artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

黄金町バザール2012

会期:2012/10/19~2012/12/16

黄金町界隈[神奈川県]

2008年の横トリと同時に始まった黄金町バザールも、今年で5回目。京急日ノ出町から黄金町にかけて悪名高き風俗店が軒を連ねていた高架下も、年々アーティストのスタジオやギャラリー、ショップなどに衣替えしつつある。それはそれで「環境浄化」にはなっているはずだが、はたして街として活気づいているのだろうか。そもそもアートによる環境浄化や街づくりには限界があるし、結果的にアートが町づくりに役立つことはあるにしても、それを目的にアートを「使う」ことには疑問もある。が、それは今日午後からのシンポジウムで話し合うことにして、その前に展示を見ておかなくっちゃ、と開催1カ月以上も経たってから見に行ったのでした。黄金町のレジデンスアーティストにはあるまじき怠慢ですね。作品は日ノ出町駅から黄金町駅までの500メートル足らずの高架下周辺に集中しているのだが、長屋のように軒を連ねる小さい店舗跡を飛び飛びに使っているので、わかりやすそうでわかりやすくない。ま、それも探し歩く楽しみってことで。出品作家は黄金町のアーティストを中心に海外も含めて33組。うち、おもしろいと思ったのが5、6個あった。まず、通りに面した建物の壁にパースを利かせて空洞を描いた吉野ももの壁画《街の隙間》。遠近法を利用したトリックアートといえばそれまでだが、これがじつによくできていて、ある1点からだけでなくどの方向から見てもだまされてしまう。屋外ではもうひとつ、路地の壁にテレビ、レコードプレーヤー、携帯電話などの電気製品をぴったりはめ込んだマイケル・ヨハンソンの壁面インスタレーション。だいたい電気製品はサイズこそさまざまだが基本的に四角いので、幾何学的に隙間なくはめ込んでいけるのだ。これは美しい。そのほか、小部屋で縮小サイズの廃墟モデルなどを撮影して壁に映し出す伊藤隆介の《天地創造》や、一部屋全体をグロッタ状に装飾してそのなかで自作アニメを流す照沼敦朗の映像インスタレーション、石膏の壁を鳥のかたちに彫り透明樹脂で固めた中谷ミチコのレリーフ作品、細長い室内の全壁面にペイントした寺島みどりの《ペインティングルーム》などは一見の価値あり。こういう場所では観客や住民参加のコミュニケーションアートなどが増える傾向にあるが、それ以上に永続性がありアートとして見るに耐える作品こそ必要とされるのではないか。

2012/11/24(土)(村田真)

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さわひらき

会期:2012/10/23~2012/11/24

神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]

近年めざましい活躍を見せているさわひらきの大々的な個展。神奈川県民ホールの展示空間をすべて使った大規模な展示で期待が高まったが、いまいち消化不良の感が否めなかった。それは、おそらく地下一階の大空間に展示された映像インスタレーションが、どうにもちぐはぐな印象を残していたからだ。空間の容量に対して映像のサイズがあまりにも小さかったからなのか、あるいは映像を投射する壁面の配置が中途半端だったからなのか。いずれにせよ、さわひらきの映像の夢幻性が十分に伝わらなかったように思われる。資生堂ギャラリー(「Lineament」2012)や水戸芸術館現代美術ギャラリー(「リフレクション」2010)での展示がすばらしかっただけに、今回の展示は惜しい。

2012/11/23(金)(福住廉)

