artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

プレビュー:Studio Exhivisit 2015 12スタジオと12の展覧会

会期:2015/04/29~2015/05/10

trace、punto、凸倉庫、うんとこスタジオ、ウズイチ・ウズマキスタジオ、山ノ内造形室、shima、Ink、G Art Studio、むこうスタジオ、淀スタジオ、共同アトリエ蓮華荘[京都府]

美大が多い京都では、若手アーティストを中心に、複数の作家で共同スタジオを構えるケースが少なくない。それらのうち12の共同スタジオが一斉に企画展を開催する。作家の制作場所を公開するオープンスタジオは以前から行なわれていたが、この「Studio Exhivisit」は更なる発展形として企画展を行うのが目新しいところ。また、公開イベントやワークショップ、カフェも催され、共同スタジオの可能性拡張を目指している。会場が市内一帯に分散しているので全部を見るのは大変だが、チャレンジしがいのある企画である。
ウェブサイト:http://www.studio-exhivisit2015.com/about.html

2015/04/20(月)(小吹隆文)

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2015

会期:2015/04/18~2015/05/10

虎屋 京都ギャラリー、有斐斎 弘道館、京都市役所前広場、コム デ ギャルソン京都店、堀川御池ギャラリー、嶋臺ギャラリー、ギャラリー素形、誉田屋源兵衛 黒蔵、無名舎、花洛庵(野口家住宅)、両足院(建仁寺内)、ASPHODEL、祇園新橋伝統的建造物、SferaExhibition、村上重ビル 地下[京都府]

京都市内の伝統的建造物、寺社、現代建築などを舞台に開催される国際写真展。3回目となる今年は、「TRIBE ─あなたはどこにいるのか」をテーマに市内中心部15会場で開催されている。出品作家は、ジャズの名門ブルーノートで写真撮影を担当したフランシス・ウルフ、20世紀を代表する写真家の一人マルク・リブー、現代文明に背を向けて自給自足生活する人々を捉えたルーカス・フォリア、大阪で共に過ごしたパンクスやスケーターたちとの破天荒な日常を生々しくドキュメントした山谷佑介、1950年代に能登の海女を取材したフォスコ・マライーニ、アフリカ・コンゴの平和主義のお洒落紳士たち「サプール」を紹介するボードワン・ムアンダなど、9カ国14組。全体を通して多文化主義が貫かれており、企画時期から直接の関係はないと思われるものの、結果的に今年1月にパリで発生したシャルリ・エブド紙襲撃事件への応答となっている。毎回、優れた写真作品と京都の歴史・文化を共に味わえる「KYOTOGRAPHIE」だが、今回はテーマの時事性という観点からも高い評価が得られるだろう。
ウェブサイト:http://www.kyotographie.jp/

2015/04/17(金)(小吹隆文)

ラース・ミュラー 本 アナログリアリティー

会期:2015/04/10~2015/05/30

京都dddギャラリー[京都府]

スイスを拠点に国際的に活躍する出版者でデザイナーのラース・ミュラー。彼の仕事を紹介する本展では、会場に設置された白いテーブルと壁面の小棚に100冊の書籍が並び、観客が手に取って読める図書室のような形式がとられた。グラフィック・デザイン展で出版メディアが並ぶ場合、実物に直接触れられる機会は思いのほか少ない。書籍が痛む可能性が高いからだ。本展ではリスクを承知した上で最も効果的な形式を採用しており、それはコンテンツに対して最適な形式と素材を追求するミュラーの仕事とも合致する。スイス・デザインの正しき継承者であるミュラー。筆者自身はその厳格さにしんどさを感じることもあるが、こうして彼の仕事を概観できたのは嬉しい限り。また、本展では建築家の藤本壮介が展示デザインを担当し、ミュラーの世界観と合致したミニマルな空間を作り上げていたことを付記しておく。

2015/04/16(木)(小吹隆文)

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肉筆浮世絵 美の競艶 ─浮世絵師が描いた江戸美人100選─

会期:2015/04/14~2015/06/21

大阪市立美術館[大阪府]

アメリカ・シカゴの日本美術収集家ロジャー・ウェストン氏が所蔵する肉筆浮世絵から、厳選した約130点を紹介している。浮世絵版画が量産品であるのに対し、肉筆浮世絵は1点物で希少性が高く、130点もの作品が揃う機会は極めて貴重だ。また、本展では江戸初期から明治に至る肉筆浮世絵の流れを通観することができ、その点でも高い評価が与えられる。さらに、浮世絵は上方で発生し江戸で発展した歴史的事実を踏まえ、上方の絵師をしっかりとフォローしているのも本展の特徴。その初期浮世絵ではダイナミックな線描が用いられ、女性美の基準が後世と明らかに異なるなど、興味深い事実を知ることもできた。こうした名品が国内に残っていないのは残念だが、外国人が日本美術を深く愛し、大切に保存してくれたことに感謝したい。

2015/04/13(月)(小吹隆文)

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奈良礼賛~岡倉天心、フェノロサが愛した近代美術と奈良の美~

会期:2015/04/11~2015/05/24

奈良県立美術館[奈良県]

明治初期にアーネスト・フェノロサと岡倉天心により行われた調査により、その価値を再評価された正倉院宝物や仏教美術を中心とする奈良の文化財。本展ではその事実を基軸に、奈良の文化財に着想を得た狩野芳崖や横山大観らの絵画、彫刻、美術工芸品など112点を紹介している。本展を見る前は、展覧会タイトルから歴史画や風景画が並んでいるものと思っていたが、実際はそうした作品以外に模造・模写も数多く出品されており、筆者自身はむしろ後者に感心した。竹内久一、山田鬼斎による仏像の模造、横山大観、菱田春草、寺崎廣業らによる仏画の模写、小松松民、六角紫水らの工芸品模造、それらが持つ高い技巧と表現力に魅了されたのだ。他には、平櫛田中による岡倉天心の肖像《五浦釣人》、狩野芳崖の傑作《悲母観音》の下絵、芳崖と天心のスケッチやメモ書きなども興味深かった。敢えて僭越な物言いをするが、本展は予想外の拾い物である。

2015/04/10(金)(小吹隆文)

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