artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
水田寛「中断と再開」、新平誠洙「windows upset」
会期:2015/06/09~2015/07/18
ARTCOURT Gallery[大阪府]
ともに1980年代生まれで、京都市立芸術大学出身・在籍中の画家、水田寛と新平誠洙のダブル個展。両者の作品は複数のイメージがレイヤー状に重なる、あるいは混在する点で共通するが、作風はまるで異なる。水田が主観的な記憶や情景をモチーフとし、丸みを帯びた線描と色鮮やかな色彩を用いるのに対し、新平のイメージ処理は反射や透過など光学的で、色調もモノトーン主体だ。また、水田がキャンバスを縫い合わせることがあるのに対し、新平は複数のキャンバスによる組作品を得意としている。このように異なる個性を持つ2人の作品だが、自己の境界線に対する意識や、異なる時空を自在に操る姿勢には共通性が感じられる。それは、デジタル技術が発達し、高度にネットワーク化された社会で育った世代の原風景なのだろうか。純正アナログ世代の筆者には窺い知れない、しかし現在の空気感を率直に反映した表現が、そこにはあった。
2015/06/12(金)(小吹隆文)
衣川泰典「スクラップブックのような絵画II」
会期:2015/06/09~2015/06/21
ギャラリー揺[京都府]
スナップ写真を元にした幾つもの日常風景を、1枚の画面に描いた大小の絵画作品が並んでいる。作者の衣川は、以前から雑誌などからの画像や自身が撮影した写真をコラージュ&着彩した作品を制作していたが、約2年前に絵画へ移行した。新作では地塗りの無いキャンバスの裏面を用いることで絵具の滲みを効果的に用いており、記憶のパノラマのような作品世界が一層強化されたように見える。また展示室に面した庭では、絵の題材になった風景写真をコラージュした巨大な本型オブジェも野外展示されており、屋内の作品との対比が印象的だった。
2015/06/09(火)(小吹隆文)
Konohana’s Eye ♯8 森村誠「Argleton far from Konohana 」
会期:2015/06/05~2015/07/20
the three konohana[大阪府]
地図や辞書から特定の文字を塗りつぶす、切り取るなどした作品で知られる森村誠。作品から垣間見えるのは、過剰なまでの情報社会とそれに依拠する人間の姿であろうか。また、制作にかかる膨大な時間と労力、ストイックな姿勢も、作品の存在感を下支えしている。本展では、雑誌や広告に掲載された大阪市内の地図を素材とし、文字情報を消した地図を大量に繋ぎ合わせて架空の都市を出現させた。ちなみに展覧会タイトルの「Argleton(アーグルトン)」とは、2008年にグーグルマップ上で発見された実在しないイギリスの町で、森村の作品世界と奇妙なシンクロを見せている。作品は、刺繍枠をフレームとする小品の他、無限に拡張可能な大作、天井から吊るすタイプなど。これまでにない多様性が感じられ、彼の過去の個展と比べてもスケールの大きなものであった。
2015/06/05(金)(小吹隆文)
柴田精一 新作展
会期:2015/05/30~2015/06/27
折れ曲がりのあるレリーフや、万華鏡のイメージを思わせる切り紙作品などで知られる柴田精一。本展では上述した作品の他、雀や猫をモチーフにした絵画作品を出品。絵画は、複数の筆が並ぶ特製品を用い、複数の同一モチーフを同時に描くという珍しい手法が取られていた。雀を咥えた猫を描いた絵画や、女性の顔の周囲を複数のカラスが飛翔するレリーフなど不気味な印象を与える作品もあったが、その背景には「神戸連続児童殺傷事件」(1997年)があるとのこと。犯人と同世代で神戸育ちの柴田があの事件から受けた影響の大きさに思いを馳せた。さらに驚愕したのは、本展の会期中に事件の犯人だった少年Aが単行本を出版したことだ。この不可思議な共時性は一体どういうことだろうか。
2015/06/05(金)(小吹隆文)
磯山晴美展
会期:2015/06/02~2015/06/14
LADS GALLERY[大阪府]
紙に刺繍を施した平面作品を出品。刺繍といっても図柄や模様を縫うのではなく、長短さまざまな線の集積を糸で表現している。また、一部の作品はガラス片などを用いてコラージュを施していた。無造作なようでいて実は周到な配慮に基づいて構成された作品は、理知的な抽象絵画としての側面と、クラフトのような手作りの質感を併せ持っている。それゆえ現代美術に不慣れな人でも抵抗なく受け入れられるだろう。作者は岡山県在住で、元々は絵画を制作していた。本展でも数点だが、絵画作品を出品している。
2015/06/02(火)(小吹隆文)