artscapeレビュー

飯沢耕太郎のレビュー/プレビュー

Tokyo Rumando(東京ルマン℃)「Orphée」

会期:2014/09/03~2014/09/20

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

前作の「REST 3000~ STAY5000~」で、ラブホテルでさまざまな人格に変身するという興味深いセルフポートレート作品を発表したTokyo Rumandoが、東京・六本木のZEN FOTO GALLERYで意欲的な新作を発表した。
今回はジャン・コクトー監督・脚本の映画「オルフェ」(1950年)に題材をとり、「鏡」をテーマとして取り上げている。魔界、あるいは死の世界への入口と思しき丸い鏡に、Tokyo Rumandoが自ら扮する妖しいキャラクターが、あらわれては消えていく。ボケや揺らぎなど、鏡に映し出されるイメージにふさわしい効果を巧みに用いることで、現実世界にいる彼女自身との対比がもくろまれているのだ。コクトーへのオマージュを込めた、ややクラシックな雰囲気のモノクロームの画像がなかなかうまく効いていて、ユニークな作品として成立していた、
ただ、あまり大きくないプリントがフレーミングされて並んでいるだけの展示(映画「オルフェ」が壁面にDVD上映されてはいたが)は、ややもったいなかった。せっかく4~6枚のシークエンス作品として制作されているのだから、複数の写真を同じフレームにおさめるとか、鏡そのものを写真と組み合わせてインスタレーションするとか、何か一工夫ほしかった気がする。「鏡」というテーマそのものは普遍的なものなどで、さらに別な形で展開していく可能性を持っているのではないだろうか。なお展覧会にあわせて、ZEN FOTO GALLERYから同名の写真集が刊行されている。

2014/09/12(金)(飯沢耕太郎)

濱田祐史『photograph』

発行所:lemon books

発行日:2014年8月

「hILLSIDE TERRACE pHOTO FAIR(1)」で購入した写真集の一つが、この『photograph』。昨年(2013年)、Photo Gallery International(P.G.I.)で開催した個展「Pulsar+Primal Mountain」で同じ作品を見たのだが、その時とはだいぶ印象が違った。日常的な場面に射し込み、空間を満たしている「光」の親密な雰囲気が、マット系の用紙に印刷した写真集にぴったりしていて、目に気持ちよく飛び込んでくるのだ。表紙のデザインを複数にして、好きなものを選べるというアイディアもなかなかよかった。
濱田は「印画紙の上で光を描きたい」と考えて、「煙を噴出する棒を制作し、長時間露光した上で」撮影したのだという。たしかにその効果は抜群で、光が煙の粒子によって拡散し、柔らかな帯状になったり、塊のようになったりして、物質性を帯びて目に入ってくる。ただ、その視覚的効果がやや単調なのと、撮影場所の設定がやや場当たり的に見えるのが少し気になる。『photograph』というタイトルも含めて、写真にとっての本質的、根源的な要素である「光」に迫ろうという意思の強さを感じるいい仕事なので、さらにヴァリエーションを増やして、連作として完成させていくといいのではないだろうか。
なお、写真集は700部限定だが、他に六つ切りのオリジナル・プリント一点がついた「スペシャルエディション」が、30部刊行されている。

2014/09/05(金)(飯沢耕太郎)

「hILLSIDE TERRACE pHOTO FAIR(1)」

会期:2014/09/04~2014/09/07

代官山ヒルサイドフォーラム[東京都]

Taka Ishii Gallery、EMON PHOTO GALLERY、PHOTO GALLERY INTERNATIONAL、MEM、ShugoArts、G/P gallery、ZEN PHOTO GALLERY、Picture Photo Spaceなどの、写真を扱う商業ギャラリーにIMA、SUPER LABO、小宮山書店などの出版関係の組織が加わって、「日本芸術写真協会」(FAPA)という団体が2013年12月に設立された。今回、株式会社アマナを「メインスポンサー」として代官山ヒルサイドフォーラムで開催された、写真作品に特化したアートフェア「hILLSIDE TERRACE pHOTO FAIR(1)」は、いわばそのお披露目のイベントということになる。
前述したギャラリーに加えて、YUKA TSURUNO GALLERY、Yumiko Chiba Associates、Gallery Naruyama、POETIC SCAPEなどを加えたギャラリー展示は、さすがに華やいだ雰囲気を醸し出していた。会場の手狭さが逆に密集感につながって、いい方向に働いたのではないだろうか。AKAAKA、MATCH and Company、Shelf、POSTなどが出品した写真集コーナーも活気があって、普段手に入れにくい本が並んでいるのが嬉しかった。ただ、第一回目ということで、まだ顔見世興行的な色合いが強いように思う。ここ数年続けて開催されてきたTOKYO PHOTO (今年は10月3~6日に東京ビルTOKIAで開催)の行方が不透明なだけに、秋を彩る写真作品のアートフェアとして発展していってほしいという期待はふくらむ。2回、3回と回を重ねていく中で、主催者側と観客との、まだどこかよそよそしい関係も、少しずつほぐれて、いい感じになっていくのではないだろうか。

