2022年10月01日号
次回10月17日更新予定

artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

丹下健三 戦前からオリンピック・万博まで 1938〜1970

会期:2021/07/21~2021/10/10

文化庁国立近現代建築資料館[東京都]

今年、国の重要文化財に指定された国立代々木競技場。1964年東京オリンピックでは水泳とバスケットボール会場に使用され、東京2020オリンピック・パラリンピックではハンドボールと車いすラグビー、バドミントン会場に使用された。国立競技場は老朽化により建て直しを余儀なくされたが、国立代々木競技場は耐震改修工事などを経て、なお生きることとなった。この両者の運命の違いは、端的に言って、未来に残したい建築かどうかということだろう。もはや言うまでもなく、丹下健三の代表作のひとつである国立代々木競技場は、前例のない「高張力による吊り屋根方式」という構造を駆使した巴形の屋根が特徴である。意匠的にも技術的にももっとも優れた戦後モダニズム建築とされ、いまもその威光は衰えることがない。


国立屋内総合競技場(模型)1/600(1963)秩父宮記念スポーツ博物館蔵


本展はそんな丹下健三の前半生を回顧・検証する展覧会である。今年、東京でオリンピック・パラリンピックが行なわれ、4年後の2025年には大阪で再び万博が行なわれる。その流れは1964年東京オリンピックと1970年大阪万博が開催された高度経済成長期の焼き直しとも言われている。かつて双方で活躍したのが丹下健三であることを踏まえると、いま、彼を見直す良い機会なのかもしれない。

本展は6章からなり、「戦争と平和」から始まる。なぜなら丹下健三は「戦没者といかに向き合うか」を設計上の重要なテーマと見做していたからだ。これも丹下健三の代表作のひとつである広島平和記念公園および記念館の模型や図面、写真を大々的に展示し、戦争を生き延びた人々と戦争で亡くなった人々とを結びつける建築を模索し続けたことが紹介される。また次章の「近代と伝統」では、若かりし頃の丹下健三がル・コルビュジエに傾倒したことが伺える卒業設計「芸術の館」や、ピロティ形式の2階建て木造住宅「成城の自邸」などが紹介される。国立代々木競技場や大阪万博の基幹施設マスタープランは、言わば成熟期の仕事だ。それ以前に丹下健三が何を大切にして建築家を志し、どう模索したのかという部分に触れられたのは貴重な機会だった。おそらく戦中戦後を生きた建築家にしか、「戦没者といかに向き合うか」というテーマに至ることはできないだろう。そこに力強さがあるし、欧州の近代建築の要素を取り入れながらも日本の伝統建築の美を失わなかった所以のようにも思う。国立代々木競技場の圧倒的な美しさは、丹下健三をはじめ建設関係者たちの果敢な挑戦によって実現したものだ。それは戦後復興の象徴であるからこそ、尊く映る。


展示風景 文化庁国立近現代建築資料館


芸術の館(外観透視図)(1938)東京大学大学院工学系研究科建築学専攻蔵




公式サイト:https://tange2021.go.jp/ja/

2021/09/01(水)(杉江あこ)

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しまうちみか「ゆらゆらと火、めらめらと土」、りんご宇宙 ─ Apple Cycle / Cosmic Seed

[青森県]

雪で建築が埋もれる冬に続けて《青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)》(2001)を訪れていたため、久しぶりに全体像がよく見える時期の訪問となった。そして学芸員の慶野結香から、先駆的なレンジデンス施設となった同館のとりくみを説明してもらう。ここも「中崎透×青森市所蔵作品展 シュプールを追いかけて」(2014)などのように、地域の博物館と連携し、収蔵品を借りながら、企画展をときどき開催しているという。ちょうど火と人をめぐる展覧会(しまうちみか「ゆらゆらと火、めらめらと土」)を開催中のしまうちみかも、国際芸術センターの建設時に現場で発掘された縄文土器を会場の導入に用いている。そして大量の土を持ち込む展示や野焼きの焼成など、通常の美術館ではできない作品を展開しており、安藤忠雄が設計した湾曲する空間に対応するインスタレーションを試みていた。なお、ボランティア組織や隣接する公立大の学生が制作を手伝うケースもあるという(同館に向かうタクシーの運転手も)。また洗練された毎回の印刷物が印象的だった。その後、周辺の自然のなかに設置された野外作品を散策した。近年は新作がもう増えていないとはいえ、全部を見るのにはもっと時間が必要だった。なお、創作棟の設備を見学させてもらったが、かなり充実している。


