2022年10月01日号
次回10月17日更新予定

artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

《飯山市文化交流館なちゅら》、《道の駅ファームス木島平》

[長野県]

東京国立近代美術館の「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」を見に行って、翌日訪れる北陸の少し前で途中下車すると、彼の作品があることに気づき、訪れたのが《飯山市文化交流館なちゅら》(2015)である。いまではどこでも隈建築に出会える、つまり、それだけ数多く日本各地に彼の作品が建設されているということだ。

飯山駅から歩いて5分、神社のある丘の横に《なちゅら》は建つ。外観は隈が得意とする木板に覆われた多面的なヴォリュームであり、ここはカッコよさを主張する。が、室内において、大小のホールや多目的ルームのあいだは、ナカミチと呼ぶ空間が十字に入り、建物を貫通する。ここでは、中高校生が勉強などをして過ごしていたが、ゆるさを許容する空間が効いていた。すなわち、張り詰めた緊張感を強いないデザインである。宮沢洋の『隈研吾建築図鑑』(日経BP、2021)でも、《なちゅら》は「ふんわり系」の作品として分類されていた。実際、《那須芦野・石の美術館》の前庭や《アオーレ長岡》の広場など、こういう隈の空間は、日本の地方の街に相性がいいと思う。


《飯山市文化交流館なちゅら》外観



《飯山市文化交流館なちゅら》館内を貫通するナカミチ



ナカミチと隣接する多目的ルーム



《飯山市文化交流館なちゅら》のサインデザイン


さて、飯山駅で気づいたのは、《道の駅ファームス木島平》までシャトルバスが出ていることだった。これは三浦丈典/スターパイロッツが設計し、2015年のグッドデザイン賞の金賞に選ばれており、以前から見てみたと思っていた建築である。ただ、バスの本数が少ないため、タクシーで現地に向かった(往復で3500円ほど)。

もともとはトマトの加工工場だった建築をリノベーションしたものであり、その黒い躯体に小さい家型の白いヴォリュームをいくつか挿入し、大きなスケール感を巧みに分節している。プログラムとしては、それぞれの家型にレストラン、カフェ、キッチンスタジオ、インキュベーターオフィス、加工場などの機能を与え、農業の六次産業化をめざした。グッドデザイン賞では、建築家が設計して終わりではなく、施設の出資者のひとりになって運営に関与していくことも高く評価された。もっとも、訪問時はあいにくのコロナ禍と、交通量が多い大きな国道沿いではないこともあり、あまり人がいない状況だった。イベントなどが開催されているときに再訪してみたい建築である。


《道の駅ファームス木島平》外観



《道の駅ファームス木島平》



《道の駅ファームス木島平》


2021/06/20(日)(五十嵐太郎)

松本市、長野市の建築をまわる

[長野県]

長野の新しい建築をまわった。まず伊東豊雄による信濃毎日新聞松本本社《信毎メディアガーデン》(2018)である。松本市では、《まつもと市民芸術館》(2004)に続くプロジェクトだが、今回はコミュニティデザイナーの山崎亮が入り、ワークショップを経て、設計された。ルーバーや木の格子による印象的な外観に対し、手前に大きな広場、横に水路をもうけ、一階は自社ビルにもかかわらず、カフェ付きのほとんどオープンスペースである。インテリアは、《せんだいメディテーク》をほうふつさせる仕上げだ。


《信毎メディアガーデン》外観


今春、宮崎浩が設計した《長野県立美術館》がオープンした。《長野県信濃美術館》(1966)の建て替えだが、隣接する谷口吉生の《東山魁夷館》(1990)や近くの善光寺、そして高低差のある地形など、様々な環境を読み取りながら、それらをつなぐモダニズム的なデザインになっている。ちなみに、宮崎の師匠である槇文彦による《長野市第一庁舎・長野市芸術館》(2016)も、周辺の都市の文脈をふまえた建築だった。


《長野県立美術館》外観



《長野県信濃美術館》(2009年筆者撮影)



