artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

太田侑子展「愛しい神さま」

会期:2013/05/10~2013/06/16

アンシール・コンテンポラリー[東京都]

食卓や洗濯物などごくありふれた日常的な場所に、ちょっと不気味な人形が鎮座する情景を描いてる。手法としてはカメラアイでとらえたスーパーリアリズム風で、主題的にもポップアートに近いが、あえて筆触を残し、手描きならではのニュアンスを伝えている点では、まっとうなペインティングとして評価すべきだろう。

2013/05/25(土)(村田真)

開発好明「3.11 3.15 6.15 9.11」

会期:2013/05/10~2013/06/01

ギャラリーハシモト[東京都]

タイトルの3.11と9.11はわかるけど、3.15と6.15はなんだろう。ぼくにとって3.15は70年の大阪万博の開幕日で、6.15は60年安保闘争でデモ隊が国会に突入し、樺美智子がなくなった日だ(記憶にはないけどね)。でもここには万博も安保もなく、もんじゅと福島の原発事故とアメリカの同時多発テロが扱われている。印象に残ったのは壁の両側に並べられた3枚組の写真群。いずれも建物の正面を撮ったものだが、片側の写真は明らかに破壊され、荒れているのがわかるのに対し、もう一方の写真には被害を受けた様子が見当たらず、でもカーテンが引かれて無人の様子。前者が津波による被害で、後者が原発事故の被害だという。目に見える被害と見えない被害の違いをうまくとらえている。

2013/05/25(土)(村田真)

極限芸術──死刑囚の表現

会期:2013/04/20~2013/07/21

鞆の津ミュージアム[広島県]

瀬戸内の名勝地・鞆の浦にある鞆の津ミュージアムは、東京人からすればかなりの難所だ。しかも今日は呉からなので、いったん広島に戻って新幹線で福山に行き、そこからバスで30分以上揺られなければならない。幸い待ち時間は少なかったが、それでも2時間以上かかった。このミュージアムもそんな利用者の不満は百も承知で、同展チラシには「来るなら来い!」と見得を切っている。いいなあこういう態度。建物は築150年の蔵を改装したもので、既存の美術の外側で表現してきた「アール・ブリュット」をはじめとする作品を紹介する場所らしい。なにしろ死刑囚の絵が見られるという以外なにも知らずに来てしまったのだ。今回は開館1周年ということで企画されたもので、約300点の死刑囚の絵が集められている。以前、東京の画廊で見たときはこんなたくさんなかったが、近年ある篤志家が出資して希望する死刑囚に絵を描かせるようになってから増えたという。展示はいきなり和歌山毒物カレー事件の林眞須美の絵から始まる。黒を背景に赤で涙と目隠し布らしきものを表したシンボリックな《国家と殺人》と題する絵。林はほかにも青い正方形のアド・ラインハートのような抽象画や、娘と息子を両脇に抱いた母子像、ピカソ風の人物画などスタイルの異なる8点の絵を出していて、なにを考えているのかわからずちょっと不気味。わかりやすいのは、神や仏や家族を描いた悔悟の念を感じさせる絵や、おいしそうなお弁当や女性ヌードなど、もはや叶わぬ欲望を描いた絵の類だ。おそらく彼らはこれらの絵をいつも「最強の絵」として描いているに違いない。考えてみればこれは表現する者にとって壮絶な試練だ。

2013/05/24(金)(村田真)

海軍記録画──絵画によりたどる海軍の歴史[後期展]

会期:2013/04/10~2013/06/10

大和ミュージアム[広島県]

朝6時発のぞみの始発に飛び乗り、広島で乗り換えて10時半ごろ呉に到着。呉市海事歴史科学館が「大和ミュージアム」と呼ばれるのは、かつて軍港として栄えた呉で建造された戦艦大和の10分の1の模型が目玉だからだ。10分の1といっても26メートル以上あるから小型船よりずっと大きい。ともあれその大和ミュージアムが企画した戦争記録画の展覧会。昨年度は「前期」として幕末の黒船来航から日清、日露を経て日中戦争までの戦争画を集めたが、今回は太平洋戦争の海軍記録画に焦点を当てている。宮本三郎《落下傘部隊の活躍》、小野具定《第二ブーゲンビル沖航空戦》、川端龍子《水雷神》といった有名作から、藤田嗣治のエスキース的な小品、小磯良平や中村研一らのスケッチ、戦意高揚のポスターと原画まで約40点の展示。まず気づくのは、大作が少ないこと。戦争画は日本では珍しい歴史画なので、画家たちもがんばって幅3メートルも4メートルもある大作を手がけたが、その大半は戦後アメリカ軍に接収され、現在は東京国立近代美術館に収蔵されている。ところが、なぜか出品作品は海上自衛隊や船の科学館、茨城県近代美術館、福富太郎コレクションなどから借り、東近からは1点も借りていない。会場が広くないから出品要請しなかったのか、あるいは東近から断られたのか。これと関係するのかどうかわからないが、作品前の解説を読むと描かれた戦闘については詳述されているものの、作品や作者についてはサラッと流している。つまり戦争画の芸術的価値よりも記録的価値に重点が置かれているのだ。これはやはり美術館ではなく、海事歴史科学館が企画したものだからだろう。だから東近とは距離をとったのかもしれない。その解説だが、作品の手前にしつらえた台上に記されているため、観客と作品との距離が1メートルほど空いている。見方を変えれば、観客が手を伸ばしても作品に届かないように解説台をフェンスにしているのだ。モノが戦争記録画だけに、カゲキな行動を抑える予防線を張らなくてはいけないのだろうか。

2013/05/24(金)(村田真)

アート・バーゼル香港 Art Basel Hong Kong

会期:2013/05/23~2013/05/26

香港コンベンション アンド エキシビション・センター(HKCEL)[中華人民共和国香港特別行政区]

アート・バーゼル香港へ。ビジネス・オブ・デザイン・ウィークと同じく、香港サイドの巨大なコンベンション・展示センターだが、日本のギャラリーもかなりの数出展している。全体の数や顔ぶれを見ると、東京のアートフェアよりも、全然規模がでかく、現代的かつ国際的な場だ。関連企画として海辺の先端のサロンにて、「Aichi Triennale: Awakening - Where Are We Standing?」のトークを行なう。筆者は震災体験からあいちトリエンナーレのコンセプトに至る流れ、共同キュレーターのルイス・ビッグスは名古屋と岡崎の都市について、また海外作家について語り、そして香港を拠点にする出品作家のケーシー・ウォンは自作とあいちでのプロジェクトを紹介する。

2013/05/23(木)(五十嵐太郎)