artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

Volez, Voguez, Voyagez Louis Vuitton 空へ、海へ、彼方へ ─ 旅するルイ・ヴィトン展

会期:2016/04/23~2016/06/19

「旅するルイ・ヴィトン展」特設会場[東京都]

ルイ・ヴィトン展特設会場[東京都]


「旅」をテーマにルイ・ヴィトンの歴史をたどる世界巡回展の日本展。三菱一号館美術館の「PARIS オートクチュール展」でも監修を務めたガリエラ宮パリ市立モード美術館館長オリヴィエ・サイヤールが監修し、演出家のロバート・カーセンが会場を構成。会場は東京・紀尾井町に仮設された建物。外観はいかにも仮設の建物なのだが、中に入るとコーナー毎にそれぞれ趣向が凝らされた驚くほどラグジュアリーな空間が連続する。たとえば創業の原点を扱ったコーナーでは、部屋の中央に木製トランク制作のための古い木工工具、周囲には工房の写真、商標のスケッチなどの資料がならび、部屋全体は上質な木のパネルの内装。船の旅のコーナーは船の甲板、自動車の旅のコーナーは木立の中の道、空の旅では雲の上、列車の旅は一等客車のイメージというぐあいだ。全体はルイ・ヴィトンとその製品の歴史がクロノロジカルに構成され、合間合間にコラム的にトランクのヴァリエーション、オートクチュール製品、セレブリティたちの特注品、アーティストとのコラボレーション作品、ガストン-ルイ・ヴィトンのバッグ・コレクションなどが挿入される。展覧会として優れていると感じたのは、自社製品を並べるだけではなく、同時代のファッションやアートを合わせて展示することで、単なるハイブランドの一企業史展ではなく、ラグジュアリーファッション史、上流階級の生活文化史の展覧会としても見ることができる点だ。たとえば自動車の旅のコーナーには20世紀初頭にラルティーグが撮影した自動車ドライバーたちの写真が展示されおり、その手前に革製のゴーグルや自動車用トランク、工具入れなどが並ぶ(ラルティーグの写真をこのように見せることができるのかと感心した)。歴史的なドレスはガリエラ宮パリ市立モード美術館のコレクション。まるで部屋の装飾品のようにさりげなくクールベ《オルナン近くの風景》が壁に掛かっている。ルイ・ヴィトンの製品がどのような人々にどのようなシチュエーションで用いられていたか、当時の人々にとって何が新しかったのかが伝わる展示構成なのだ。逆に言えば、歴史の重みを背景に新しさを演出することこそがハイブランドをハイブランドたらしめていることを痛感させられた展覧会だった。贅を極めたこの展示が入場無料、撮影自由というところも驚き。日本のブランド企業にとっても、この展示とその背後にあるLVMHグループの戦略には学ぶところが多くある。[新川徳彦]

2016/06/14(火)(SYNK)

女子美染織コレクション展Part6×渡辺家コレクション TEXTIL DESIGN ─ 時代をうつす布 ─

会期:2016/06/11~2016/07/24

女子美アートミュージアム[神奈川県]

享和元年(1801年)に創業した浅草「駒形どぜう」本家の長男に嫁いだ渡辺八重子氏(昭和7年生)は、伝統的なお細工物(布製の小物)の創作と伝承に努めるかたわら、多年にわたって着物や古布を蒐集してきた。史料の散逸を防ぎ、教育に活用して欲しいとの願いから、多数の染織コレクションを所蔵している女子美術大学にそのコレクションが一括して寄贈されることになった。本展は2014年に寄贈された約2000点に上るコレクションの中から特に渡辺氏の記憶に残る打掛、振袖、子供の着物に焦点を当てて約60点を選んで紹介する企画。江戸末期から昭和にかけての着物に加え、女子美が所蔵する旧カネボウコレクションの江戸時代前期から後期の小袖が展示されている。
出展作品のなかでもとくに興味惹かれた着物は、大正期から昭和初期にかけてのもの。化学染料の普及で色彩が豊かになり、アール・ヌーヴォーなど西洋の美術・デザインの影響を受けて伝統的な着物の意匠とは異なる多様なモチーフの図案が現れた時代だ。子供の着物には、子犬や玉乗りをするピエロ、飛行船と行進する人形の兵隊を組み合わせたモチーフ(これは「戦争柄」の一種か)など、可愛らしい意匠が見られる。列車と走る犬をモチーフにした面白い柄の浴衣地もある。 孔雀模様はアール・ヌーヴォーの影響か。大人の着物にはバラやユリの花など、明治以降に栽培・鑑賞されるようになった植物がモチーフとして大胆にあしらわれているものも。海軍をイメージする桜錨文様の帯は売上の一部が国のために寄付されるものだったという。まさに布は時代を映し今に伝えるメディアでもあるのだ。
着物の一部は着装姿で展示されている。主にフォルムの歴史的変化に焦点が当てられる西洋ファッションでは着装による展示が一般的であるが、江戸時代以降、長らく小袖を標準型として展開してきた日本の着物は、衣桁に掛けて意匠を大きく見せる展示が一般的。着装にすると帯で締めるために生地が傷むなど、資料保存の点でもあまり望ましくないのだそうだが、今回は寄贈者である渡辺八重子氏の許可を得てこのような展示が実現したとのこと。帯や半襟はなるべく同時代のものを選び、着付のスタイルも時代を合わせているという。筆者は着物の実際についてほとんど知識がないのだが、なるほど、着装で展示することで、じっさいの意匠の見えかたが分かるばかりでなく、裾裏に施された文様の見せかたなど、着物を着る人々の細部へのこだわりをも見せることができることを、この展示で知った。[新川徳彦]