《長野市第一庁舎・長野市芸術館》外観


長野県立美術館は、あいだに大階段や水辺テラスを挟んで(中谷芙二子の《霧の彫刻》はここで発生する)、《東山魁夷館》と向きあう一方、善光寺に対しては屋上広場から眺める絶好の視点場を提供している。無料ゾーンでは、交流スペースで「新美術館みんなのアートプロジェクト Something there is that doesn’t love a wall─榊原澄人×ユーフラテス」を開催し、L字の壁に連続する横長の映像を投影すると同時に、オープンギャラリーで開催されていた「美術館のある街・記憶・風景 日常記憶地図で見る50年」展によって過去の思い出を掘り起こしていた。


中谷芙二子《霧の彫刻》の向こうに見える《東山魁夷館》



《長野県立美術館》3F屋上の「Shinano Art Cafe」より善光寺を眺める


オープニングの「長野県立美術館完成記念 未来につなぐ~新美術館でよみがえる世界の至宝 東京藝術大学スーパークローン文化財展」は、文化財を3D スキャンして、かたちを複製する最新の技術を紹介する興味深い企画だった。仕上げは、やはり人の手を加える必要があるものの、最後にエイジングしていくと、本物らしさを獲得する。たとえハリボテでも、表層をつくりこむとわれわれの目を欺くことができるのは、映画や舞台の美術と同じだろう。が、それを文化財で突きつけられると、複雑な気持ちになる。



「長野県立美術館完成記念 未来につなぐ~新美術館でよみがえる世界の至宝 東京藝術大学スーパークローン文化財展」展示風景


長野県立美術館完成記念 未来につなぐ~新美術館でよみがえる世界の至宝  東京芸術大学スーパークローン文化財展

会期:2021/04/10~2021/06/06
会場:長野県立美術館 展示室1・2・3
ウェブサイト: https://nagano.art.museum/exhibition/superclone

新美術館みんなのアートプロジェクト Something there is that doesn’t love a wall─榊原澄人×ユーフラテス

会期:2021/04/10~2021/08/15
会場:長野県立美術館 交流スペース
ウェブサイト: https://www.culture.nagano.jp/event/5399/

美術館のある街・記憶・風景 日常記憶地図で見る50年

会期:2021/04/10~2021/06/27
会場:長野県立美術館 オープンギャラリー
ウェブサイト: https://www.museum.or.jp/event/101855

2021/06/03(木)(五十嵐太郎)

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オリガミ・アーキテクチャー 一枚の紙から世界の近現代建築を折る

会期:2021/04/09~2021/06/03

ギャラリーA4[東京都]

展示空間研究の一環として、ギャラリーA4(エー クワッド)を取材し、「オリガミ・アーキテクチャー」展を鑑賞した。ゼネコンの建築ギャラリーとして、海外の現代建築を積極的に紹介した大林組のTN Probe(1995-2008)はすでに活動を停止し、ル・コルビュジエのコレクションを紹介していた大成建設のギャルリー・タイセイ(1992-2016)は大幅に縮小され、2018年からはヴァーチャルのみになったが、竹中工務店のギャラリーA4は現在も継続している。これは東京本店ビルが銀座から江東区に移転したことに伴い、地域に開かれた社会貢献の場として2005年にスタートし、現在までに100以上の展覧会を開催した。もともと設計の業務をしていた岡部三千代(現副館長)らが社内公募でスタッフとなり、立ち上げたという。

企画の特徴は以下の通り。ほかとの差別化も意識し、現役で活躍しているスター建築家の個展は開催しないこと。逆にモダニズムを再考する企画があること(坂倉準三、藤井厚二、イームズ夫妻など)。建築写真に注目していること(石元泰博展や、レンズ付きフィルムによる写真展シリーズなど)。また展示専門委員会に美術の関係者が含まれていることから、ときどき現代アートの展示も行なう。2014年にはメセナ大賞を受賞している。

