artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
プレビュー:Art Court Frontier 2015 ♯13
会期:2015/08/01~2015/09/12
ARTCOURT Gallery[大阪府]
美術界の第一線で活躍するキュレーター、アーティスト、ジャーナリスト、批評家などが、出展アーティスト1名を推薦する形式で行なわれる年次展。13回目となる今年は、contact Gonzo(推薦者:安倍美香子/朝日新聞記者)、谷口嘉(推薦:以倉新/静岡市美術館学芸課長)、東畠孝子(推薦:豊永政史/デザイナー)、堀川すなお(推薦:吉岡恵美子/インディペンデント・キュレーター)の4組が出品。出展アーティスト数を敢えて例年の約半数に絞ることにより、展示スペースの制約を軽減し、よりダイナミックな展示が行なえるようになった。毎年レベルの高い展示が行なわれてきた同展だが、新方式の導入によるバージョンアップに期待が募る。
2015/07/20(月)(小吹隆文)
吉田重信「2011312313」
会期:2015/07/11~2015/07/26
ギャラリー知[京都府]
ギャラリーに展示されているのは、新聞記事を極端に露出アンダーな状態で撮影し、大きく引き伸ばした写真作品4点と、真っ黒なタブロー状の平面作品。前者は、2011年に起きた東日本震災の翌日3月12日とその翌日の13日に発行された地元新聞2紙で、福島県双葉郡浪江町(福島第一原発から10キロ圏内で現在も放射線量が高く帰宅困難地域に指定されている)の販売所に放置されていたものだ。後者にはその新聞の実物を鉛で覆った容器が入っており、作品表面には震災が起こった日時が刻印されている。紙面を見ると当時の緊迫した様子が伝わるが、画面が暗すぎて判読できない部分も少なくない。これは薄れゆく記憶の暗喩であり、それに抗おうとする作者の意志の表われでもある。吉田は福島県いわき市在住の作家で震災の被災者でもあるが、これまでも折に触れ東日本大震災をテーマにした作品を発表してきた。そのブレない姿勢、継続する意志を前にすると、こちらも襟を正さざるをえない。
2015/07/14(火)(小吹隆文)
東學女体描写展──戯ノ夢
会期:2015/07/10~2015/07/24
乙画廊[大阪府]
女性の裸体に墨絵を描き、撮影した写真作品の連作を出品。まず墨絵が素晴らしい。描かれているのは動物、魔物、植物、花、骸骨などだが、それらが身体のフォルムにそって装飾性豊かに配置されている。おそらく短時間で制作したと思われるが、その画力には驚かされるばかりだ。また、モデルの女性たちの表情、ポージングも作品と調和しており、東のディレクション能力の高さが窺える。写真も本人が撮影しており、紙の選択や特殊な印画法(色分解して出力しているのか?)が効果的だった。すこぶる魅力的な作品なので、一度限りの実験作ではなく、今後も継続してシリーズ化することを望む。
2015/07/13(月)(小吹隆文)
木野智史「夕凪」
会期:2015/07/07~2015/07/19
ギャラリー恵風[京都府]
ロクロ成形と磁器にこだわりを持つ木野智史。彼は約2年前から「颪(おろし)」と題したシリーズに取り組んできた。これはロクロで円環を作った後、半乾きの状態で一部をカットし、手でひねりを加えるなどしたオブジェだ。風や水流を思わせるフォルムと白い地肌、青磁釉の組み合わせが研ぎ澄まされた美を醸し出している。本展では、この「颪」が更なる発展を遂げた。2つのパーツが巴形に絡まった形状の《颪(眼)》である。また、焼成前に作品の一端を水につけることで、部分的に崩落を生じさせる《潮汐》という作品も出品されていた。さらに、鉢の口縁部に漆を施した新系統の作品《茜》も発表。一度に3種類の新機軸を発表する攻めの姿勢で、作家としてのポテンシャルをまざまざと見せつけた。
2015/07/07(火)(小吹隆文)
田中秀介「私はここにいて、あなたは何処かにいます。
会期:2015/06/30~2015/07/12
Gallery PARC[京都府]
個性豊かな具象絵画で早くから美術関係者の注目を集めていた田中秀介。具象と言っても彼の場合、多分に心象を含んだ情景で、一種の妄想あるいは切迫した心理を描いたものであった。しかし本展で彼が発表したのは、身の回りの情景を描いた日常的世界であり、その点でこれまでの作品とは趣を異にする。特徴的なのは筆さばきの達者さで、特にスピード感のある横方向のストロークを重ねた色面は快感を覚えるほどだった。つまり田中は転向した訳だが、筆者が思うに、この転向は歓迎すべきものである。旧作と新作を比べてみると、新作のほうが明らかに伸び伸びとしており、作家の資質が素直に出ているからだ。観念的な呪縛から解き放たれ、私小説的世界に新たな活路を見出した田中。これからの飛躍に期待大である。
2015/07/04(土)(小吹隆文)