artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

プレビュー:キュレーター公募企画展 大いなる日常

会期:2017/02/18~2017/03/20

ボーダレス・アートミュージアムNO-MA[滋賀県]

キュレーター公募で選ばれた、田中みゆき(21_21 DESIGN SIGHT、山口情報芸術センター[YCAM]、日本科学未来館で展覧会やパフォーマンス、書籍や印刷物などの企画に携わった経験あり)の企画展。「人はなぜ表現するのか」という根本的な問いかけを軸に、表現のはじまり、他者との関係等を探る。出展作家は、AKI INOMATA、杉浦篤、銅金裕司、戸來貴規、やんツー、吉本篤史、トーマス・リバティニーの7組。アール・ブリュット、昆虫や植物を用いたバイオアート、デジタルテクノロジーを駆使したメディア・アートなど、さまざまな分野の表現が集まっており、その多様性を通じて、表現のはじまりや他者との関係性について考えてみたい。

2017/01/20(金)(小吹隆文)

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プレビュー:Exhibition as media 2016-2017「とりのゆめ/bird's-eye」

会期:2017/02/18~2017/03/05

神戸アートビレッジセンター[兵庫県]

神戸アートビレッジセンター(以下、KAVC)が2007年から行なっている企画展「Exhibition as media」。その特徴は、KAVCとアーティストが企画立案から実施までを協働する点にある。昨年の同展では美術家の井上明彦とヒスロムが新開地(KAVCが立地する場所)をテーマにしたが、今年は、「建築物ウクレレ化保存計画」で知られる美術家の伊達伸明と、建築・まち・空間の調査と提案を行なっているRADのメンバー、榊原充大と木村慎弥が、やはり新開地をテーマに展覧会をつくり上げる。彼らの切り口は「しらんけど考古術」というもの。これは関西人が根拠のない噂話などをする際に、責任逃れの意味で語尾につける「知らんけど」から着想したものだ。本展では、根拠が曖昧な伝承や都市伝説をもとに、空想力を働かせて今の都市と向き合おうと試みる。筆者はRADの2人については知らないが、伊達の作品は1990年代からずっと見ている。彼のアーティストとしての力量に疑いはなく、その軽やかで飄々とした物腰も信頼しているので、きっと斬新な展覧会をつくり上げてくれるだろう。

2017/01/20(金)(小吹隆文)

大阪版画百景

会期:2017/01/18~2017/02/11

大阪府立江之子島文化芸術創造センター[大阪府]

大阪府立江之子島文化芸術創造センターと大阪新美術館建設準備室の共同企画。大阪府と大阪市の所蔵品から、大阪を描いた風景や大阪出身の作家など、大阪とゆかりの深い20世紀以降の版画作品約140点および関連資料を展示した。出展作家は、明治から昭和にかけて活躍した織田一磨に始まり、浅野竹二、川西英、前田藤四郎、赤松麟作の戦前の作品を経て、戦後の瑛九や泉茂らによるデモクラート美術協会、前田藤四郎や久保晃らが在籍した版画8(会場だった画廊みやざきの紹介も含む)、そして1970年代以降の作家達へと進む。作品のクオリティ、作家のバラエティ、作品点数のいずれも不足がなく、非常に見応えがある展覧会だった。関西の版画史を知るうえでも勉強になるので、学生たちにおすすめしたい。

2017/01/20(金)(小吹隆文)

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大和美緒個展「VIVID-STILL 静か。鮮烈で_」

[京都府]

会期:2017/01/06〜2017/01/22 Gallery PARC

会期:2017/01/14〜2017/02/04 COHJU contemporary art

大和美緒は、シンプルな行為を反復することで豊かな世界をつくり出す新進画家だ。例えば、無数の赤い点から成る作品では、最初に打った点の隣に次の点を打ち、その次は下に点を打つという作業を延々と繰り返す。すると画面には布地のドレープ(ひだ)を思わせる有機的な波模様が現われるのだ。また、黒い線による作品では、最初に引いた線のすぐ隣に次の線を引く作業を繰り返す。すると線は徐々に曲線を帯びはじめ、最終的には山地の地図のような画面ができあがる。ほかには板ガラスにインクを垂らしたカラフルな作品もあった。彼女は制作中に画面全体を見ないように心がけている。つまり人為を封じた絵画ということだ。だとすれば作品に現われる模様は、フラクタルや1/fゆらぎのように自然界の法則を体現したものと言えるだろう。一方、いくら人為を封じると言っても、人間には欲望があるし、制作時間が長引けば疲労も蓄積する。作品にはそうした心身の軌跡も刻まれており、複数の揺らぎが同一画面上で響き合う点に、作品の面白さが凝縮されている。

2017/01/17(火)(小吹隆文)

南繁樹・大石早矢香展

会期:2017/01/14~2017/01/22

祇をん小西[京都府]

ともに30代の若手陶芸家夫婦が2人展を開催。キーワードは「装飾」だ。南の作品は白磁で、表面を覆う幾何学的な凹凸模様が大きな特徴。きわめて精緻な仕事であり、磁器特有のクールな性質との相性もきわめて良い。一方、大石の作品は陶芸で、花、植物、生き物などの有機的なモチーフが過剰なまでに装飾されている。初めて作品を見たときはマイセン人形のような可愛らしいものかと思ったが、実際はアニミズム的というか、有機性で艶めかしいものだ。特に女性の素足をモチーフにした作品は、かかと部分がハイヒール状にびっしりと装飾で埋められており、背徳的なエロティシズムを感じた。また、トロフィーのような大作も、女性のボディや手足と装飾が複雑に絡み合っており、非常に見応えがあった。という訳で、やや大石の説明に偏ってしまったが、2人の作家がそれぞれの個性を出し切った気持ちのよい展覧会だった。それにしても2人が夫婦だったとは。画廊で大石から教えてもらい、本当に驚いた。

2017/01/17(火)(小吹隆文)