artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

牧野邦夫「写実の精髄」

会期:2013/04/14~2013/06/02

練馬区立美術館[東京都]

2月に練馬区立美術館でやっていた「小林猶治郎展」を見て、牧野虎雄の絵と似ているなあと書いたら、今度は「牧野邦夫展」だ。ビミョーに違いますね。ほかにも牧野義雄なんて画家もいてややこしいのだ。タイトルにもあるように、牧野邦夫は「写実の精髄」をきわめようとした画家になっているが、作品を見ると写実画というより幻想画でしょう。恥毛もあらわな女性ヌードとか、騎士?に扮した自画像とか、日本的モチーフと西洋画法の混在がキッチュ・悪趣味を増幅させ、それゆえ見ていて楽しい。孤塁を守った画家らしいが、あえて位置づければ、神仏混淆させた牧島如鳩や、エロねーちゃんを得意とした古沢岩美のような、戦前・戦後に現われた日本特有の幻想絵画の系譜に連なるだろう。こうした日本的な、いいかえれば生活くさい=貧乏くさい幻想絵画をぼくは「四畳半シュルレアリスム」と呼んで愛しているが、絵画的にはものたりないところがある。それは、彼らに世代が近いフランシス・ベーコンやルシアン・フロイドといったイギリスの画家たちの作品と比べてみると、違いがはっきりわかる。牧野らの絵は「文学性」に引きずられてる分、「ペインティング」というメディウムに対する意識が明らかに低いのだ。

2013/05/15(水)(村田真)

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カタログ&ブックス│2013年5月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

墨田のまちとアートプロジェクト[墨東まち見世2009-2012ドキュメント]

編者:墨東まち見世編集部
発行日:2013年03月21日
発行所:東京文化発信プロジェクト室
サイズ:A5判、170頁

2009年から4年間、東京の濹東エリアで東京都、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)、特定非営利活動法人向島学会の三者共催で毎年開催されている、新たな形の地域アートプロジェクトのカタログ。本書は、活動に詳しい編集者・まち見世の事務局担当者・公募による「編集部員」による「墨東まち見世編集部」によって制作された。


中谷宇吉郎の森羅万象帖

執筆者:福岡伸一、神田健三、中谷芙二子
発行日:2013年03月15日
発行所:LIXIL出版
サイズ:A4判変型、80頁
価格:1,890円(税込)

本書では、随筆家でもあった彼の言葉を道しるべに、科学者・中谷宇吉郎の軌跡を図版豊富に辿り、宇吉郎の科学に対する姿勢を浮き彫りにする。...それぞれの研究で図版紹介する写真の多くは、宇吉郎が「観察の武器」として膨大な数を残した撮影記録で、自然現象のかたちを見事に捉えている。...巻末に収録する福岡伸一(生物学者)を含む3名の論考等が中谷宇吉郎の思想を今日の科学につなげる。
LIXIL出版サイトより]


Magazine for Document & Critic:AC2 No.14

編集・発行:青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)
デザイン:小枝由紀美
発行日:2013年3月21日
サイズ:256×167mm 110頁

国際芸術センター青森が、2001年の開館以来、およそ毎年1冊刊行している報告書を兼ねた「ドキュメント&クリティック・マガジン エー・シー・ドゥー」の第14号(通巻15号)。2012年度の事業報告とレビューのほか、関連する対談や論考などを掲載。





AIR2012 淺井裕介「八百万の物語─強く生きる 繰り返す─」

著者:淺井裕介+野坂徹夫+服部浩之
発行所:青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)
サイズ:50頁

2012年4月28日(土)〜6月24日(日)に国際芸術センター青森(ACAC)で開催された淺井裕介滞在制作展「八百万の物語 -強く生きる 繰りかえす-」のカタログ。本展示で淺井は、国際芸術センター青森周辺、浅虫温泉、夏泊半島など青森各地で採取した土を主に用い、2月にインドで描き上げた「八百万の物語」という同名の作品を解体再構成し、それを継承するかたちでまったく新しい作品を描く。淺井本人やACAC学芸員による解説つき。
http://www.acac-aomori.jp/air/2012-1/


磯崎新建築論集2 記号の海に浮かぶ〈しま〉──見えない都市

著者:磯崎新
編者:松田達
発行日:2013年3月26日
発行所:岩波書店
サイズ:四六判、308頁
価格:3,780円(税込)

建築家・磯崎新の集大成的著作論集(全8巻)第2巻。
「19世紀以降の都市の変貌を「虚体都市」「不可侵の超都市」など独自の視点で整理し、脱近代の都市像を鮮やかに浮かび上がらせる卓抜な現代文明論、一見均質な近代都市空間が重層的なネットワークの形成で変容し、海に浮かぶ群島の如く、相互に異質な集合体=虚体都市が出現する現代社会の様相を明らかにする。21世紀世界への予見的洞察」。[岩波書店サイトより]


Booklet 21 光源体としての西脇順三郎

発行日:2013年04月17日
発行所:慶応義塾大学アート・センター
サイズ:B5変判、146頁
価格:750円(税込)