さて、今回の「オリガミ・アーキテクチャー」展は、折り紙というミニチュアによって世界の建築を紹介するものだ。「折り紙建築」は、茶谷正洋が1981年に提唱したものだが、その後、娘の茶谷亜矢、木原隆明や五十嵐暁浩らが継承し、膨大な作品が制作された。会場では、「カミわざ辞典」として、まず基本的な技法と表現を説明している。建築はそもそも抽象的な造形物だが、折り紙によって表現する際、すべては再現できないために、必然的に特徴的なかたちを選ぶ。つまり、建築を簡略化しつつも、そのアイデンティティを失わない変換を行なう。


提唱者の茶谷正洋が設計した折り紙建築の数々



茶谷正洋の関連資料も展示されていた



折り紙建築の基本的な技法と表現を説明した「カミわざ辞典」


今回の展示は、ただ折り紙建築を並べたものではない。アジア建築史の研究で知られる村松伸が監修したことで、日本と西洋だけでなく、アジア(韓国、シンガポール、カンボジアなど)、アフリカ(エジプト)、旧ソ連(ウクライナ)、南アメリカ(ブラジル)を網羅したことが興味深い。そして世界各地の動向をまとめた大きな「複数のモダンムーブメント年表」が、壁に展示されている。おそらくこれは、折り紙建築による世界建築博物館の構想なのだ。


日本の現代建築を折り紙建築で再現



代々木体育館を折り紙建築で再現



アメリカやブラジルの建築を折り紙建築で再現



世界各地の動向がまとめられた「複数のモダンムーブメント年表」


2021/05/24(月)(五十嵐太郎)

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五十嵐太郎×山梨知彦×東浩紀 「いまこそ語ろう、ザハ・ハディド」

会期:2021/05/14~2021/11/11

ゲンロンカフェ(オンライン)

ゲンロンカフェに登壇し、日建設計の山梨知彦、思想家の東浩紀の両氏と、ザハ・ハディドの新国立競技場プロジェクトについて語った約4時間のトークは、ネット上で大反響を呼び、期せずして神回となった( https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20210514?)。そもそもこの企画は、2月に新宗教をテーマとした回に筆者が出演した後、ゲンロンカフェで東氏と飲みながら雑談していたとき、監修で関わった「インポッシブル・アーキテクチャー」展の話題が出た際に発案されたものである。

すなわち、東京オリンピックがぐだぐだになっている現在、あの白紙撤回は何だったのか、また実際にプロジェクトはどうなっていたのかを語ること。展覧会でもそうだったように、キーパーソンは山梨氏である。そこでまず彼に打診し、会社の許可が得られたことから実現する運びとなった。もっとも「インポッシブル」展と同様、プロジェクトに関連する画像を使う場合、JSC(日本スポーツ振興センター)の確認が必要であり、当日どこまで新しい情報が出てくるかがわからない。そこでバックアップとして、筆者はザハ・ハディドの軌跡をたどるスライドを用意していたが、トーク本番では知らなかったことが数多く語られることになった。

例えば、4千枚の図面によって設計を終了し、確認申請の提出の準備をしている最中に、突然首相からプロジェクトのキャンセルが発表されたこと。その第一報を聞いた設計の現場では、すぐに真偽を確かめられず、「とりあえず今日は帰ってください」とスタッフに告げられたこと。その後、コンペのやり直しが決まり、デザインビルド方式になったものの、一緒に組むゼネコンが見つからず、ザハがイギリスの日本大使館にまで出向き、お願いしていたこと。山梨氏が冷静な口調で語っていただけに、無念さが推し量られる内容だった。そしてザハ事務所と日建設計が共同し、コンピュータによるシミュレーションを徹底的に遂行した新しいデザインを完成させており、貴重なプロジェクトが実現する機会を喪失したことが判明したのである。

残念ながら、当時は魔女狩りとでもいうべきマスメディアのバッシングや、実現不可能といったデマが吹き荒れる一方、守秘義務に縛られたことによって、設計者が反論できない状況だった。また『日経アーキテクチュア』が事件として関連の記事を報じてはいたが、建築学会や建築雑誌はこの問題をほとんどとりあげていない。だが、その結果、デジタル・テクノロジーと連動した設計・施工の新しいステージを推進できなかったことにより、大きな社会的な損失がもたらされた。今後、同じような事態を招かないためには、施主や設計サイドからの情報開示が必要なことはもちろん、建築に対する報道のあり方を改善しなければならないだろう。