2014/09/05(金)(飯沢耕太郎)

迫川尚子「置いてけぼりの時刻」

会期:2014/09/30~2014/10/09

コニカミノルタプラザ ギャラリーA[東京都]

迫川尚子は、新宿駅地下で営業していて、毎日お客が1500人も入るという人気カフェ、ベルクの副店長をつとめている。そのかたわら、東京・四谷の現代写真研究所で写真を学び、『日計り』(新宿書房、2004年)、『新宿ダンボール村』(DU BOOKS、2013年)の2冊の写真集を刊行した。
主に店に通う行き帰りの路上で撮影されている彼女の写真は、特定の被写体を狙ったものではない。だが知らず知らずのうちに、同じような被写体が多くなっていた。自分が何を撮っているのだろうかと自問自答し、その結果「私の撮る時刻はもっとひそやかな、どこかに忘れてきた時刻です」という答えに至る。それが今回の写真展の「置いてけぼりの時刻」という、とても印象的なタイトルの所以ということになる。
たしかに、今回の写真展には、取り残されてどこか寂し気な子供の姿、ドラム缶やビールケースや自転車などがぽつんとたたずむ片隅の光景が多いような気がする。だが、とりたたてて喪失感のみが強調されているわけではない。原発反対と右翼のデモの写真が両方とも展示されているのを見てもわかるように、何が起こるかわからない路上の出来事を、いきいきとした好奇心を働かせて撮影しているのだ。写真がモノクロームからカラーに変わったことも、いい方向に働いているのではないだろうか。このシリーズもぜひ写真集にしてほしいが、その時には迫川自身の肉声を記したテキストも一緒につけてもらいたい。迫川の写真を見ていると、言葉が欲しくなってくるのだ。

2014/09/02(火)(飯沢耕太郎)

渡辺眸「1968 新宿」

会期:2014/08/26~2014/09/08

新宿ニコンサロン[東京都]

筆者は1973年に東京に出てきたので、1960年代末のあの伝説的な新宿の状況は直接経験していない。それでも、 月堂、ピット・イン、国際反戦デー、紅テント、フォークゲリラといった、当時新宿にまつわりついていた文化的な記号の群れは、間接的に目にしたり耳にしたりして、憧れの気持ちを抱いていた。それゆえ、僕と同世代はもちろんだが、より若い世代の観客にとっても、渡辺眸の今回の展示は、まず被写体となった1968~69年の新宿と、そこにうごめく異形の人物たちへの関心が先に立つのではないだろうか。
だがそれだけではなく、このシリーズには、渡辺の写真家としての初心、被写体に対する独特の距離感を保った接し方がいきいきとあらわれている。渡辺は当時通っていた東京綜合写真専門学校で、カメラの距離計を1メートルに固定してスナップ撮影するという実習があり、それをきっかけにして新宿に通いはじめたのだという。だが、会場に展示された45点の写真を見ると、1メートルという至近距離には特にこだわらず、融通無碍に被写体との距離を詰めたり伸ばしたりしていることがわかる。結果的に、このシリーズには、新宿という奇妙な狂いを含み込んだ磁場が発するエネルギーの高まりが、くっきりと写り込むことになった。時代と写真家の感受性とが幸福に一致した、ごく稀なケースといえるのではないだろうか。
なお、展覧会の開催にあわせて、街から舎から同名の写真集が刊行されている。また同展は10月23日~29日に大阪ニコンサロンに巡回する。

2014/09/01(月)(飯沢耕太郎)