artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

武智和臣/Atelier A+A《オーベルジュ内子》

[愛媛県]

竣工:2009年

最後は日土小の保存活動に尽力した武智和臣が設計した《オーベルジュ内子》を見学する。土を盛って緑豊かなランドスケープをつくり、その奥で平家木造の宿が出迎える。眺めや和蝋燭の明かりを楽しむダイニングだ。分棟になった別荘のような客室群は、日が暮れると、内側から和紙越しに行灯のごとく光る。

2016/06/20(月)(五十嵐太郎)

《内子座》ほか

[愛媛県]

内子はきれいによく残された古い街並みだった。しかもあまり博物館化せず、生活の場として機能している。JIAの大会でも使われたという《内子座》へ。明治村に移築された呉服座や琴平の金丸座などと同じタイプの芝居小屋である。「なかなか遺産」に認定された映画館の旭館もいい味を出している。ここにも地元のコミュニティの核となる映画『ASAHIZA』のような映画館はあった。内子はかつて和ローソクで栄えた町であり、木蝋資料館・上芳我邸はベンガラ色の屋敷(2階は途中まで完成の不思議な空間)と従業員の炊事場や作業場、生産過程の展示などを見学できる。日建設計が修復を担当したらしい。襖の後に鉄骨を隠したり、黒色で存在感を消すなど、構造の補強を工夫している。

写真:左=上から、旭館、上芳我邸、内子座、大森和蝋燭屋 右=上から、上芳我邸、街並み、内子座、上芳我邸

2016/06/20(月)(五十嵐太郎)

松村正恒《八幡浜市立日土小学校》ほか

[愛媛県]

竣工:1958年

松村正恒の建築を見学する。松山市内のRC造の《キクノ本社ビル》(補修のせいか、半世紀も前のものとは思えない)、そして雨の降るなか、八幡浜に向かい、木造校舎の《川之内小学校》を見て、代表作の《日土小学校》はじっくりと校内の各部屋もまわる。確かに一度訪れると、ファンになる奇跡のモダニズム。プランだけを見ると、一直線の片廊下でシンプルだが、現物は光と風をコントロールする巧みな断面の操作を行なう。川辺に張り出したテラスからは本体の姿を鑑賞できる。伝統的な木造建築は上部から採光しなかったが、《日土小学校》は近代的なセンスで試みた。もともと木と鉄のハイブリッド構造だが、丁寧に補強し、透明感を損なわないどころか増している。西校舎は武智和臣による新築で、日土のスピリットを継承しつつ、現代的にデザインを展開した開放感と透明感のある木造の校舎だ。
内子に向かう途中、大洲市内にて少彦名神社の参籠殿を見学する。急傾斜に建つ超懸造と言うべき建築だ。近年、アメリカのワールドモニュメント財団から資金援助を受けて、修復したらしい。

写真:左上=《キクノ本社ビル》 右上・中上=《日土小学校》、中下=武智和臣による《日土小学校》西校舎 下=少彦名神社参籠殿

2016/06/20(月)(五十嵐太郎)

黒川紀章/黒川紀章建築都市設計事務所《道後舘》

[愛媛県]

竣工:1989年

道後温泉エリアへ。135段を登って、相の間をもつ八幡造の伊佐爾波神社に寄り、本館の風呂で汗を流してから、黒川紀章による《道後舘》を見学した。雅叙園をおとなしくしたような和風ポストモダンである。レジデンスで滞在した山口晃が、道後エトランゼマップを制作し、向かいの建物の壁のひびを富士山に見立てるなど、彼らしいおもしろスポットを紹介しており、この私的な迷所ガイドを手に散策を続けた。

写真:左=上から2つ伊佐爾波神社、《道後舘》、道後温泉本館 右=上から、伊佐爾波神社、中2つ《道後舘》、道後温泉本館

2016/06/19(日)(五十嵐太郎)

丹下健三/丹下健三計画研究室《愛媛県県民文化会館》

[愛媛県]

竣工:1985年

都心に戻って、丹下健三の《愛媛県県民文化会館》へ。前面の大きな広場と突き出すヴォリュームは、屋内のホールや施設の構成と響き合い、建築を都市スケールで展開する壮大なデザインの意図は理解できるが、まわりがあまりに殺風景なので、周囲との関係をつくるのが難しい敷地だ。ひとり相撲に陥っている。今治の丹下建築だと、ヒューマンなスケールとサイズなのだが、こちらは巨大過ぎるかもしれない。

2016/06/19(日)(五十嵐太郎)