しまうちみか「ゆらゆらと火、めらめらと土」 展示風景



青木野枝の作品



創作棟


青森から弘前に移動し、《弘前れんが倉庫美術館》(2020)を再訪した。そして学芸員の石川達紘と小杉在良の両氏にヒアリングを行なう。しばらく放置されていた倉庫を美術館に転用するプロジェクトは、1990年代に一度挫折していたが、2000年代の奈良美智による倉庫を利用した展示プロジェクトが契機となって、美術館へのリノベーション計画が再起動した。なお、ショップが入る隣の棟は、民間が建設費を出している。

展示は、弘前にちなむ企画を行ない、ある意味でどストレートなタイトルの「りんご宇宙」展も、カッコよく仕上がっていた。見るからに(そして実際に)設営が大変なケリス・ウィン・エヴァンスによるネオン管を用いた作品ほか、和田礼治郎の大作など、さまざまな切り口からりんごをモチーフとした作品やリサーチが展示されていた。こうした企画展を継続し、その作品を収蔵することによって、将来は地域性が強いコレクションが形成されるだろう。


ケリス・ウィン・エヴァンス《Drawing in Light (and Time) ...suspended》(2020)



和田礼治郎《ヴァニタス》(2021)



ジャン=ミシェル・オトニエル《エデンの結び目》(2020)



「りんご宇宙 ─ Apple Cycle / Cosmic Seed」 展リサーチ


しまうちみか「ゆらゆらと火、めらめらと土」

会期:2021年7月31日(土)~9月12日(日)
会場:青森公立大学 国際芸術センター青森
(⻘森市⼤字合⼦沢字⼭崎152-6)

りんご宇宙 ─ Apple Cycle / Cosmic Seed

会期:2021年4月10日(土)~8月29日(日)
会場:弘前れんが倉庫美術館
(青森県弘前市吉野町2-1)

2021/08/28(土)(五十嵐太郎)

青森の建築、アウトプット展#03、大・タイガー立石展──トラック、トラベル、トラップ、トランス

青森県立美術館[青森県]

青森では、《青森県立郷土館》(1972)(ただし、休館中につき、外観のみ)、蟻塚学が設計した新しい《青森港国際クルーズターミナル》(2019)(コロナ禍のため休止中)、フクシアンドフクシによる《青森市庁舎》(2017)(佐藤総合ほかと共同。当初10階建ての計画だったが、アウガの空いた場所も利用することで、3階建てに変更された)や駅前のスタートアップセンター《AOMORI STARTUP CENTER》などを見学しつつ、《青森県立美術館》(2006)も訪問した。



《青森港国際クルーズターミナル》



《青森市庁舎》


最初にコミュニティギャラリーの「アウトプット展#03」を何も知らずに鑑賞したら、大変素晴らしい内容だった。アール・ブリュットの企画であり、時期を踏まえると、東京2020パラリンピックの連携企画と思いきや、もともと3年毎の開催を継続しており、3回目のタイミングがたまたま揃ったのが実情だった。つまり、五輪の一年延期がなければ、ズレていたのである。ともあれ、県内の特別支援学校と福祉事業所だけで、これだけ豊かな作品が集まり、しかも大空間を見事に使いこなしていることに感心させられた。市民向けのギャラリーとしては、相当な天井高であり、ここで効果的に展示するのは、プロの作家でも簡単ではないだろう。


「アウトプット展#03」展示風景


さて、同館では、学芸員の奥脇嵩大にヒアリングを行ない、当初から地域資料、すなわち縄文土器と現代美術を組み合わせる展示を企画していた同館の経緯をうかがう。そもそも三内丸山遺跡の存在が、この美術館の敷地決定に影響を与えている。

