artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

アートと音楽──新たな共感覚をもとめて

会期:2012/10/27~2013/02/03

東京都現代美術館[東京都]

「美術と音楽」ならカンディンスキー、クレー、シェーンベルクあたりが定番だが(3人ともほぼ同時代にドイツ圏で活動し、ナチスの迫害を受けたという共通点がある)、「アートと音楽」だとジョン・ケージからということになるだろう。どう違うかというと、前者は画家が楽器を弾いたり音楽をモチーフに絵を描いたり、逆に音楽家が絵を描いたりするように、ジャンルの枠組みは保たれつつジャンル間の相互乗り入れが見られるのに対し、後者は美術と音楽のジャンルの枠組み自体が溶けて制作コンセプトも創作プロセスも重なり、ともに「アート」を志向する点だ。ほんとかなあ。たとえば、展示室に円形のプールをつくって数十枚の磁器製の器を浮かべ、水を加熱することによって流れをつくり器同士を接触させるセレスト・ブルシエ・ムジュノの《クリナメン》は、見て楽しい聞いてうれしい(というほどでもないが)作品で、これは美術とも音楽ともいえない、強いていえば「アート」というほかないでしょうみたいな。もうひとつ、既存のレコードを氷で型どりプレーヤーにかける八木良太の《Vinyl》は、逆に見ても聞いてもツライものがあり、それゆえに思わず笑ってしまう点で「アート」以外に遊んでくれるジャンルはないでしょう。そんなアイスべきアートな展覧会。ジャンジャン。

2012/11/13(火)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00019218.json s 10066476

プレビュー:ずこう展──3つの〈プレイ・ルーム〉

会期:2012/11/21~2012/12/15

京都造形芸術大学Galerie Aube(ギャルリ・オーブ)[京都府]

京都造形芸術大学芸術表現・アートプロデュース学科の企画による展覧会。昔、誰もが体験した「ずこう」「図画工作」という時間を「ものづくりの原風景」として、「ずこう」をテーマに「ものづくりに対する日本人の共感覚をマッピング」するという。「美術」を志し、芸術大学への進学に至った学生の彼らが過去の「ずこう」体験に何を見つけ出し、どのようにアプローチするのか、内容が気になる展覧会。ぜひ足を運んでみたい。

2012/11/12(月)(酒井千穂)

奈良・町家の芸術祭 HANARART 2012

会期:2012/11/01~2012/11/11

郡山城下町・旧川本邸[奈良県]

2011年に開催された「奈良・町家の芸術祭 HANARART」の2回目。こちらも歴史のある古い町家や町並みを舞台にしたアートイベントだが、町家などを会場にした展覧会は、公募で選出されたキュレーターたちが現地に何度も足を運び、アーティストや地域住民とともにつくり上げるという点がユニーク。今回は11人のキュレーターが選ばれ、奈良県内6エリアの15会場でそれぞれ企画イベントが行なわれた。大和郡山市にある、大正13年から昭和33年まで遊郭として使われていた木造3階建ての建物(旧川本邸)で開催されていたのは山中俊広のキュレーションによる展覧会。直接的なイメージや具象的な表現を極力避け、抽象的表現やその色彩から、歴史が刻まれたこの特異な空間の「記憶」や物語についての鑑賞者の想像を喚起したいと構成された会場。展示されたのは野田万里子、加賀城健、岡本啓、中島麦、前谷康太郎の5名の作家の作品。中庭に垂下がった加賀城健の薄い染色作品、髪結場に展示された中島麦のペインティング、玄関と浴室、二階の格子の窓辺が使われた野田万里子のインスタレーション作品など、各アーティストの作品展示は、どれも印象を引き摺って揺さぶられるものばかりだった。遊郭という歴史のあるこの建物での展示はキュレーターにとっても作家達にとっても難しいものだっただろう。しかし、キュレーターの意向に応えるアーティストたちの力量も感じた展覧会。見応えのある良い内容だった。


左=加賀城健《刹那》
右=野田万里子《Locked them in the glass》

2012/11/11(日)(酒井千穂)

さわひらき──Whirl

会期:2012/10/23~2012/11/24

神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]

毎年秋、気鋭の若手アーティストを紹介してきた神奈川県民ホールギャラリーだが、およそ1,450平方メートルにもおよぶ地下の大空間を作品(しかも新作中心)で埋めるのは至難の業。もちろん潤沢な予算など期待できないので、絵画や彫刻はおろかインスタレーションでもおぼつかない。そこで頼りになるのが映像だ。映像ならプロジェクションすればいくらでも大きくなるし、部屋が暗いので広さも気にならないからだ。実際、ここ数年に選ばれているのは小金沢健人(2008)や泉太郎(2010)ら映像系のアーティストが多い。で、今年はさわひらきだから順当な、あまりに順当な人選といえるだろう。旧作も少なくなかったが、映像はインスタレーション次第で新たな作品として見ることができるので退屈しなかった。

2012/11/11(日)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00019296.json s 10066475

アブストラと12人の芸術家

会期:2012/11/11~2012/12/16

大同倉庫[京都府]

美術家の田中和人が発案し、荒川医、小泉明郎、金氏徹平、三宅砂織、八木良太ら12名の作家(田中を含む)が参加した同展。そのテーマを要約すると、「現代における抽象表現とは」。1950年代に隆盛したアメリカの抽象表現主義の延長戦で語られてきた抽象表現を、今一度問い直してみようという意欲的な試みである。広大な倉庫を利用した会場には各作家の作品が十分なスペースを取って展示されており、街中の画廊では得られない美術体験をすることができた。近年、京都ではオープンスタジオをはじめとする作家主導の動きが顕著だが、本展のその流れのひとつであろう。彼らのバイタリティ溢れる行動には敬意を表したい。一方、肝心の「現代における抽象」は作品に託されたのみで、言語化・文書化はされていなかった。それが会期中に明確になるのか否かは定かでないが、一観客としては是非ステートメントを打ち出してほしいというのが本音である。

2012/11/11(日)(小吹隆文)