artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

日本とアメリカ合衆国の協同制作 宮本ルリ子 キャサリン・サンドナス

会期:2015/05/19~2015/05/24

ギャラリーすずき[京都府]

日米2人の陶芸作家が、両国にまつわる歴史をテーマにした作品を発表した。出品作品は6点。うち5点は本のオブジェで、透光性の高い信楽透土で成形した本の見開き部分にさまざまな色の砂がまぶされ、「9.11」(アメリカ同時多発テロ事件)、「3.11」(東日本大震災)などの日付が打たれている。他の日付は、真珠湾攻撃、広島と長崎への原爆投下、終戦記念日、サンフランシスコ条約締結などである。オブジェの表面に付着した砂は、それぞれの事柄が起こった場所で採集したものであり、残る1点の作品(皿)に盛って観客が触れる。本作のテーマは「歴史の共有」だが、特定の政治的・歴史的メッセージを声高に叫ぶようなものではない。むしろ沈黙をもって観客の内省に訴えかけるところがあり、空間を満たす深い静寂が印象的だった。

2015/05/19(火)(小吹隆文)

狂転体 展

会期:2015/05/09~2015/05/23

CAS[大阪府]

「シュルレアリスムの再認識」を目的に、1977年に結成されたグループ「狂転体」。メンバーは、美術家、デザイナー、音楽家、TVプロデューサーなどで、常時7名前後のメンバーが入れ替わりながら、1983年まで活動を続けた。本展では、彼らの過去のイベント(現在のパフォーマンスに近いニュアンス)の遺物を展示した他、メンバー数名で共作した新作オブジェ、記録写真などが展示された。一部とはいえ、よくも作品が残っていたものだと感心したが、それ以上に重要なのが記録写真の存在である。筆者は「狂転体」の存在を知らなかった。研究者でも、よほど精通した人でなければ知らないだろう。関西の現代美術では、こうした活動の数多くが埋もれたままになっている。早急なアーカイブが必要だが、体制が整っておらず残念でならない。当事者たちが資料を整理してウェブを立ち上げるだけでも随分違うと思うのだが、いかがだろう。

2015/05/16(土)(小吹隆文)

高井信子「姿を求めて」

会期:2015/05/12~2015/05/17

ギャラリーヒルゲート[京都府]

人間と動植物が融合したキメラを描いた銅版画作品を出品。その図像は、昭和世代の筆者には漫画『デビルマン』に登場する悪魔たちを連想させる。作品はどれも正面から描かれており、写真製版以前の図鑑挿画を連想した。展示室の一隅にはスケッチも展示されているが、そこには作者が創作したと思しき文字で事細かに説明文が書かれており、作品の世界観構築に少なからず貢献している。得難い個性を持つアーティストだ。技術的にもレベルが高く、今後の展開が楽しみである。

2015/05/12(火)(小吹隆文)

アート(AM Ver.) 伊東宣明 / Nobuaki Itoh

会期:2015/05/05~2015/05/10

Antenna Media[京都府]

2013年にアートと制度を巡る問題をテーマにした映像作品を発表した伊東宣明。本展で発表した新作のテーマは「アートとは何か」だ。伊東は全国各地のランドマークで自画像を撮影し、「アートとは何か」をカメラに向かって語りかける。彼にとってアートは、不可視で手に入れられないものや、到達不能な理想に向かって邁進するアーティストの姿勢そのものに内在する。19世紀ロマン主義以来の理想に基づいた価値観と言えよう。ただ曲者なのは、当の本人がアートの理想を本当に信じているのか、それとも敢えてドン・キホーテ役を演じたのかが定かではないことだ。おそらく伊東は意図的に両義的な作品を作ったと思われる。観客に作品の二律背反性を気付かせ、アートとは何かを自問自答させること。そこに本作の真意があるのだろう。なお本作は、今年2月から4月にかけて愛知県美術館で発表した作品の京都バージョンである。

2015/05/08(金)(小吹隆文)

マイク・カネミツ/金光松美──ふたつの居場所

会期:2015/04/24~2015/05/16

大阪府立江之子島文化芸術創造センター[大阪府]

1950~60年代にニューヨーク・スクールの画家として活躍、1965年以降は西海岸に居を移し、独自の色彩感豊かな抽象画を制作したマイク・カネミツこと金光松美。ジャクソン・ポロックやウィレム・デ・クーニングらと共に抽象表現主義の第一線で活躍した日系人画家がいたとは、誇らしい限りである。彼の個展は1998年に国立国際美術館で開催されており、本展はそれに次ぐ機会となる。出品作品は大阪府20世紀美術コレクションで、ニューヨーク時代の具象画と抽象画、西海岸時代の作品を合わせた約40点。もう少し広い場所で大規模な個展を行ってほしかったが、コレクションの有効活用という意味で意義深い企画であった。

2015/05/02(土)(小吹隆文)

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