artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

東山魁夷 展

会期:2012/09/22~2012/11/11

宮城県美術館[宮城県]

宮城県美術館の東山魁夷展は、やはり人気で人が多い。こうして全体を通してみると、自然を自然に描くわけではなく、デザイン的な構図や構成が効いている。いわゆる彼の典型的な風景画が確立する以前の初期の実験的作品、また北欧の自然が気に入り描いた東山ワールド的な北欧の風景などが興味深い。ちなみに、宮城県美では被災した石巻文化センターが所蔵する地元出身の彫刻家高橋英吉展、せんだいメディアテークでは「東北学院大学 文化財レスキュー展 in 仙台」も開催していた。文化の場にも震災は確実に影響を与えている。

2012/11/08(木)(五十嵐太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00018741.json s 10066934

志賀理江子「螺旋海岸」

会期:2012/11/07~2013/01/14

せんだいメディアテーク 6階 ギャラリー4200[宮城県]

志賀理江子の「螺旋海岸」展を見る。いや「見る」というより、会場をずっとぐるぐるとさまよう「運動」だった。始まりもなく、終わりもなく。ぐるぐると。そして写真とまなざしをめぐる問いかけを反芻する。モノとして林立する大小の写真は、さまざまなまなざしが交錯する彼岸のランドスケープのようでもあり、彼女の頭のなかに入ったような不思議な記憶の体験だった。チューブがもたらす波紋としてのせんだいメディアテークの空間と、大きな渦を巻く写真の群れが響きあう。これまでに見たメディアテークの展覧会で、もっともダイナミックに建築と格闘し、素晴らしい成果をもたらしている。壁は一切ない。ゆえに、そのまま外光も射し込む。日没後は光の具合が違う。

2012/11/08(木)(五十嵐太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00019544.json s 10066933

浅野真一 個展 夢

会期:2012/11/03~2012/11/17

CUBIC GALLERY[大阪府]

浅野真一は、一貫して具象絵画による光の表現を追求する作家だ。本展では、3点組の大作油彩画をメインに、鉛筆画の小品なども出品された。メインの大作は連続する室内の情景を描いており、差し込む光の角度や調子が1点ずつ微妙に異なる。また、バルテュスの《夢》という作品の構図を引用しているのも特徴である。彼はこれまでも、精緻な表現と静けさ漂う画風で質の高い作品を発表してきた。新作で連作、引用という新たな要素が加わったことにより、今後はさらに深みのある表現世界が展開されるに違いない。

2012/11/08(木)(小吹隆文)

町谷武士 展 遠くて長いピクニック

会期:2012/11/05~2012/11/24

福住画廊[大阪府]

メキシコのカチーナ人形にも通じる、愛嬌のある木彫作品を制作していた町谷が、新作個展で新たな方向性を見せた。それは木板を利用した平面的な表現で、舞台の書き割りにも似た形状の作品である。町谷はもともと平面作家だったから、この新たな方向性には先祖返り的な意味合いがあるのかもしれない。ともあれ、彼の木彫が新たなスタイルを獲得したのは間違いない。今後の展開が非常に楽しみだ。

2012/11/05(月)(小吹隆文)

BIWAKOビエンナーレ2012「御伽草子──Fairy Tale」

会期:2012/09/15~2012/11/04

近江八幡旧市街地、東近江市五個荘[滋賀県]

近江商人発祥の地、近江八幡市八幡堀一帯の使われなくなった日本家屋を会場に、国内外のアーティストの作品を展示、公開するアートイベントとして開催されてきたBIWAKOビエンナーレ。開催5回目を迎えた今回は、これまでの近江八幡市旧市街に加え、同じく江戸期から続く商人屋敷が多く残る東近江市五個荘にも会場が広がり、出品作家も70組以上になった。地域、参加作家の数ともにスケールアップしたのはいいが、なにしろ会場同士が離れているのがネック。一日で両方のエリアをすべて見てまわるのには、交通手段や展示場所などを事前にチェックして、計画を立てておかねば難しい。私は残念ながら五個荘エリアに足を運ぶ時間がなく、今回見れたのは近江八幡エリアの展示のみ。それでも8カ所の展示を見てまわるとあっという間に一日が過ぎた。今回のテーマ「御伽草子──Fairy Tale」というキーワードとはあまり関係なさそうな作品もあったが、見たなかでは旧中村邸で開催されていた大和由香の石灰石を用いたインスタレーションが印象に残った。大和の作品は、この家が石灰石を扱う商いをしていたという文献からヒントを得て制作されたものだという。石がそこら中に散らばっていたり積み上がっているのだが、古い建物の匂いと窓から射し込む光に包まれた空間で、時の経過とそこでの物語を喚起するものだった。また、素晴らしかったのは、八幡山の山上にある瑞龍寺で行なわれていた大舩真言の作品展示。襖に雲の模様が描かれた「雲の間」でのインスタレーションだったのだが、大舩の2点の作品はこの空間独特の趣きに、より深遠な情趣を与える静謐な絵画で、いつまでも眺めていたいほどだった。八幡山山上と、ほかの会場からも離れた場所だったが見ることができてよかった。


左=旧中村邸。大和由佳によるインスタレーション(近江八幡エリア)
右=村雲御所瑞龍寺門跡。「雲の間」大舩真言の作品《VOID α》(近江八幡エリア)

2012/11/04(日)(酒井千穂)