artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

モードとインテリアの20世紀 ─ポワレからシャネル、サンローランまで─

会期:2016/09/17~2016/11/23

パナソニック汐留ミュージアム[東京都]

ファッションやテキスタイルに関連する展覧会が各所で開催され、多くの観覧者を集めている関東周辺のミュージアムであるが、汐留ミュージアムの企画は、建築やインテリア等、生活文化を主題とした展覧会を多く開催してきた同館ならではのファッションとインテリアとの関わりをテーマとした展覧会だ。出品されている衣装の数々は、すべて島根県立石見美術館のコレクション。石見美術館が20世紀西洋ファッションの流れをたどる作品を収集してきたのは、この地方が世界的に活躍するファッションデザイナーのパイオニアとして知られる森英恵の出身地だからだ。収集品は衣装にとどまらず、ファッションに関わる絵画、版画、彫刻、工芸、写真など多岐にわたる。そのコレクションとインテリアとを組み合わせる企画が生まれたのは、本展を担当する宮内真理子学芸員が関わったウィーン工房展(2011/10/08~12/20)がきっかけだという。同展には石見美術館が所蔵するウィーン工房によるモードと工芸品が出品されている。また、衣装を身にまとった人が環境と融合して初めて美しい空間となり得るというウィーン工房の思想に感銘を受けたことも本企画の背景にあるという。
ウィーン工房と20世紀初頭のモードには浅からぬ縁がある。ファッションデザイナーのポール・ポワレは、ドイツ、オーストリアに渡った際に装飾芸術展を訪問し、ウィーン工房の活動に注目。ウィーン工房を設立したヨーゼフ・ホフマンとも知遇を得ていた。1911年にポワレがデザイン学校を開設した背景にも、ウィーン工房の影響がある。ポワレがオートクチュールのデザイナーとして初めて香水など衣装以外の商品を売り出し、デザイン学校を設立し、室内装飾をも手がけたことを考えれば、ウィーン工房の影響の大きさ、本展示がシャルル・フレデリック・ウォルトではなくポール・ポワレから始まっていることにも納得がいく。ただし、この展示がファッションとインテリアを総合芸術として提示し得たかという点は留保したい。さまざまなデザイナーの衣装が隣り合わせて並ぶ展示室は、デザイナーの思想をたどるというよりも様式史の印象だ。ウィーン工房展に倣うならば、扱う期間とデザイナーを絞り、インテリアとの関係についてモードの発信側にもっとフォーカスしても良かったのではないだろうか。インテリア関連の実物資料は少なく写真や雑誌が中心であるが、 イラストレーターの福田愛子氏が同時代の資料に基づいて描き下ろしたという室内風景のパネルを衣装の背景に配する試みは、とてもよい。[新川徳彦]


展示風景

関連レビュー

ウィーン工房1903-1932──モダニズムの装飾的精神:artscapeレビュー|SYNK(新川徳彦)

2016/09/16(金)(SYNK)

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現代日本のパッケージ2016

会期:2016/09/17~2016/11/27

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

第55回ジャパンパッケージングコンペティション(一般社団法人日本印刷産業連合会主催)、2016日本パッケージングコンテスト(公益社団法人日本包装技術協会主催)の受賞作品、および『JPDAパッケージデザインインデックス2016』(公益社団法人日本パッケージデザイン協会刊)から選ばれた作品による、最新のパッケージの数々が並ぶ展示。
私たちが日々購入する商品はなんらかのパッケージによって梱包されている。人々はパッケージのデザインによって目当ての商品を見つけ、あるいはパッケージのデザインによって新たな商品の存在を知る。パッケージには店頭で消費者に商品を手に取ってもらうためのさまざまな工夫、仕掛けがなされている。パッケージデザインに求められるのは、プロモーションとしての要素だけではない。開封・密封のしやすさなど使い勝手の改良や、環境に配慮した簡易包装やリサイクルしやすい素材の使用など、そこには解決すべきさまざまな課題があり、それに対する回答、進化の姿を見ることができる。例えば、ヱスビー食品の和風香辛料改良キャップ(2016日本パッケージングコンテスト・アクセシブルデザイン包装賞)は、旧キャップが数回転させなければならなかったのに対して、改良キャップは2分の1回転でカチッという音がして密封される。表面的には新旧の違いは分からない。日清クッキングフラワー(ジャパンパッケージングコンペティション・経済産業省製造産業局長賞)は小型のボトルで、蓋の半分には穴が開いて調理素材に振りかけることができ、もう半分には計量スプーンが入る穴が開いており、2通りの方法で少量の小麦粉を使いやすいよう工夫されている。資生堂・クレ・ド・ポー ボーテ ラ・クレーム(2016日本パッケージングコンテスト・アクセシブルデザイン包装賞)は、レフィルによって樹脂使用量を約73%削減しているという。カットグラスのような本体の美しさと、交換作業が容易なレフィルの構造、素材使用量の削減という複数の課題に同時に応えたパッケージデザインだ。
『JPDAパッケージデザインインデックス2016』からは、シズル表現をテーマにセレクトしたパッケージが並ぶ。シズル感といえば、内容物のみずみずしさなどをヴィジュアルで表現することが一般的だが、ここでは写真やイラスト以外に、文字や形態によってシズル感を表したパッケージが並び、その表現の多様性にとても新鮮な印象を受けた。
新旧パッケージを並べて改良点を示すなど、展示はとても分かりやすい。デザインに関わる者はもちろんのこと、一般の消費者にも有用な展覧会だ。パッケージデザインにどのような工夫がされているのかを知れば商品を選ぶ目線が変わる。消費者の目線が変わればパッケージデザインはさらに進化するはずだ。[新川徳彦]