左:渡辺家コレクション展示風景 右:女子美染織コレクション展示風景

2016/06/13(月)(SYNK)

ポール・スミス展 HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH

会期:2016/06/04~2016/07/18

京都国立近代美術館[京都府]

英国のファッションデザイナー、ポール・スミス(1946~)。彼が率いるブランド、ポール・スミスは1970年にロンドン、ノッティンガムの裏通りに構えた小さな店にはじまり今や世界約70ヶ国で展開している。本展は、その軌跡を振り返り、ポール・スミスの創造性や世界観に迫る展覧会。2013年にロンドンのデザインミュージアム開催された「HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH」展が、ベルギー、スコットランドを経て日本に上陸したもので、国内では京都国立近代美術館の後、上野の森美術館、松坂屋美術館を巡回する予定である。かつて1998年から1999年にかけて国内3カ所を巡ったポール・スミスの展覧会、「トゥルーブリット」展もまた、1995年にデザインミュージアムで開催された「Paul Smith True Brit」展の巡回展であった。ポール・スミスの自宅や仕事場から会場に持ち込まれた、彼にインスピレーションを与える写真、絵画、イラスト、玩具、小物や雑貨類をはじめ、最初のショップやアトリエの実物大再現、カラフルなストライプにペイントされたローバー社の《ミニ》(日本で初公開となるニュー・ストライプ版)など、いくつかの展示内容は本展にも再登場している。
ファッション・ブランド、ポール・スミスは日本国内でも変わらぬ人気を維持している。ポール・スミスが日本に進出した1984年、日本のファッション界はいわゆるDCブームに沸いていた。以来、当時は脚光を浴びたブランドが次々と失墜していくなかで、ポール・スミスはクラシックでありながら古びることなく、どこかひねりの利いた、洒落感漂うブランドとして第一線を走ってきた。本展では、その秘訣がデザイナーの感性にあることをあらためて認識させられた。感性と言ってしまえばあまりにも当然のことのようだが、彼の場合は常に自身のインスピレーションを刺激するものを探し、収集し、反応し続け、しかも楽しみながら好奇心を失うことなくその行為を継続しているようにみえる。いつまでも若々しい感性とそれを表現するのに相応しいスタイル、 その両方を備えているのである。もともと自転車競技の選手志望だったポール・スミスは、服飾やデザインの教育を受けないままファッションの世界に飛び込み、最初のコレクションのデザインは後に妻となるポーリーンが手掛け、その後も服づくりについてはポーリーンが支えてきたという。夫婦両輪で走る、その体制が軽快で柔軟な姿勢の基盤となっているようにに思われる。
展覧会は全展示撮影可。インスタグラムやツイッター用の撮影コーナーまで設けられているというオープンマインドぶりもポール・スミスらしい。[平光睦子]

2016/06/12(日)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00035469.json s 10124698

ポンピドゥー・センター傑作展 ─ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで─

会期:2016/06/11~2016/09/22

東京都美術館[東京都]

