artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

田中加織 落下する砂と石

会期:2016/11/10~2016/11/27

ギャラリーいのくま亭[京都府]

田中加織は、現代的なセンスで油彩の山水画を描く画家だ。その特徴は、主に円形の画面を用いること、富士山あるいは蓬莱山と思しき山を幾重も描くこと、カラフルな色彩感覚を有することである。これまでの個展はオーソドックスな絵画展だったが、本展では2フロアある展示室のうち1階で、絵画1点と白砂、石を組み合わせたインスタレーションを実施。作品の新たな可能性を提示した。実際、彼女の作品は和室と親和性があり、床の間で掛軸の代わりに掛けたら面白そうだ。きっと盆栽や盆景との相性も良いだろう。展示の可能性を広げたという点で、本展はとても有意義だった。

2016/11/13(日)(小吹隆文)

開館80周年記念展 壺中之展

会期:2016/11/08~2016/12/04

大阪市立美術館[大阪府]

大阪市立美術館の開館80周年を記念し、約8400件の館蔵品から名品約300件を選んで展示した。構成は、館の歴史を振り返る第1章、作品の形態を重視した鑑賞入門としての第2章から始まり、日本美術、中国美術、仏教美術、近代美術と続く。同館の主軸は日本・東洋美術であり、阿部コレクション、カザール・コレクション、住友コレクション、山口コレクション、田万コレクションなど、個人コレクターの寄贈や寺社の寄託が中心となっている点に特徴がある。それらの名品を約300点も一気に見るのは大変で、約半分を見終えた時点ですっかり疲れてしまった。しかし、日本の美術館でこれだけ充実した館蔵品展が行なわれる機会は滅多にない。この疲労感はむしろ心地良いものだと思い直して歩を進めた。欧米の美術館に比して日本の美術館は常設展示が貧弱だ。普段からこれぐらいのボリュームで館蔵品を見られれば良いのにと、心から思う。ちなみに本展の展覧会名は、中国の故事「壺中之天」によるもの。壺の中に素晴らしい別世界が広がっていたというお話で、壺を美術館に置き換えるとその意味がよく分かる。

2016/11/07(月)(小吹隆文)

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KYOTO EXPERIMENT 2016 AUTUMN 池田亮司 the radar [kyoto]

会期:2016/11/01~2016/11/06

ロームシアター京都 ローム・スクエア[京都府]

本展は「KYOTO EXPERIMENT 2016 京都国際舞台芸術祭 AUTUMN」の展示プログラムのひとつ。長辺10メートル以上の巨大スクリーンが屋外に設置され、映像作品が日没から午後10時まで上映された。その内容は、幾何学的な図像やカラフルで有機的な図像が、ソナー音とともに展開するもの。具体的には、展示される地点の緯度・経度で観測できる宇宙を、膨大なデータベースからマッピングしたイメージの集積である。人間の感覚を遥かに超えた宇宙のスケールを表わすのに、巨大スクリーンは最適である。圧倒的なビジュアルと音響に身を包まれながら、映画『2001年宇宙の旅』のスターゲートの場面を思い出した。また、これだけ巨大な画像であるにもかかわらず、高解像度が保たれていることにも驚きを禁じ得なかった。

関連フォーカス

舞台芸術を支えるローカルな土壌と世界的同時代状況への批評性──KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2016 AUTUMN|高嶋慈:artscapeフォーカス

2016/11/01(火)(小吹隆文)

KYOTO EXPERIMENT 2016 AUTUMN 小泉明郎 CONFESSIONS

会期:2016/10/28~2016/11/27

京都芸術センター[京都府]

本展は「KYOTO EXPERIMENT 2016 京都国際舞台芸術祭 AUTUMN」の展示プログラムのひとつとして開催された。なぜ舞台芸術祭で小泉明郎なのかと思ったが、彼の映像作品が持つ演劇性に着目したらしい。展覧会のテーマは「告白」で、作品は《忘却の地にて》と《最後の詩》の2点が選出された。筆者が注目したのは前者である。同作では、第2次大戦中に非人道的な任務に就いた元日本兵のトラウマが、独白(音声)と風景の映像で綴られる。時々言葉に詰まり、必死に思い出そうともがく男。その緊迫感に、見ているこちらも心が締めつけられる。ところが背面に回って驚かされた。じつは、交通事故で脳に損傷を受け記憶障害を抱えた男性が、元日本兵の証言を暗記して語っていたのだ。裏切られた! 落胆、憤り、虚脱感が一挙に押し寄せる。なんだこれは。ブラックユーモアにもほどがあるだろう。しかし冷静に考えてみると、こちらが勝手に思い込んでいただけだ。元日本兵の言葉も、それ自体に偽りはない。本作は、人間の記憶や心象がどのように形作られ、どのような危うさを持っているかを伝えている。このヒリヒリした感覚、人間の痛いところをわざと突いてくる感じは彼独特のものだ。作品を見るといつも嫌な気持ちにさせられる。でもけっして嫌いにはなれない。小憎らしいアーティストだ、小泉明郎は。

関連フォーカス

舞台芸術を支えるローカルな土壌と世界的同時代状況への批評性──KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2016 AUTUMN|高嶋慈:artscapeフォーカス

2016/10/28(金)(小吹隆文)

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南阿沙美 写真展 MATSUOKA!

会期:2016/10/22~2016/10/30

PULP[大阪府]

今年7月の「ART OSAKA 2016」で出会った写真家、南阿沙美。その際には出展されなかったシリーズ《MATSUOKA!》が、大阪の画廊で披露された。同シリーズは、体格のよい女性を戦うヒーローに見立てて撮影したもの。彼女はピチピチのTシャツ&青い短パンという衣装で、正義のヒーローのように跳んだり跳ねたり転がったりしている。何と戦っているのかは皆目不明だが、その真剣な姿がなぜか心に響き、スカッとした爽快感が駆け抜けるのだ。じつは本作は2014年の「写真新世紀」で優秀賞を獲得しており、彼女の出世作である。約2年ものタイムラグがあったが、見ることができて本当に良かった。

2016/10/24(月)(小吹隆文)