大正末年に3年間のイギリス留学から帰国した西脇順三郎について、村野四郎はいみじくも「西脇さんが泰西の新しい詩的思考の匂をぷんぷんさせて、日本におりたった時に、わが国の文芸復興ははじまった」と評している。昭和初年度の西脇順三郎のめざましい活躍は、単に詩や詩論にとどまることなく、ヨーロッパ文学の深い理解のもとに新しい思考のスタイルと感性の変革をもたらした。その感化は言語学や民俗学の領域にも及んでいる。それは恰も、『新論法』(Novum Organum)を著して、イギリスのルネッサンス期に新しい学問の土台を作った、あのベーコンの仕事に匹敵するのではないだろうか。 西脇アーカイヴ発足より一年を経て、今ここに新しい西脇像を多角的に結ぶ。[慶応義塾大学アート・センターサイトより]


3びきのこぶた 〜建築家のばあい〜

著者:スティーブン・グアルナッチャ
翻訳:まきおはるき
発行日:2013年04月
発行所:バナナブックス
サイズ:33×23cm上製、14場面(オールカラー)
価格:1,890円(税込)

おなじみの三匹のこぶたがフランク・ゲーリー、フィリップ・ジョンソン、フランク・ロイド・ライトの3人の建築家であったらどうなるかを描いた絵本。それぞれ、スクラップ、ガラス、石とコンクリートの家が、オオカミに襲われる。家のなかに配置された世界中の有名なデザイナーによる名高い調度品もみどころ。イラストは、スウォッチの腕時計やMoMAのカードのデザインでも活躍するスティーブン・グアルナッチャ。
http://www.transview.co.jp/bananabooks/isbn/9784902930276/top.htm


S-meme 05 SSD 2012 PBL studio01: media

発行:せんだいスクール・オブ・デザイン 発行日:2013年2月24日 サイズ:A5判、76頁

仙台から発信する文化批評誌『S-meme』第5号。前号に引き続き、現代美術がテーマ。受講生それぞれの視点による志賀理江子「螺旋海岸」展のレビューが今回のひとつの柱。また、受講生のひとりが提唱した、仙台から国分町まで四時間かけて歩く試みであるスローウォークがもうひとつの柱になっている。
http://sendaischoolofdesign.jp/



2013/05/15(水)(artscape編集部)

プレビュー:塩賀史子 展「光の名残──しじま」

会期:2013/05/14~2013/05/25

gallery 16[京都府]

日頃、何気なく目にしている身近な自然をモチーフに描き続けている塩賀史子。今展のDMには群生する蓮を描いた作品が使われていた。光と影の揺らぎ、その場所の空気、逞しく生い茂る植物の有り様など、移ろう時間を丁寧に観察する作家、京都での個展は3年ぶりとなる。

2013/05/15(水)(酒井千穂)

プレビュー:秘密の湖──浜口陽三・池内晶子・福田尚代・三宅沙織

会期:2013/05/18~2013/08/11

ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション[東京都]

詩人の高橋睦郎が顧問を務める夏の企画展。浜口陽三(1909-2000)の銅版画と3名のアーティストの作品を組み合わせて展示、繊細な表現世界が紹介する。出展作家は、細い絹糸を用いて、ものの広がり、雰囲気、微妙な心の動きなどを空間に現出させる池内晶子、言葉、書物、文房具を素材にした作品を発表している福田尚代、カメラを用いない写真、フォトグラムによって現実と似て非なる透明な風景をつくる三宅砂織。いずれも新作を中心に展示の予定。

2013/05/15(水)(酒井千穂)

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岡本太郎のシャーマニズム

会期:2013/04/20~2013/07/07

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

岡本太郎の作品のバックグラウンドに、パリ時代(1930~40)に学んだ人類学や哲学があることはよく指摘されてきた。パリ大学ソルボンヌ校ではマルセル・モースやアレクサンドル・コジェーブに師事し、特異な思想家、文学者でもあったジョルジュ・バタイユとも交友があった。
だが、ルーマニア出身の宗教学者、ミルチャ・エリアーデ、とりわけ彼のシャーマニズム論が、岡本太郎の作品の展開に与えた影響については、ほとんど語られてこなかった。岡本の蔵書のなかには、フランスで出版されたエリアーデの原著が6冊あり、特に『シャーマニズム──古代的エクスタシーの技法』(1951)は、すり切れるほど熱心に読んだ形跡があるという。本展は、エリアーデと岡本太郎との思想的なかかわりを、絵画、彫刻、写真などの作品に即して再構築しようとする意欲的な企画である。
例えば1952年制作のモザイク・タイル画「太陽の神話」は、画面右に「生命の樹」が、中央に太陽が、そして左側には月の形象が配置されている。この構図はエリアーデの『シャーマニズム』の、「この六本の枝(房の付いたてっぺんの枝を含むと七本)と両側に太陽と月を伴って表現されているものであるが、これが時としてシャーマンの梯子」という部分に対応するものだ。写真で言えば、『日本再発見─芸術風土記』(1958)、『忘れられた日本─沖縄文化論』(1961)、『神秘日本』(1964)などの著作に収録された写真群は、明らかにエリアーデのシャーマニズム論を踏まえて撮影されていることが見えてくる。
岡本太郎の作品をシャーマニズムという観点から読み解くことは、単に彼自身の思想的なバックグラウンドに新たな光を投じるということだけに留まらない。「3.11」以後の思想や表現は、前近代的な思考として退けられてきたシャーマニズムが、むしろ自然と人間との共生の可能性を秘めた新たなパラダイムとして浮上しつつあることを指し示しているように思えるからだ。岡本太郎が、常に立ち返るべき「原点」を提示し続けたアーティストであることを、あらためて思い知らされた展示だった。

2013/05/14(火)(飯沢耕太郎)