達するともかぎらない。報われる保証が一切ないまま、他者と共有可能な精神性を目指して、ただひたすら手を動かし続けること。ようするに、同展のタイトルは通俗的な「芸術」観を難解な言葉で言い換えたにすぎない。同じように、同展の出品作品は、通俗的な「彫刻」概念の範囲内に収まるものが多く、なかなか「不意打ち」を食らうことはできなかった。そうしたなか、「彫刻」らしからぬ作品で「不意打ち」という言葉に値する衝撃を辛うじて与えていたのは、陰刻鋳造による特異な量感を獲得する西尾康之の《Organ》(2006)と、新作の《復顔、粘土法》(2009)、そして地下鉄の通気口から吹き上がる風にスカートがあおられるマリリン・モンローの通俗的なイメージに、同じく通俗的な河童のそれを融合させた森靖の奇怪な木像作品《Much ado about love-Kappa》(2009)。とりわけ通俗性を二乗するような手法を披露した後者は、おそらく「彫刻」というジャンルの通俗性に自覚的であるという点で、今後の展開に注目したい。
2009/08/21(金)(福住廉)