artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

藤友陽子 銅版画展

会期:2016/10/11~2016/10/16

ギャラリー16[京都府]

薄暗い部屋の片隅を描いた銅版画14点が並んでいる。押入れの角のような湿り気のある薄暗さもあれば、窓から差し込む斜光が見える作品もある。一貫しているのは、アンダーな光の階調を丁寧に描写していること。そして人の気配がないことだ。画面から漂う静けさ、それも緊張や弛緩ではなく、ぽかりと空いた空白のような静けさが心地良い。藤友は、以前の個展で外の風景を描いていた。土手の道路や坂道だったと記憶している。室内を描いた本作とは条件が違うが、やはり光の表現と静けさが印象的だった。作品も活動も地味だが、質の高い作品を作り続けている作家だ。もっと注目されるべきだと思う。その一方、派手に持ち上げられるのは似合わないとも思う。見る側は勝手なものである。

2016/10/13(木)(小吹隆文)

岡山芸術交流2016

会期:2016/10/09~2016/11/27

岡山市内各所[岡山県]

岡山城、岡山県庁、林原美術館など、岡山市内中心部の8会場ほかで行なわれている大型国際展覧会「岡山芸術交流2016」。去る9月15日に珍しく大阪でも記者発表が行なわれたが、その席で強調されたのは、いま日本国内で流行っている地域アートとは一線を画したハイエンドな芸術祭を目指すことと、今回のための委嘱作品が多数あるということだった。実際に現場に出向いてみると、委嘱か否かは別にして、見応えのある作品がいくつもあった。筆者が特に気に入ったのは、岡山県天神山文化プラザで展示されているサイモン・フジワラのインスタレーションと、林原美術館で複数の作品が見られるピエール・ユイグだ。また、旧後楽館天神校舎跡地で地元の中学生や新聞社と協同した新作を発表した下道基行も印象に残った。その一方で難解な作品もいくつかあったが、主催者の心意気を評価する筆者としては、これで良いと思う。参加作家は31組。少なく見えるが、大規模なインスタレーションが多数を占めるので、むしろ適正と言える。また、会場間の距離がさほど離れていないため移動が楽で、頑張れば1日でコンプリートできるのも良いと思った。最後に、今回のアーティスティック・ディレクターを務めたのは、美術家のリアム・ギリック。彼が掲げたテーマは「開発」だが、その意図を展示品から読み取るのは、筆者の知識では難しかった。

2016/10/09(日)(小吹隆文)

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マリメッコ展

会期:2016/10/08~2016/11/27

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

北欧フィンランドを代表するアパレル企業であり、鞄、インテリア、食器なども手掛けるマリメッコ。同社の約60年にわたる歴史を、ヘルシンキのデザイン・ミュージアムが所蔵する、ファブリック約50点、ビンテージドレス約60点、デザイナーの自筆スケッチ、各時代の資料などで振り返るのが本展だ。マリメッコのファブリックは、大胆な色と柄が特徴。シンプル&モダンに徹した服飾デザインも素晴らしい。同社の創業は1951年だが、同じ50年代にクリスチャン・ディオールが発表した有名な「Aライン」と比べても、近代と現代ぐらいの違いが感じられる。もちろんマリメッコが現代だ。つまり、ファッションとしてのみならず、モダンデザイン、プロダクトとしても優れていたことが、今日の同社の成功を下支えしているのであろう。また、本展の記者発表で興味深いエピソードを聞いた。現在NHKで放映中のドラマ「べっぴんさん」のモデルとなっている神戸の子供服メーカーは、創業年がマリメッコと1年違いだという。ともに第2次世界大戦の敗戦国である日本とフィンランドで、ほぼ同時期に新たなデザインが芽吹いていたとは。その事実を知った途端、本展がとても身近なものに感じられた。

2016/10/08(土)(小吹隆文)

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アウラの行方

会期:2016/09/17~2016/10/08

CAS[大阪府]

藤井匡がキュレーションを行ない、國府理、冨井大裕、末永史尚の作品で構成された本展。テーマは美術の制度と場を再考することだが、筆者にとってそれは二の次だった。では何が一番なのか。國府理の映像作品《Natural Powered Vehicle》が見られたことだ。この作品には、古い国産軽自動車に帆を張った國府の作品が登場し、彼が自らハンドルを握って田舎道や海岸の砂浜を疾走する。その開放感、ロマンチシズムにグッときたのだ。また、筆者が初めて國府理と彼の作品に出会ったときの記憶もフラッシュバックした。企画の本筋とは無関係に感動しているのだから、キュレーターには申し訳ない限り。でも、たまにはこんな展覧会の見方があっても良いだろう。

2016/10/07(金)(小吹隆文)

紫、絵画。渡邉野子

会期:2016/09/24~2016/10/22

Gallery G-77[京都府]

紫を基調とした色彩と激しい筆致の抽象画で知られる渡邉野子。「対比における共存」をテーマとする彼女にとって、赤と青が混ざった紫はテーマを体現する色である。また新作では金と銀を新色として使用しており、画面の質感が以前の作品とは少し違って見えた。抽象画というジャンルは、現在の絵画シーンのなかで沈滞気味と言える。その原因は、表現方法が出尽くしたこともあるだろうが、それ以上に現実社会との接点を疎かにしていたからではないか。本展のチラシに記された文面を見てそう感じた。その文面とは、「東洋と西洋のはざまにあり、不安定にそして肯定的にたたずむ渡邉の線は、世界において異質なものや多様な理念が混在し衝突する社会に育ち、混沌とした今と将来に生きる世代の作家としての存在理由を象徴しています」。まるで現在の国際情勢を語っているかのようだ。そして、こうした社会のなかで抽象画を描く理由を端的に示したとも言える。もちろん、現実の諸問題とコミットするしないは個々の自由である。筆者が言いたいのは、パターン化した思考から抜け出し、新たな視点を得ることで、抽象画に新たな存在意義を与えられるのではないかということだ。時代が再び抽象画を要請するかもしれない。このテキストを読んで大いに勇気づけられた。

2016/09/27(火)(小吹隆文)