artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
《マーシャルフィールドビル》《カーソンピリースコット百貨店》
[アメリカ、シカゴ]
三度目のシカゴだが、まずは昔のこの街らしさを最も感じるループエリアを歩く。初めて訪れたのは、もう20年以上前だが、ほとんど変わっていない。店子は変化しても、建築は同一性を維持している。せっかくの資産を自ら壊し、オウンゴールを続ける横浜と違い、近代建築の発祥の地を本当によく残している。特にダニエル・バーナムによる《マーシャルフィールドビル》を見てから、ルイス・サリヴァンが設計した《カーソンピリースコット百貨店》に入ると興味深い。前者は古典主義の意匠を採用しているが、近代的な構造のデパートのために、空間の縦横比が違い、西欧の古建築に見慣れていると、プロポーションのおかしさが気になってしまう。一方、後者は中世的な新意匠を開発し、比例の奇妙さをうまく回避している。
写真:上段=《マーシャルフィールドビル》、下段=《カーソンピリースコット百貨店》
2015/12/27(日)(五十嵐太郎)
食堂の壁
[埼玉県深谷市]
竣工:2014年
深谷にて、宮晶子が設計した洋食レストラン「食堂の壁」に入る。異なる角度にふられた壁を並べていく建築の試みは、以前、彼女が手がけた住宅や新・港村のインスタレーションでも拝見したが、こうした空間の形式は特に客があちこちに点在する飲食店というプログラムとの相性がとてもよい。室内のさまざまな場所同士において実際の距離とは違う、独特の距離感をつくるからだ。またレストランの外を一周すると、角度によって見え方もさまざまに変化していく。なお、ここの食事も大変美味しいので、アクセスはよくないが、遠くまで足を運んだ自分への褒美として訪れる価値がある。
2015/12/18(金)(五十嵐太郎)
深谷駅
[埼玉県]
深谷駅は、東京駅のコピー建築になっており、しかも駅前の商業建築も少し東京駅風を意識したものがあった。藤原徹平のAOIメディカル・アカデミーが、駅の改札前のデッキから見え、平凡な風景のなかでビルの側面がファサード的にふるまう。
写真:上=深谷駅、下=AOIメディカル・アカデミー
2015/12/18(金)(五十嵐太郎)
北本駅西口駅前広場
[埼玉県]
アトリエ・ワンによる北本駅の西口駅前広場へ。これがまだ企画段階だったとき、北本を訪れていたが、ようやく完成した建築を見学した。重なりあう高い大屋根によって、まちのアイデンティティを与える試みである。TNAの上州富岡駅が、下部において異なる素材を組み合わせ、薄い屋根を浮かせているとしたら、これはおおらかな屋根だろう。
2015/12/18(金)(五十嵐太郎)
新国立競技場コンペ案
[東京都]
新国立競技場のコンペ案が発表されたことで、多くのメディアからコメントを依頼された。同日としては、個人的に過去最高数の記録となったが、それだけ国民の関心が集まっているのだろう。ただし、6月から7月にかけて、ザハ・ハディド案を擁護したかったときは、なぜか全然声をかけられなかった。そもそもザハ外しは論理的に説明がつかず、おかしかったこと、本来はコンペだから、彼らの修正案=C案に加え、D案、E案……があるべきだったことを指摘したうえで、二案について感想を述べた。拘束具がついた厳しい状態ながら、各建築家の個性をよく出し、想像以上に健闘していたと思う。が、やはり時代を先に進めるような革新的なものは難しかった。仕切り直しコンペの要項において、日本らしさや木の使用が要請されたせいもあるが、弥生=隈研吾/縄文=伊東豊雄の反復のようにも見える。ただし、今回、日本的なものをめぐる建築の言説は盛り上がってない。
2015/12/14(月)(五十嵐太郎)