artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
メメント・モリ──愛と死を見つめて
会期:2013/04/13~2013/05/18
児玉画廊+アラタニウラノ+山本現代+ロンドンギャラリー+新素材研究所など[東京都]
白金アートコンプレックス5周年合同展覧会。5階に研究所を構える杉本博司御大が窮霊汰(キュレーター)を買って出て、森美術館開館10周年記念展「LOVE」に呼応するかたちで「メメント・モリ──愛と死を見つめて」なるお題を出し、各フロアのギャラリーが作品でそれに応えるという趣向だ。1階の児玉画廊は高田冬彦ら5人による混沌としたエロス&タナトス展、2階のアラタニウラノは加茂昂の立体交差的絵画と高嶺格の水槽透過裸体映像、3階の山本現代はヤノベケンジ+ビートたけしのドローイングや小谷元彦の写真など、4階のロンドンギャラリーは橋本雅也の鹿の骨や角による彫刻に西洋の解剖図と日本古美術の取り合わせ、そして5階の新素材研究所では映画『愛と死を見つめて』が見られるほか、杉本博司が女装したお宝写真も飾ってある。これは土曜のみの公開なので運がよかったというか、なんというか。このほか、各フロアに杉本氏の作品やコレクションが紛れ込んでいて、聞くところによるとオープニングも杉本氏の独壇場だったという。レオナルドか利休か、みたいな器用な人だ。
2013/05/18(土)(村田真)
山添潤「彫刻展」
会期:2013/05/07~2013/05/19
Gallery PARC[京都府]
山添潤の石彫の個展。山添は具体的なモチーフや完成のイメージなどを目指さず鑿(のみ)や鏨(たがね)で石を打つという作家で、制作や発表はおもに関東をベースにしているが、これまで関西でもたびたび作品を発表してきた。今展では、会場の展示空間をイメージしながら制作したという6本の石柱と、7つの石彫、鉛筆によるドローイングなどが展示された。入口から飛び石のようにスペースを空けて配置された6本の石柱は、形もさることながらそれぞれに鑿の痕の表情も異なり、どれも躍動感があるのだが神秘的な雰囲気にも包まれている。近づいて夥しい鑿の痕を見ていると、作家の手の動き、石を打つ強さ、そのピッチ、石と向き合う姿などさまざまな制作の時間を連想し、ただ素直に感動してしまうのだが、離れてみるとまた別の趣きがあり、ある風景のなかの雄大な時間や自然現象を思わせて不思議だ。ガラス張りの空間に射し込む光がいっそうその佇まいを力強く優美に見せていて印象に残る展覧会だった。
2013/05/18(土)(酒井千穂)
古川松平 展
会期:2013/05/13~2013/05/18
Oギャラリーeyes[大阪府]
私自身はパチンコにはまったく詳しくないが、画面に描かれているのが古めかしく懐かしい昔のパチンコのイメージだということには気がづいた。古川自身はパチンコなどギャンブルはしないそうなのだが、日本全国に根付き、歴史もあるこのパチンコという娯楽にいまも多くの人々が夢中になるという点や、その魅力について関心をもったという。儚い夢にかけて時間とお金を費やし投入されるパチンコ玉。そのイメージと現実の日常生活を重ねて描かれた絵画は毒っ気も潜んでいるのだが、物憂げな雰囲気もあり私もすっと感情移入してしまう。以前見た個展のときの画風とはまた異なるが、飄々とした表現とその味わいに古川ならではの魅力がある。次の発表も楽しみだ。
2013/05/18(土)(酒井千穂)
ルパン三世 展
会期:2013/04/27~2013/05/21
松坂屋美術館[愛知県]
アニメーションをめぐる言説でもっとも注意すべき点は、それらがマンガと並ぶ代表的な大衆文化であるがゆえに、誰が語るにしても特定の作品への思い入れが強くなりすぎることである。だからこそアニメーションは、よくも悪くも、世代論と非常に緊密に結びつきやすい。愛のある言説は特定の世代には大きな共感と支持を得やすいが、同時に、異なる世代を不本意にも疎外してしまいかねないというわけだ。
むろん、世代を超越して愛されるアニメーションがないわけではない。《ドラえもん》《サザエさん》《ちびまる子ちゃん》などは視聴者を入れ替えながら長期にわたって連続的に放送されているし、《ルパン三世》も、断続的とはいえ、同じく幅広い世代に愛されているアニメーションのひとつである。
