artscapeレビュー

飯沢耕太郎のレビュー/プレビュー

進藤環「漂泊の地」

会期:2015/10/31~2015/11/28

ギャラリー・アートアンリミテッド[東京都]

昨年(2014年)にはギャラリー・アートアンリミテッドでの個展と東京綜合写真専門学校での公開制作、今年は「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」への参加と、充実した活動を展開している進藤環。本展でも、新たな領域に挑戦しようという意欲が充分に伝わってきた。
今回の新作を見て感じるのは、彼女が用いている、自分で撮影した風景をプリントし、切り貼りしていくコラージュという手法があまり目立たなくなってきていることだ。以前の作品では、パースペクティブの歪みやイメージ相互のズレを意図的に残すことで、「ありえない風景」を作り上げていたのだが、新作では、一見普通に撮影されたように見えるものも多い。画面の細部へ細部へと視線が分裂していくよりも、どちらかといえば風景全体の統合性が強まっており、観客を包み込み、一体化するような雰囲気が強まっている。この変化は、むしろポジティブに捉えるべきだろう。
もうひとつは、特定の地域性へのこだわりである。今回展示された作品は、広島県大久野島、長崎壱岐島、愛媛県別子銅山、東京都八丈島などで撮影されている。以前はそれぞれの撮影場所の固有性は、作品の中にほとんどあらわれてこなかったのだが、今回は明らかにそのことが意識されている。それをもう少し強めていけば、それらの土地に根ざした「サーガ」としても成立していくのではないだろうか。進藤は今年から九州産業大学芸術学部写真・映像・メディア学科の専任講師となり、福岡に居を移した。そのことが、作品制作にもいい影響を及ぼしているのではないかと思う。

2015/11/04(水)(飯沢耕太郎)

有元伸也「ariphoto2015 vol.2」

会期:2015/10/27~2015/11/08

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

有元伸也が主宰する東京・四谷のTOTEM POLE PHOTO GALLERYが、開廊10年目を迎えた。写真家たちが自主的に運営するギャラリーを続けるには、経済的な問題だけでなく、モチベーションを維持すること自体が大変だと思う。しかもTOTEM POLE PHOTO GALLERYは、ここ10年レベルを落とすことなく展示活動を続けているわけで、それだけでも特筆すべきことではないだろうか。
その有元が、同ギャラリーで年2~4回のペースで発表し続けている「ariphoto」のシリーズも息の長い仕事だ、年1冊ずつ、作品をまとめて刊行している写真集の『ariphoto』も、今回で6冊目になった。新宿を主な舞台とする6×6判、モノクロームのスナップ写真という基本的な枠組みは変わらないものの、初期の写真とくらべると、微妙に変化してきているのがわかる。わかりやすいのは、2011年からレンズを38ミリ(35ミリのカメラに換算すれば21ミリ)の広角レンズに変えたことだろう。スクエアな画面の正面に、被写体を大きく据えて撮影していた以前の作品よりも、周辺や奥の写り込みのスペースが大きくなり、背景にダイナミックな動きが取り入れられるようになった。とはいえ、被写体となる異形の人物やモノを、獲物に飛びかかるように捕獲していく強度はそのまま維持されている。有元は東京ビジュアルアーツの講師をしていて、時々、彼の教え子で同じような6×6判のスナップを試みる者がいるのだが、まったく似ても似つかぬ弱々しいものになってしまう。街歩きの緊張感を保ち続けることのむずかしさがよくわかる。まさに「ariphoto」としかいいようのない、誰もが追随できない領域に達しつつあるのではないだろうか。

2015/11/03(火)(飯沢耕太郎)

西村陽一郎「見る影がある」

会期:2015/11/03~2015/11/15

Gallery Photo/synthesis / Roonee 247photography[東京都]

西村陽一郎は1967年、東京生まれ。美学校で写真を学んだ後、1990年代から数々の作品を発表してきた。1995年、東京・銀座の画廊春秋での初個展以来25年になるというから、キャリア的には相当の厚みを加えてきたといえるだろう。ただ、フォトグラム作品を中心とする作家活動は、多産な割にはうまく焦点が結べないところがあった。だが、今回東京・四谷のGallery Photo/synthesis と Roonee 247photographyで同時開催された展示を見て、彼の本領がようやく発揮されてきているように感じた。
Gallery Photo/synthesisの展示は2部構成で11月3日~8日が「Y氏の光学装置」、11月10日~15日が「青いイカロス」である。両方ともフォトグラム作品だが、特に故柳沢信の所蔵物だったというハッセルブラッドのカメラ、レンズ、4×5インチ判のカメラのレンズボードなどをモチーフにした「Y氏の光学装置」が面白い(「青いイカロス」は鳥の羽根を使ったカラー・フォトグラム作品)。シンプルに抽象化されたカメラやレンズのフォルムが、細部まで注意深く構成されていて、写真表現の旨味を追求し続けた柳沢に対する見事なオマージュになっている。
Roonee 247photographyでは「啞子」、「ヌード」、「脚」の3作品。こちらはフォトグラムではなく、ブルー系にプリントされた「普通の」写真作品だが、これまでの西村の作品にはあまり感じられなかったフェティシズム、エロティシズムの要素が、かなり強く打ちだされていることに嬉しい驚きを覚えた。別に隠していたわけではないだろうが、一人の写真家の中に潜んでいた多面的な貌つきが、このような形で顕われてくるのはとてもいいことだと思う。この展示を踏み台にして、さらにスケールアップした作品を発表していってほしいものだ。

