artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

富士篤実「LOST LAST BOY」

会期:2013/05/11~2013/05/19

gallery 10:06[大阪府]

写真専門のギャラリーで画家が個展を行なうとあって、頭のなかに疑問符を浮かべながら本展に出かけた。いざギャラリーに到着すると、そこには普段とは一変した展示室が。4つの壁面は巨大な壁画で埋め尽くされ、その一角には約10点のタブローの小品と、壁画のコンセプトや登場人物の詳細を記したメモ書きが展示されていた。壁画をはじめとする作品は、少年の夢を綴ったファンタジーのような趣で、これまでの彼の作品よりメルヘン性が強い。富士は以前からこのような展示を構想していたが、なかなか会場が見つからず、仕事を通じて知り合ったギャラリーのメンバーから同意を得て実現の運びとなった。夢をかなえたアーティストと、快く場所を提供したギャラリーに拍手を送りたい。

2013/05/11(土)(小吹隆文)

特別展覧会「狩野山楽・山雪」

会期:2013/03/30~2013/05/12

京都国立博物館[京都府]

桃山時代から江戸時代初期の狩野派の絵師、狩野山楽・山雪の大回顧展が京都国立博物館で開催された。二人は狩野永徳の画系を継ぐ「江戸狩野」に対し、京の地にとどまり永徳の弟子筋によって展開された「京狩野」と呼ばれる。今展はその京狩野草創期に焦点をあて、初代山楽、二代山雪の生涯と画業を紹介するというもので、海外から里帰りした山楽の4件の作品のうち、初里帰りとなる《群仙図襖》(ミネアポリス美術館)と《老梅図襖》(メトロポリタン美術館)も見どころのひとつとなっていた。それらはもともと表裏一体だった襖絵。今回は50年ぶりの“再会”で、元の状態に復した展示となった。重要文化財13件、新発見9件、初公開の6件を含め、80件あまりが公開された大規模なものだったので混雑も予想していたのだが、意外にもゆっくりと見ることができ嬉しい。会場は山楽から山雪へと時代を移しながら二人の作品を辿っていくという構成。展示は、豊臣残党狩りの標的になった山楽が、類い稀なその画才と二代将軍秀忠や九条家に助けられて一命をとりとめ生き延びたという解説も興味深く、画風の変遷にも注意して見られるようになっていたのがとても良かった。山雪は《長恨歌図巻》や《雪汀水禽図屏風》など、その作品群から、細部まで徹底的にこだわる姿勢や、妥協を許さない気質も伝わってくる。ところがほんわかとした雰囲気の《猿猴図》など、意外にも素朴でとても可愛らしい作品も描いているからそれもまた魅力的だ。それぞれのキャラクターと時代の流れがよくわかる展示構成だったのが素晴らしかった。見応え十分だったのはもちろんだが、このような規模で見られる機会も貴重だっただろう。良いものを見ることができて大満足。

2013/05/10(金)(酒井千穂)

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ドラマチック大陸─風景画でたどるアメリカ

会期:2013/01/12~2013/05/06

名古屋ボストン美術館[愛知県]

名古屋ボストン美術館の「ドラマチック大陸」展を見る。新大陸のアメリカで発見された、ヨーロッパにはない雄大な「自然」を描く風景画の歴史をたどるもの。例えば、ナイアガラの滝やグランド・キャニオンなどである。トーマス・コールらの絵画や写真を通じて、いかにアメリカ的なものが発見されたのかがわかる。もっとも、アメリカ的な題材である一方、時代ゆえに、その表現にはヨーロッパの近代絵画の影響も認めることができる。

2013/05/07(火)(五十嵐太郎)

花田恵理 展“Open spaces”

会期:2013/05/07~2013/05/12

KUNST ARZT[京都府]

白地に丸く抜かれた風景が印刷されたDMを見て本展に出かけたら、まったく同じ情景と遭遇した。ギャラリーの壁が3カ所にわたり切り抜かれていたのだ、そのうち2カ所は円形の穴から近隣の風景が見え、1カ所は長方形の穴から壁の向こうに隠されていた床の間の痕跡が窺える。どうやら花田のテーマは、場の本質を明らかにしたり、新たな意味づけを行なうことらしい。それは、パブリックな場所で鬼ごっこする過去作品の映像からも明らかだ。彼女はまだ美大に在学中とのことだが、すでに独自のスタイルを確立しつつある。今後の展開を楽しみに待ちたい。

2013/05/07(火)(小吹隆文)

山添潤 彫刻展

会期:2013/05/07~2013/05/19

Gallery PARC[京都府]

京都府出身で、現在は関東を拠点に活動する山添潤が、2年ぶりに郷里で個展を開催した。彼は石彫やドローイングを発表しているが、その目的は特定の形象を彫り出すことではない。何よりも素材との対話を重視し、プロセスの果てに立ち現われる、本人ですら予期できない「存在」をあぶり出すことが主眼なのである。本展では、彫り進みの段階が異なる6つの石柱を出品。素材との対話のプロセスが伝わるような、いままでにはない展示を見せてくれた。また、ドローイングの点数が多いのも本展の特徴だった。山添によると、ドローイングも「平らな彫刻」とのこと。その感覚は生粋の彫刻家ならではのものだ。

2013/05/07(火)(小吹隆文)