2016/09/16(金)(SYNK)

グラフィックトライアル2016 crossing

会期:2016/06/11~2016/09/11

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

11回目となるグラフィックトライアルのテーマは「Crossing:横断・過渡・交差」。これまでのグラフィックトライアルではオフセット印刷における多様な表現の試みが行なわれてきたが、今回からはそれに加えてシルクスクリーンなどの特殊印刷技法も併用され、4名のクリエイターとプリンティングディレクターの協業によるユニークなトライアルが行なわれた。アラン・チャンのトライアルは陰陽五行説。森羅万象を司る木・火・土・金・水の5つの元素に宿る意味を、モチーフとなるオブジェ、5つの数字、用紙とモチーフの質感の印刷による再現によって表現している。特色金よりも特色イエローのほうが金の質感をよく表現できているところが面白い。えぐちりかのトライアルは剥離する印刷。オフセットとシルクスクリーンの組み合わせにより、触れたり擦ったりすると表面が剥離してその下の図像が現われるというテクスチャーを作っている。最終的なポスターには女性ヌードのモザイク写真がモチーフとして使われているが、表面を剥離すると何が現れてくるのか、じっさいに確かめてみることが出来なかったのが残念だ。保田卓也のトライアルは色の混ざり合い。オフセット印刷でグラデーションを表現するには網点を用いるが、今回のトライアルではあえて網点の角度を揃えたり、ベタ版の左右に異なるインキを入れて物理的に混色したり、印刷機のインキキーによって濃淡をコントロールするなど、印刷による再現というよりもオフセット印刷機を使った新たな表現の可能性を試みている。今回最も興味深いのは新島実のトライアルで、等明度な色彩空間をつくるというもの。色相は異なるが明度は同じ色。データを作ることは容易だが、印刷による再現には困難が伴うのだという。明度は同じであっても、彩度が異なると明るさが違って見える。隣どうし並んだ色の組み合わせによっても人の目には明るさが異なって見える。新島のトライアルではプリンティングディレクターの経験、知識、勘を駆使して人間の視覚に等明度と認識される色彩空間をつくりだしている。「機械と人間の感覚をどこまで『Crossing』できるかというトライアル」(新島)なのだ。[新川徳彦]

2016/09/10(土)(SYNK)

ジョージア・オキーフ展

会期:2016/07/06~2016/10/30

テート・モダン[イギリス、ロンドン]

デビューから一世紀を経た今、20世紀アメリカを代表する女性画家、ジョージア・オキーフ(1887-1986)の足跡を振り返る展覧会。およそ100点の絵画が一堂に介した本展は、公式コレクションに一点も所蔵がない英国ではオキーフの作品を直接目にする貴重な機会だという。
本展では、オキーフの夫であり“近代写真の父”といわれる写真家、アルフレッド・スティーグリッツ(1864-1946)や彼に影響をうけた写真家、アンセル・アダムス(1902-1984)らの作品とオキーフの作品との関係性に焦点があてられた。オキーフは、スティーグリッツの写真をそのまま絵画に置き換えたような雲の画を描き、アダムスも撮影したアッシジの聖フランチェスコ聖堂を何度も描いた。会場には彼らの写真とオキーフの絵画が並べて展示されており、両者をつぶさに比較できるようになっている。オキーフの絵画に独特のまったりした陰影やモチーフをクローズアップした画面構成などには確かに写真からの影響を見て取ることができる。しかし、画面いっぱいに描かれた花の画やシンボリックな動物の骨の画といった代表作に見られる、あの独創的な表現がそこから生み出されたことにはあらためて驚かされた。模倣から独創をつくり出す素直で柔軟な感性こそが、オキーフをして常に女性画家の代表と言わしめる理由かもしれない。[平光睦子]

2016/09/09(金)(SYNK)

Undressed: A Brief History of Underwear

会期:2016/04/16~2017/03/12

ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館[イギリス、ロンドン]

タイトルにあるとおり、女性向け、男性向けの下着、200点余りの展示品によって、18世紀から現在までの西欧の下着の変遷を一望する展覧会。人の肌にもっとも近く個人的な衣類である下着、それは本質的にエロティックなものであり、下着の形状やフィット性、素材や装飾には、その時代の文化や社会におけるジェンダーやセックス、モラルに対する考え方が反映されている。そのような視点のもと、本展は「衛生と快適性」、「形態変化の装置」、「ランジェリーとくつ下」、「革命と変換」の4部で構成されている。第1部では身体を保護したりリラックスさせたり、また運動性を向上させたりする機能的な下着が、第2部ではコルセットやクリノリン、バッスルなどドレスの外観を形成するための下着が、第3部ではストッキングやガーター、ペティコートやスリップなど異性の視線を意識した下着が、第4部では現代のデザイナーたちが手掛けたアウター化した下着が展示された。展示スペースは、広大な美術館の一角、ファッションの展示室内に設けられており、16世紀から現代までの服飾の歴史をたどる常設展示とあわせて、あたかもドレスとその内部を見比べるかのような構成になっている。[平光睦子]

2016/09/08(木)(SYNK)