本展は、《ルパン三世》の全貌に迫る好企画。原画やセル画はもちろん、アトランダムにカットアップした映像作品、制作スタッフへのインタビュー、原作者であるモンキー・パンチの原画、そして27年ぶりに放送されたテレビシリーズ《LUPIN the Third─峰不二子という女》の資料などが一挙に展示され、非常に見応えのある展観だった。
例えば歴代のルパンの顔を並べた展示を見ると、「ルパン」という定型的なイメージにさまざまな微細な差異が織り込まれていることがよくわかる。服装はもちろん、目つきや口のかたちからモミアゲの長さにいたるまで、その都度その都度、ルパンは隅々にわたって微調整されているのだ。言い換えれば、そのイメージを生産しているアニメーターたちの個性や表現がそれぞれ確実に作用しているのである。
視覚的なイメージだけではない。ルパンの声優といえば、かつては山田康雄であり、現在は栗田貫一だが、本展で上映されたパイロット版を見ると、当初はまったく別の声優だったことを知って驚いた。その声の質は、60年代のテレビドラマや映画でたびたび耳にする硬質なそれで、現在私たちが知っているあの軽佻浮薄なルパンとは程遠い。さらに銭形警部の納谷悟朗がパイロット版では石川五エ門の声を担当していたように、現在定着しているイメージは、度重なる試行錯誤の結果だった。
その実験的な取り組みをもっとも如実に表わしていたのが、TVシリーズのオープニング映像である。本展では、4つのテレビシリーズのうち、《LUPIN the Third─峰不二子という女》をのぞく3つのオープニング映像が上映されていた。3つの映像を見比べてみると、それぞれアニメーションにおける映像表現の可能性を追究しており興味深いが、なかでも傑出していたのが、第2シリーズ。キャラクターのスピーディーな動きから色の使い方、光と影の陰影表現や焦点の遠近移動といった映画的技法、あるいは光と速度を溶け合わせたり、キャラクターの輪郭のなかに別次元を導入したり、アニメーションならではの技法にも挑戦している。アニメーションのクリエイターたちは、新たな映像表現を求めて格闘していたのだ。
《ルパン三世》が他の長寿アニメーションと決定的に異なるのは、この点にある。偉大なるマンネリズムとは対照的に、新しい映像表現によって新たなるルパンを描写していくこと。最新作の《LUPIN the Third─峰不二子という女》が示しているように、それは現在も進行している運動体なのだ。
2013/05/18(土)(福住廉)
写真のエステ 五つのエレメント
会期:2013/05/11~2013/07/07
東京都写真美術館 3F展示室[東京都]
タイトルの通り「おしゃれな」展覧会だった。東京都写真美術館の収蔵作品による「コレクション展」は、ここ10年ほど毎年2~3回のペースで続いている。そろそろマンネリ化の兆しが出ているのではないかと、この欄でも何度か指摘してきた。だが、今回の「写真のエステ 五つのエレメント」展(キュレーションは石田哲朗)を見ると、2万9千点を超えるという東京都写真美術館の収蔵作品を活用するやり方は、まだまだあるのではないかと思えてくる。
「五つのエレメント」とは「光」「反映」「表層」「喪失感」「参照」。相互の関係性はあまりないが、それぞれの角度から作品を見直すと、写真表現のエステ=エステティカ=美学が浮かび上がるように仕組まれている。むろん、既視感のある見慣れた作品も多いが、「光」のパートに展示された1920~30年代にアメリカ・シアトルに在住して、各地の写真サロンに出品していた福光太郎(1898~1965)など、あまり紹介されていない写真家の作品を見ることができた。またやはり「光」のパートの川内倫子「イルミナンス」(34点)や、「喪失感」のパートのクリスチャン・ボルタンスキー「シャス高等学校」(23点)など、展示作品の数を増やして、個展を思わせる雰囲気の空間を構築していたのもとてもよかった。
こういう展示を見ていると、写真美術館の収蔵作品をさらに自由に再構築した展覧会も見たくなってくる。写真以外のジャンルの作品との共存、外部キュレーターの招聘なども、もっと積極的に考えていくべきではないだろうか。
2013/05/17(金)(飯沢耕太郎)