続いて、学芸員の工藤健志が担当した「大・タイガー立石展」を見る。やはり、《青森県立美術館》はユニークな空間をもつことから、他館と少し構成を変え、空間にあわせた展示を試みたという。特にドローイング系の作品は、強いホワイトキューブだと負けてしまうので、タタキの壁にかけるなどの配慮が行なわれた。青木淳が設計した美術館は、学芸員に対し、いかに使うのかを工夫させる展示空間と言えるかもしれない。ともあれ、「大・タイガー立石展」は、あまり知られていなかった立体を含む、膨大な作品群から、アートと漫画・建築・デザインとの接点が楽しめる。ゆえに、一般人にとっても間口が広いアートであり、建築にとっては、イタリアにおけるエットレ・ソットサスのもとでつくられた作品が興味深い。


「大・タイガー立石展」展示風景



「大・タイガー立石展」展示風景


アウトプット展#03

会期:2021年8月19日(木)~8月28日(土)
会場:青森県立美術館 コミュニティギャラリーABC
(青森県青森市安田字近野185)
主催:アウトプット展実行委員会

大・タイガー立石展──トラック、トラベル、トラップ、トランス

会期:2021年7月20日(火)~8月31日(火)
会場:青森県立美術館

2021/08/27(金)(五十嵐太郎)

ホワイトハウスと秋山佑太「スーパーヴィジョン」展

会期:2021/08/01~2021/09/05

WHITEHOUSE[東京都]

磯崎新の処女作《新宿ホワイトハウス》 (1957)にて、秋山佑太の「スーパーヴィジョン」展を鑑賞した。まず場所の説明から始めよう。これは磯崎と同郷だった美術家・吉村益信のアトリエであり、ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズの拠点になったことで伝説の家として知られる。が、現存するのか判明しない時期が長く、約20年前、美術批評家の椹木野衣らと住所の情報を片手に現地を訪れたことがあった。外観のみ見学したものの、本当に磯崎の設計なのか、と思うようなぼろぼろの二階建ての木造家屋だった。もっとも、その後、2013年に《新宿ホワイトハウス》は「カフェアリエ」として使われ、内部が見学できるようになる。室内は大きな白い壁が広がる吹き抜けが展開し、そのヴォリュームはちょうど三間の長さを一辺とするキューブを内包する。ローコストの作品だが、磯崎らしい幾何学的なデザインだろう。筆者は監修した「戦後日本住宅伝説」展(埼玉県立近代美術館を含む四館を巡回、2014-15年)において、《新宿ホワイトハウス》も紹介することにした。



《新宿ホワイトハウス》最初の訪問時の様子



「カフェアリエ」の状態



《新宿ホワイトハウス》のヴォリューム模型



再度リノベーションされた《新宿ホワイトハウス》


「カフェアリエ」は下水道の老朽化のため、2019年3月に閉店し、どうなるかと心配していたが、幸い、今年からChim↑Pomによってアートスペースとしてリニューアルされた。設計はGROUPが担当し、外部に屋根や床も増築している。さて、美術家・建築家である秋山佑太の個展は、以下の通り。導入部は口の中でセメントを練ってフォルムをつくる映像から始まり、吹き抜けにはそのフォルムを形成する大量の3Dプリンターを並べ、二階は新宿の切られた街路樹とそのかたちの複製など、建設資材をめぐる生々しい身体とデジタルの造形の往復を提示していた。今回、別会場として歌舞伎町のデカメロンや公園の一部も使われ、オリンピック期間のささやかだが長く残る公共空間への介入、街路樹を座れる切り株ベンチに転用すること、墨出しコレオグラフィ、建物のコア抜きと石膏ボードの交換、テラスに石膏ボードを積み上げて国立競技場の建設現場を眺める映像など、アートから建築をぐらぐらと揺さぶる作品群が続く。いずれもささやかな行為かもしれないが、国家プロジェクトとして強行されたオリンピックに対し、個人の身体を通じた建築的な批評を試みている。そうした意味では、1960年代にアーティストが集った《新宿ホワイトハウス》の精神を継承したものと言えるだろう。