五十嵐太郎×山梨知彦×東浩紀「いまこそ語ろう、ザハ・ハディド」(2021/5/14収録) ダイジェスト #ゲンロン210514


公式サイト:https://genron-cafe.jp/event/20210514/(公開終了 2021/11/11 23:59)


関連記事

新国立競技場問題|菊地尊也:Artwords(アートワード)

2021/05/14(金)(五十嵐太郎)

「モネ─光のなかに」、《江之浦測候所》

[神奈川県]

同日に建築家からアートへの試みと、アーティストからの建築の実践を鑑賞した。前者は、《ポーラ美術館》のコレクションを活用した企画展「モネ─光のなかに」における中山英之の会場デザインである。そして後者は海を眺望する傾斜地に杉本博司が構想した広大な建築群とランドスケープの《小田原文化財団 江之浦測候所》だ。

中山は TOTOギャラリー・間における個展「, and then」でも見事な作品の見せ方を提示し、こうしたデザインが建築的な表現になりうることを強く感じさせた。今回は湾曲したトタン板の壁に目を奪われがちだが、実は「光」がテーマである。すなわち、《ポーラ美術館》のプレキャストコンクリートによる特徴的な天井を薄く白い膜で覆い、壁との境界を消しつつ、上部からの直接照明を使わない代わりに、仮設展示壁の上部にLED照明を組み込み、天井を照らしているのだ。また壁の片面が濃い緑なのは、額の反射を打ち消す効果があるという。印象派の絵画はそもそも光の表現を工夫していたが、展示デザインによって特別な光の環境を創出している。照明器具によって、スポット的に光をあてるのではない。色温度が変化する人工的な空が室内につくられた。


「モネ─光のなかに」展示風景。中山英之が手がけた会場構成が目を引く



「モネ─光のなかに」展示風景。仮設展示壁上部に組み込まれたLED照明が特別な光環境を創出している


《江之浦測候所》は高低差が激しく、全体を散策しようとしたら、2時間はかかるだろう(展示もこれで完成ではなく、現在も作品が増えているようだ)。それにしても、贅沢な環境である。杉本が収集してきた様々な時代(白鳳、室町、江戸、明治など)の古材、石、道具などをあちこちに散りばめながら、自らの現代アート作品を効果的に配し、さらにはその空間までも本人がつくりだしているからだ。古代ローマのハドリアヌスのヴィラは皇帝にとっての記憶のテーマパークだったが、ある意味で《江之浦測候所》も、モノを媒介して歴史的な記憶と接続する杉本世界のテーマパークといえるだろう。しかも、夏至や春分・秋分の軸線に対応した象徴的なデザイン、あるいは石舞台や屋外の円形劇場などの建築ヴォキャブラリーは、古代の遺跡のようだ。なるほど、これは未来に向けて創作された時代錯誤的な遺跡である。


《江之浦測候所》の光学硝子舞台と、古代ローマの円形劇場みたいな石舞台



《江之浦測候所》竹の中の数理模型



《江之浦測候所》「化石窟」コーナー


これまで杉本の建築には、あまり実験的な構造がないことが気になっていたが、今回は「夏至光遥拝100メートルギャラリー」が抜群に刺激的だ。片面は重厚な石のテクスチャーによる壁が続くが、反対側はずっとガラスだけが続き、片持ち梁で成立させている。建築としては、ここが最大の見せ場だろう。これを抜けて、下に降りていくと、現代の作庭を味わえる。


「夏至光遥拝100メートルギャラリー」外観



「夏至光遥拝100メートルギャラリー」内部。片面は石壁、反対側はガラスが続く


「モネ─光のなかに」

会期:2021/04/17~2022/03/30
会場:ポーラ美術館
ウェブサイト:https://www.polamuseum.or.jp/monet_inthelight/

2021/05/02(日)(五十嵐太郎)

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