「ポンピドゥー・センター傑作展」である。「ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで」である。コンセプト重視、斬新な切り口、新しい見せかたの展覧会が主体の昨今にあって、なんとアナクロなタイトルだろうか。そんな展覧会が東京都美術館で3ヵ月以上にわたって開催される。それでもこの展覧会に早々に出掛けたのは、展示デザインを建築家の田根剛が手がけていると聞いたからだ。田根が2014年のミラノサローネでシチズン時計のために制作したインスタレーション「LIGHT is TIME」(と、その東京凱旋展)、2015年に21_21 DESIGN SIGHTで開催された「建築家 フランク・ゲーリー展」のディレクションは強く印象に残っている。なので、この展覧会については作品そのものよりも、作品をどのように見せるのかということへの関心が先にあった。ところが展示デザインのみならず、作品セレクションの方法もとても興味深いものであった。
出品作家、作品のセレクションのルールは一見シンプル。ポンピドゥー・センターの所蔵作品から、フォービズムが始まる1906年からポンピドゥー・センターが開館する1977年までの71年間について、1年1作家1作品を選んでクロノロジカルに展示するというものだ。絵画、彫刻、映像、写真、デザイン、建築など、ジャンル、様式の縛りがなく、まるでキュレーションを放棄したかのように見えるかもしれない。しかしながらじっさいにはセレクションのルールは複雑だ。作品はその年に制作されたもの。同じ作家は一度だけしか登場しない。ピカソ1935年の作品《ミューズ》を選んだら、その年には他の作家の作品は入らないし、別の年にピカソの他の作品が登場することもない。また、作家はフランス人もしくはフランスに滞在して作品を制作したことがあるアーティストだ。こうした制約条件の下で選ばれた出品作品は、それぞれの時代に共通する空気と多様性の双方を見せると同時に、「そもそも傑作とは何か」という問いかけにもなっている。
作品はすべて仮設の展示台に設置され、既存の壁面は使用されていない。展示台はフロア毎に地階は赤、1階は青、2階は白のトリコロールを基調にしつらえられている。ただフランス国旗の色そのままではなく、同じフロアでも展示台ごとに少しずつ色調、明るさが異なっている。筆者は言われるまで地階の赤と2階の白にヴァリエーションがあることに気がつかなかった。田根によれば、 作品画像をもとに背景の色味をシミュレーションして決めたという。展示台のスタイルもフロア毎に異なる。地階は本来の壁面に対して仮設のパネルが斜めに配されている。1階は本の見開きをイメージしたというジグザグのスタイル。2階展示室は円形で、これはポンピドゥー・センターの展望台のイメージだそうだ。展示室全体の明るさもまた上階に進むほど明るくなっている。全体に共通するエレメントは、作品、作品解説、作者のポートレート写真、そして作者のことば。ただし、これらのエレメントの配置はフロア毎に異なっていて、上階に進むほど、作品と作家解説のあいだに距離がある。展示室に入れば、そのデザインを意識せずにはいられない。だからといって作品鑑賞が妨げられることはない。作品数が多いためにレイアウトに苦労したと田根は語っていたが、仮設の壁面をうまく利用して、ゆったりと作品に集中できる空間になっていると思う。ポンピドゥー・センターの建物をモチーフにした文字を用いたチラシのデザインはGlanzの大溝裕。
最も印象に残った作品は1923年、建築家ウジェーヌ・フレシネが設計した《オルリーの飛行船格納庫》の建設現場を撮影した約8分の映像。高さ約60メートル、アーチ状の鉄筋コンクリート製巨大格納庫が3基のクレーンを除きほぼ人力で建造されるさまに圧倒される。また、第二次世界大戦終戦の年、1945年のパネルは空白(図録の当該年の見開きページは黒く塗りつぶされている)。なにもないパネルの前に立つと、エディット・ピアフが歌う「バラ色の人生」(1945年作詞)が聞こえてくる。[新川徳彦]


地階の展示風景


1階の展示風景


2階の展示風景

2016/06/10(金)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00035369.json s 10124701

イングリッシュ・ガーデン ─英国に集う花々─

会期:2016/04/29~2016/06/26

京都文化博物館[京都府]

産業革命以降、英国人にとって、「都市」と「田園」は常に重要な対概念となってきた。緑なす地方のカントリー・ハウスで貴族階級によって展開されてきた広大な庭園は、近代化に伴い、規模と形式を変えて一般市民にも広まっていく。英国人の園芸・自然愛好は、同国が最初の工業国家であることと切り離せない。むろん大英帝国の拡大と轍を同じくして、海外植民地から植物を輸入したプラント・ハンター達の活躍と近代植物学の発展も見逃すことができない。本展は、キュー王立植物園の所蔵する植物画をメインに、自然に魅せられ植物をデザインに取り入れた近代デザイナーの作品群を加え、およそ180点を展示するもの。ロンドンのキュー・ガーデンに行った人が必ず訪れるのが、19世紀半ばに建てられたパーム・ハウス(ヤシ類の大温室)だろう。植物が生育する熱帯の気候を再現した同室は、ガラスと鉄でできた近代的建造物。世界で最も早いプレハブ建築として知られる、1851年ロンドン万博の水晶宮は、造園家であったジョセフ・パクストンが温室を参考にして設計した。興味深いことにパクストンは、出展された植物画の通り、オオオニバスの葉の曲線構造に着想を得て設計を行なったという。かように、19世紀の近代技術と植物学の繋がりは深いのだが、デザインも密接にそれと関係している。そもそもボタニカル・アートとは、「科学的な植物画」であり、植物学の分析的な観点から正確に描写されたもの。本展で展示されたクリストファー・ドレッサーのデザイン製品は、彼の経歴が植物学者であったことからもわかるように、植物の形態を分析的に捉えて抽象し、装飾に相応しいように模様化している。ウィリアム・モリスとアーツ・アンド・クラフツ運動のデザイナーたちが表象する自然は、それとは異なる性質を持っている。描かれた多種の花々を愛でるだけでなく、近代英国の文化的諸相についても思いを巡らすことできる展覧会。[竹内有子]

2016/06/08(水)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00035474.json s 10124696