artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
ルーヴル美術館特別展 LOUVRE No.9 ~漫画、9番目の芸術~
会期:2016/12/01~2017/01/29
グランフロント大阪北館 ナレッジキャピタル イベントラボ[大阪府]
日本と並ぶ漫画大国のフランス(ちなみにフランス語圏では漫画をバンド・デシネ=BDと呼ぶ)。21世紀に入り、同国が誇る美の殿堂ルーヴル美術館は漫画に注目。国内外の漫画家にルーヴルをテーマにした作品を描いてもらう「ルーヴル美術館BDプロジェクト」をスタートさせた。その成果を紹介しているのが本展だ。出展作家は16組。日本での開催に配慮したのか、約半数の7組が日本人作家だった。筆者は漫画に不案内なので作品についてあれこれ言えないが、原画やネームを生で見るのはやはり興味深い。どの作家も、少なくとも線画に関しては非常に上手く、美術家が見ても十分勉強になると思った。一方、本展で紹介されている作品の傾向を見ると、記号的な絵よりも絵画性を重視しているように思われ、この辺りにフランス人と日本人の漫画観の違いが現われているように感じた。
2016/11/30(水)(小吹隆文)
プレビュー:art trip vol.2 この世界の在り方 思考/芸術
会期:2016/12/10~2016/02/12
芦屋市立美術博物館[兵庫県]
芦屋市立美術博物館が、館蔵品とともに現代美術作品を紹介することをテーマに企画した展覧会の第2弾。今回は、河口龍夫、伊藤存、小沢裕子、前谷康太郎を招き、彼らとミーティングを重ねながら展示作品を選定、刺繍、彫刻、アニメーション、映像、光などを駆使する4人の作品のほか、ナウマン象の歯の化石、土器、小杉武久や菅野聖子の美術作品などが展示される。展覧会のテーマは「思考」だ。おびただしい情報が地球上を駆け巡る現在、われわれはさまざまな方法でそれらを取得し、正しい判断ができるよう努めているが、それでも無意識に情報の選択したり、一方的に決めつけている可能性がある。感性を高め、思考力を研ぎ澄ませることで、目に見える向こう側まで思いを馳せることができるのではないか。本展にはそのような意志が貫かれているのだ。国際情勢が混迷を深める現代、美術展を通して物事の見方をトレーニングするのも悪くないかもしれない。
2016/11/20(日)(小吹隆文)
山村幸則 展覧会『太刀魚はじめました』
会期:2016/11/01~2016/11/20
GALLERY 5[兵庫県]
山村幸則は、突拍子もないアイデアを実行するアーティストだ。例えば、山育ちの神戸牛の仔牛に海を見せるべく、神戸港まで引き連れて再び山に帰っていく《神戸牛とwalk》、古着屋から1000着の古着を借りて新たな装いを提案する《Thirhand Clothing 2014 Spring》、黒松が茂る芦屋公園で松の木に扮装して体操を行なう《芦屋体操第一》《同 第二》など、地域の歴史や自然を自身の体験として作品にしてしまう。作品には彼自身とアートが融合しており、日常と表現行為が地続きになっているのだ。さて、今回山村がテーマにしたのは太刀魚。神戸港で太刀魚を釣り、その模様を映像で記録したほか、カフェで食材として利用してもらう、グッズをつくる、ワークショップを行なうといった作品が発表された。筆者は最終日前日のトークイベントに参加したが、そこでも太刀魚尽くしの料理がふるまわれた。彼の作品を見るたびに思うのは、「よくこんなことを思いついたな」「思いついても実際にやるか」ということ。だが、彼の真摯な姿勢と、そこから溢れ出るユーモアに感化され、いつも作品の虜になってしまうだ。
2016/11/19(土)(小吹隆文)
ハナヤ勘兵衛の時代デェ!!
会期:2016/11/19~2017/03/19
兵庫県立美術館[兵庫県]
兵庫県芦屋市を拠点に活躍し、戦前戦後の写真界に大きな足跡を残したハナヤ勘兵衛(1903~1991)。本展では、代表作を中心に、芦屋カメラクラブで彼と一緒に活動した紅谷吉之助、高麗清治、松原重三らの作品も合わせた約120点を展覧。その足跡と時代を振り返っている。ハナヤ勘兵衛といえば新興写真やモンタージュの印象が強いが、戦中戦後の作品には都市の人々を生々しく捉えたものが多く、紀州をテーマにした晩年の作品も含め、作風の多様性がよく分かった。また、ビンテージ・プリントが数多く含まれていること、彼が開発した小型カメラ「コーナン16」(のちに「ミノルタ16」としてヒットした)が展示されているのも貴重だった。本展は小企画展ゆえ目立たないが、内容が非常に良いので多くの人に見てほしい。また同時開催の「彫刻大集合」も、近代から現代までの彫刻約50点が並んでおり、見応えがあった。
2016/11/19(土)(小吹隆文)
動き出す!絵画
会期:2016/11/19~2017/01/15
和歌山県立近代美術館[和歌山県]
美術雑誌の出版や展覧会の開催などを通して、大正期の美術界をバックアップした人物、北山清太郎。フランス印象派やポスト印象派の理解者だったペール・タンギーになぞらえて「ペール北山」と呼ばれた彼を軸に、当時の西洋美術と日本近代美術を紹介しているのが本展だ。その構成は、4つの章とプロローグ、エピローグから成り、当時の西洋美術(印象派から未来派まで)と日本の作家たち(斎藤与里、岸田劉生、木村荘八、萬鉄五郎、小林徳三郎など)がたっぷりと楽しめる。北山が出版した雑誌も並んでおり、当時の様子を多角的に知ることができた。また、北山清太郎という重要なバイプレーヤーの存在を知ることができたのも大きな収穫だった。彼のような存在はきっとほかにもいただろう。そうした人々に光を当てることにより、美術史の読み解きが一層豊かになるに違いない。今後も本展のような企画が続くことを願っている。なお、北山清太郎は後年にアニメーションの世界に転身し、日本で最初にアニメを制作した3人のうちの1人である。つくづく興味深い人物だ。
2016/11/18(金)(小吹隆文)