「ホワイトハウス」での秋山佑太「スーパーヴィジョン」展



秋山佑太「スーパーヴィジョン」展 切り株をかたどったベンチ



秋山佑太「スーパーヴィジョン」展 某公園でのささやかな介入


秋山佑太「スーパーヴィジョン」展

会期:2021/08/01〜2021/09/05
会場:WHITEHOUSEデカメロンほか
公式サイト:https://7768697465686f757365.com/portfolio/wh010yutaakiyama/

2021/08/22(日)(五十嵐太郎)

The Still Point─まわる世界の静止点

会期:2021/08/06~2021/09/05

kudan house[東京都]

靖国神社からほど近い場所に建つ九段ハウス(kudan house)は、「旧山口萬吉邸をリノベーションした会員制のビジネスイノベーション拠点」。リノベとイノベが韻を踏んでるね。1927年に竣工して1世紀近い歴史を誇るこの登録有形文化財で現代美術展を開こうということだ。主催はアートのある暮らしを提案するCCCアートラボ、キュレーションは銀座蔦屋のギャラリーTHE CLUBのマネージングディレクターを務める山下有佳子氏。タイトルの「The Still Point」はエリオットの詩から引いたもので、コロナ禍で停止してしまったかのような「時間」について考えようということらしい。内外20人ほどの作品が地下も含めた3フロアに点在している。

まず1階には、ルチオ・フォンタナやサム・フランシスら巨匠の絵画が展示されているが、作品はともかく、こんな立派なお屋敷でお披露目するというのに、ただ壁にかけるだけではもったいないでしょ。階段下にはダニエル・ビュレンのストライプ絵画が立てかけてあったが、こういう展示のほうが目を引く(紅白のストライプ自体も目を引くが)。2階は名和晃平、菅木志雄らの立体が1部屋ごとに置かれているが、ここも展示に芸がない。趣向の異なる0号のキャンバスを5点並べた猪瀬直哉の絵画は、作品として唯一おもしろいと思った。地下には河原温の絵葉書、杉本博司の「劇場」シリーズ、宮島達男の鏡の数字などが展示されていて、そういえば「時間」をテーマにした展覧会であることを思い出した。まあテーマなんてどうでもいいけど。



ダニエル・ビュレンのストライプ絵画[筆者撮影]


繰り返せば、せっかく登録有形文化財の貴重な建物を借りているのに、壁に絵をかけたり床に彫刻を置いたりするだけではギャラリーと変わらない。おそらく歴史的建造物だけに「あれしちゃダメ、これしちゃダメ」と制約が多いのだろうけど、どうせやるならこの空間でしか実現できないような思い切ったインスタレーションを見せてほしかった。と思って配布されたマップをもういちど見たら、「一部を除き、作品は全て販売しております」と書いてある。あ、売り物なのね。展覧会場というよりショウルームと捉えるべきか。それなら納得。

庭に出ると、建築の焼け跡みたいな黒焦げの木材による構造物が建っている。これは「パビリオン・トウキョウ2021」の出品作品のひとつ、石上純也の《木陰雲》だ。関東大震災後に建てられ、第2次大戦の戦火をくぐり抜けてきた九段ハウスの庭に、焼け焦げて骨組みしか残らなかったみたいな建造物を建てるとは、なんと大胆な発想か。こちらは屋外だけに、まさにこの場所ならではのサイトスペシフィックなインスタレーションが実現できている。でもよく見ると、庭に直接柱を立てず、石を積んだ上に立てたり、屋根の部分もできるだけ樹木に触れないように木材を組むなど、涙ぐましい努力の跡がうかがえる。どちらもオリンピック・パラリンピックの会期に合わせた展覧会だが、オリパラが終わってからもこういう企画は続けてほしい。



石上純也《木陰雲》[筆者撮影]


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2021/08/21(土)(村田真)

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