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川俣正「Expand BankART」

会期:2012/11/09~2013/01/13

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

BankART全館を使った久々に大規模な川俣の個展。川俣と横浜といえば、2005年に総合ディレクターとして関わった横浜トリエンナーレが記憶に新しいが、それ以前から何度か制作を行なっていた。じつはBankARTの隣に神奈川県警ビルが建つ前は三菱倉庫があり、それが取り壊される直前の1988年にファイナルイベントとして「ヨコハマフラッシュ」が開かれ、崔在銀や田原桂一らとともに川俣も参加していた。もっとさかのぼって1980年には神奈川県民ホールギャラリーと横浜市民ギャラリーでグループ展に出品している。でも個展としては今回が初めてだ。そもそも日本でこれほど大がかりなインスタレーションが実現するのも初めてのことかもしれない。まず海岸通に面したアプローチに古い窓枠をつないで屋根をつくり、NYKの外階段から外壁をはうように屋上までパレットでおおっていく(この時点では未完成)。遠くから見ると、屋上から流動物が流れ出てくるイメージだ。館内に入ると、1階のホールではパレットを積み上げて壁面をおおい、洞窟のような空間を創出。2階は天井から無数の窓枠を平行に吊るし、3階には柱の上方にツリーハウスみたいな構築物を設置するといったプラン。どれも今回が初めてというわけではなく、たとえば天井を窓枠でおおうのはロンドンのサーペンタイン・ギャラリー(1997)などで、大量のパレットを流動的に配置するのはヴェルサイユのアートセンター(2008)などで、柱にツリーハウスを組み立てるのはパリのポンピドゥー・センター(2010)などで、すでに実現している。つまり今回の個展は、これまで世界各地で見せてきたさまざまなスタイルの集大成的インスタレーションといっていい。ちなみに、素材は木ならなんでもいいわけではなく、窓枠は近くにある解体前の公団住宅から提供され、パレットはここがもともと倉庫であることから使うことにしたという。この場所ならではの素材を選んでいるのだ。

2012/11/23(金)(村田真)

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TRANS ARTS TOKYO

会期:2012/10/21~2012/11/25

旧東京電機大学11号館[東京都]

取り壊しが決定している大学校舎を会場にした大々的な展覧会。地下から地上17階まで、6階をのぞくすべてのフロアで300名以上のアーティストが作品を展示した。学生や若手アーティストが大半だとはいえ、これだけ大規模に催された展覧会は他に類例を見ない。すべて見るにはそうとうの時間と体力を要するほど、作品の数は、おびただしい。
展示された作品は、美術、建築、デザイン、ファッションなど多岐にわたっていたが、なかでも最も光っていたのは、14階。ディレクターの中村奈央が、13人のアーティストの作品を縦横無尽に展示した。建物の構造上、どの階も同じような展示空間にしがちだが、中村は教室から廊下、トイレまで14階の空間を余すことなく使い切ったところがすばらしい。壁面の一部に穴を開けて作品を見せたり(臼田知菜美)、経団連のビルが望める窓に「無職」と達筆で書いたり(キュンチョメ)、廊下の全面にスプレーで名前を書かせて芳名帳としたり(キュンチョメ)、破壊されることを前提とした空間の使い方が、他の階とは比較にならないほど、抜群にうまいのである。
若手アーティストの作品が一同に会した意義は大きい。しかし、それと同時に、それらをオーガナイズしたディレクターやコーディネーターの才覚も評価すべきではないだろうか。

2012/11/22(木)(福住廉)

しまだそう個展「0≒Be式」

会期:2012/11/10~2012/11/22

コンテンポラリーアートギャラリーZone[大阪府]

精力的に作品を発表しつづけている作家のしまだそうが、またユニークな場所で個展を開いていた。会場は大阪府箕面市の阪急桜井市場の中にあるギャラリー。私は初めて訪れたのだが、まさか本当に「市場」の真ん中にあるスペースだとは思ってもいなかったので行ってみて吃驚! 私が訪ねたときは、この古いアーケードの半分くらいの店舗はシャッターを下ろしていて、ややうら寂しい印象もあったのだが、通路には買い物客の姿もちらほら見られた。ギャラリーは壁も入口のドアもないほとんどオープンなスペースで、アーケードの通路からも展示の様子がうかがえる。大きな絵画作品には、人物や怪獣、マンガに見られる音喩表現、記号的な図形など、雑多なものごとが秩序なく、鮮やかな色彩で描かれていた。この場の雰囲気にもよく似合っていたが、そんな空間で眺めていると彼の絵画世界が空想の物語や非日常的イメージなどというよりも、むしろ日常感として共感できる世界に思われて面白かった。


市場の中にあるギャラリースペース


会場風景

2012/11/22(木)(酒井千穂)