artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

琳派四百年 古今展 細見コレクションと京の現代美術作家

会期:2015/05/23~2015/07/12

細見美術館[京都府]

琳派の祖とされる本阿弥光悦が洛北・鷹峯を拝領してから400年にあたる今年、京都市内では琳派400年にちなんだ多彩な催しが行われている。本展もその一つだが、必ずしも琳派にこだわった企画ではない。京都ゆかりの現代美術作家、近藤 弘、名和晃平、山本太郎が、細見コレクションから共演してみたい作品を選び、自作とのコラボレーションを繰り広げたのだ。近藤はセルフポートレイトの磁器オブジェを平安・鎌倉期の仏具と組み合わせるなどし、名和は鹿とカナリアをモチーフにした「Pix-Cell」を館蔵の《金銅春日神鹿御正体》や円山応挙の《若竹に小禽図》に並置させるなどした。また山本は、敬愛する神坂雪佳、中村芳中、鈴木守一といった琳派の画家たちと共演することにより、自身に内在する琳派的素養を明らかにした。「古」と「今」の共演がこれほど面白いとは。本展は、数ある琳派400年の催しのなかでもトップクラスの成功例と言えるだろう。

2015/05/23(土)(小吹隆文)

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showcase ♯4 つくりもの Constructs

会期:2015/05/08~2015/05/31

eN arts[京都府]

清水穣キュレーションによる、写真に特化したグループ展の第4弾。「つくりもの Constructs」をテーマに、中島大輔と山崎雄策をピックアップした。中島の作品は庭の植え込みなどに一本の棒を渡したものだが、構図と光の妙により植樹林の斜面を見下ろしているかのような巨視的スケールの風景へと変換する。一方、山崎の作品は街路で撮影した人物の連続写真だ。同じ人物を撮っているはずなのに、顔つきが1点ずつ微妙に異なる。画像加工をそれと気づかぬほど巧みに施した作品であり、その事実に気付いた時の気持ち悪さは半端ない。2人の作品は写真に加工を施す、施さないの違いはあるものの、「つくられた」情景であることに変わりはない。そして「つくりもの Constructs」が写真の本質であることを雄弁に語っている。

2015/05/23(土)(小吹隆文)

昔も今も、こんぴらさん。─金刀比羅宮のたからもの─

会期:2015/05/22~2015/07/12

あべのハルカス美術館[大阪府]

讃岐(香川県)のこんぴらさん(金刀比羅宮)といえば全国的に有名な社だが、美術ファンにとっては日本美術の宝庫でもある。筆者も、円山応挙、伊藤若冲、高橋由一を目当てに過去に何度も訪れたことがある。その名宝の数々が大阪まで出張し、万全な環境で見られるのだからたまらない。出品物は近世・近代絵画を中心とした43件。なかでも円山応挙の障壁画《稚松丹頂図》《芦丹頂図》《遊虎図》《竹林七賢図》を現地と同じ配置で見られたのは嬉しい限り。伊藤若冲の《花丸図》は襖4面が来阪し、高橋由一も《豆腐》《なまり(なまり節)》など8作品が並んだ。他にも、狩野永徳・探幽をはじめとする狩野派、岸岱、長澤芦雪、司馬江漢、伝ではあるが巨勢金岡と土佐光元、浮世絵の歌川国芳など巨匠のオンパレード。珍しい船絵馬や船模型、海難図絵馬も見られ、眼福の極みであった。

2015/05/21(木)(小吹隆文)

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プレビュー: Konohana's eye #8 森村誠「Argleton ― far from Konohana ― 」

会期:2015/06/05~2015/07/20

the three konohana[大阪府]

書籍、新聞、地図などの印刷物上の特定の文字を、修正液で消す、カッターナイフで切り取るなどした作品で知られる森村誠。作品は気が遠くなるような作業の集積であり、我々の日常がおびただしい量の情報で埋め尽くされていることを暗示している。今回発表される新作は、情報の不確かさをテーマにしたもの。大阪を中心とした関西圏の様々な地図を活用し、2008年にグーグルマップ上で発見された実在しない英国の町「Argleton(アーグルトン)」のような状況を作り出そうと試みる。紙媒体に書かれた情報やその意味を積極的に変容させる点で、彼のこれまでの活動とは一線を画した新展開となる。

2015/05/20(水)(小吹隆文)

プレビュー:水田寛「中断と再開」、新平誠洙「windows upset」

会期:2015/06/09~2015/07/18

ARTCOURT Gallery[大阪府]

京都を拠点に活動する水田寛と、京都市立芸術大学大学院に在籍中の新平誠洙。ともに1980年代生まれで進境著しい2人の画家が、大阪のギャラリーで同時に個展を開催する。水田の作品は、個人的な記憶や経験に基づくモチーフが、現実的なスケールや遠近法の枠を超えて連鎖・複合を繰り返すのが特徴。複数の作品の組み合わせたインスタレーション的な展示や、絵の一部を切り取って別の絵と縫い合わせる手法も彼の得意とするところだ。一方、新平の作品はシャープでクールな画風が持ち味。ガラスに複数の情景が写り込んだかのように、幾つものモチーフが半透明かつ断片的に重なった作品や、同一モチーフを異なる視点・時間で切り取った作品で知られている。ともに多層的な時空間を描いているが、水田の作品が私的、抒情的であるのに対し、新平の作品は硬質で、光学的、デジタル的とも言える。ほぼ同世代の2人が見せる対照的な世界観を見比べられるのが、このダブル個展の醍醐味だ。

左:水田寛「中断と再開」、右:新平誠洙「windows upset」

2015/05/20(水)(小吹隆文)