2015/11/03(火)(飯沢耕太郎)

浮世絵から写真へ ─ 視覚の文明開化─

会期:2015/10/10~2015/12/06

江戸東京博物館[東京都]

浮世絵の専門家である我妻直美と、幕末~明治期の写真師・画家、横山松三郎の研究で知られる岡塚章子、この二人の東京都江戸東京博物館の学芸員が共同でキュレーションした「浮世絵から写真へ」は、とても面白い展覧会だった。
写真術が幕末に日本に渡来した時、それがリアルな遠近法や陰影法を備えた西洋画の一種と見なされたことはよく知られている。油絵、銅版画、石版画、そして写真などの写実的な表現は、伝統的な浮世絵(錦絵)の描法にも大きな影響を及ぼすとともに、主題的にも「黒船」や「文明開化」のようなより時事的な要素が取り入れられていく。一方、写真の側も「名所絵」、「役者絵」、「美人画」などの浮世絵のテーマを巧みに取り込んでいくようになる。本展は、その二つの媒体の交流の様相を、近年発見された新資料を駆使して、ダイナミックに浮かび上がらせていた。
たとえば、明治中期の写真師、小川一真が1890(明治23)年に竣工した浅草・凌雲閣(通称、浅草十二階)のために企画した「凌雲閣百美人」の写真帖、それは歌川国貞らが安政4~5(1857~58)年に売り出した「江戸名所百人美女」のシリーズに通じるものがある。また横山松三郎と鈴木真一が考案し、小豆沢亮一が1885(明治18)年に特許を得た「写真油絵」(鶏卵紙印画の感光面だけを剥離し、裏から油絵具で彩色する技法)は、まさに写真と絵画の合体というべきものだった。江戸東京博物館だけでなく、日本カメラ博物館、横浜開港資料館などから出展された多数の作品・資料から浮かび上がってくるのは、少なくとも明治中期までは写真も浮世絵も西洋画も渾然一体となった、奇妙に活気あふれるイメージ空間が成立していたということである。それらがどのように結びつきつつ発展し、やがて解体していったのか、さらにさまざまな角度から検証していってほしい。

2015/10/30(金)(飯沢耕太郎)

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尾形一郎/尾形優「沖縄モダニズム」

会期:2015/10/03~2015/11/07

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]

建築物を被写体としてユニークな写真作品を発表し続けている尾形一郎と尾形優。今回の個展のテーマは「沖縄モダニズム」である。沖縄では、戦後アメリカ軍が軍用物質として持ち込んだ穴あきのコンクリートブロックが各地に普及し、建築資材として利用されていった。それらは、日本の伝統的な「木割り法」を用いた鉄筋コンクリート建築と合体し、柱と梁はコンクリートでありながら、機能的には民家の構造を持つユニークな住居建築を生み出していく。そのミニマルな、「構成主義」的な外観を持つ建物に、装飾的な要素を付け加えているのがコンクリートブロックなのだ。
今回の展示では、4×5インチカメラの大判カメラで撮影された「街並」シリーズから5点と、那覇出身の彫刻家の能勢孝二郎が、コンクリートブロックを素材に制作した作品を、1点ずつ標本のように撮影した「彫刻」シリーズ32点が並んでいた。「沖縄モダニズム」の応用形というべき街の眺め(カラー)と、その基本単位であるコンクリートブロック彫刻(モノクローム)を対比することで、沖縄の「自然や伝統や生活、そこに軍事的環境が進入して、アブストラクトとして表現されることが日常となった時代」があぶり出されていく。これまでの彼らの作品と同様に、目のつけどころと、それを作品として再構築していく手続きは鮮やかとしかいいようがない。
なお彼らの「沖縄モダニズム」の建築物に対する考察は、先に羽鳥書店から刊行された『沖縄彫刻都市』で、写真図版とともに緻密に展開されている。そちらも、あわせて一読していただきたい。




上:尾形一郎/尾形優「街並」シリーズ
下:尾形一郎/尾形優「彫刻」シリーズ
© Yu OGATA & ICHIRO OGATA ONO / Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film, Tokyo

2015/10/28(水)(飯沢耕太郎)