artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

臼田知菜美 ちなみっくす展~愛♥のミックスジュース~

会期:2012/04/20~2012/04/22

素人の乱12号店[東京都]

臼田知菜美はエコノミーを追究するアーティストである。といっても金儲けの話ではない。むしろ金がないことを前提としたうえで、いかに他者との関係性を築き上げ、そのなかで事物を流通させ、そのことによって新たな価値を生み出すことができるのかという点を、アートという手段を利用して考えようとしているのだ。きわめて今日的なアートだと言える。
トイレットペーパーやタバコを他人から貰い受け、それらを展覧会場で来場者に提供する映像作品は、必要な物資を貰い受けている。一方、今回新たに発表された、ハートマークを入れた一円玉を見ず知らずの通行人に「落としましたよ」と一方的に分け与える映像作品は、逆に譲り渡している。双方に通底しているのは、いずれの作品も「貨幣」ではなく「贈与」を軸にした最小限のエコノミーを実践していることだ。
貨幣経済のゆがみを是正することがますます難しくなっている現在、臼田が提案しているエコノミーのありようを、たんなる突撃系のパフォーマンス作品として片付けることはもはやできない。むしろ私たちの未来を先取りした、きわめて先駆的な作品として理解するべきである。
ただし、一円玉を受け取った男性の多くが狼狽していたように、臼田からの贈与に私たちが応えることができないうちは、残念ながら理想的な未来社会が実現されたと言うことはできない。つまり、賽は、臼田によって投げられた。あとは、私たち自身がどう動くかにかかっている。

2012/04/20(金)(福住廉)

さわひらき展 Lineament

会期:2012/04/07~2012/06/17

SHISEIDO GALLERY[東京都]

さわひらきといえば、日常的な背景に寓話的なイメージを重ねることで幻想的な世界をつくり出す映像作家として知られているが、今回発表した映像インスタレーション《Lineament》は、その重複を後景に退けるほど幻想性の密度が高められていた。回転するレコードから延びる細い糸が部屋中を侵食し、やがて男の頭部や壁面を貫いていく。現実と虚構がゆるやかに溶け合う幻想性が表わされていることは疑いないとしても、すべてを貫通する糸は、おのずと放射線を彷彿させるから、むしろ終末論的な見方が強くならざるをえないことも事実だ。首を折り曲げて倒立する男は軽やかな浮遊感というより「奈落の底」に引き寄せるような重力を、窓の向こうの海辺は解放感というより室内の閉塞感を、それぞれ逆照していたようにすら見える。それは、幻想を幻想として楽しむことができなくなってしまった今日のアートをめぐる状況も暗示していたようだ。

2012/04/20(金)(福住廉)

プレビュー:植松奎二 展 軸─重力・半重力

会期:2012/05/26~2012/06/23

ギャラリーノマル[大阪府]

ベテラン作家の植松奎二が、新作展ならぬ温故知新の個展を開催。彼が1971年から約10年にわたり集中的に制作していた木材とジャッキを用いたインスタレーションを、現在の視点から再構成、他3点の作品とともに展示する。本展は「過去をみつめ、未来をみる」をテーマに掲げている。単なる再制作やリバイバルではなく、過去の作品から現代、そして未来へつながるビジョンを抽出し、表現の可能性を改めて問い直す機会なのだ。長く第一線で活動を続けてきた植松だからこそ可能な企画であり、当時の作品を知らない世代にとっても刺激的な機会となるだろう。

2012/04/20(金)(小吹隆文)

プレビュー:今村源・袴田京太朗・東島毅「Melting Zone」

会期:2012/05/05~2012/06/02

アートコートギャラリー[大阪府]

菌糸をモチーフにした浮遊感のある立体やドローイングなどで知られる今村源、彫刻らしからぬ素材使いで知られ、近年はアクリル板を積み重ねて形をつくり出すシリーズを発表している袴田京太朗、巨大なサイズと尋常ではない重量感、物質感を持つ絵画を制作する東島毅の3人展。各自がそれぞれ占有空間を持つのではなく、互いに混ざり合い、浸食し合ってジャム・セッションのような展覧会をつくり上げるというのだから期待が高まる。その場その時にしか生まれえない美しきカオスを味わいたい。

2012/04/20(金)(小吹隆文)

アンリ・ル・シダネル展──フランス ジェルブロワの風

会期:2012/04/20~2012/07/01

損保ジャパン東郷青児美術館[東京都]

シダネルといえばローデンバックの幻想的な小説『死都ブリュージュ』を思い出す(それしか思い出せない)が、今回初めてまとまった作品を見ることができた。なるほど、淡いブルー系の色彩を多用するのは印象派、細かいタッチで描く技法は点描派、バラの花や人けのない食卓で心象を暗示するのは象徴主義、夜景や黄昏時の風景が多いのは世紀末芸術、といったように19世紀後半のいろんな流派をいいとこどりしたような作品だ。それだけにメインストリームに割り込めない脆弱さも感じるなあ。だいたい初期を除いて人物がほとんど描かれてないのも、西洋美術史の王道からはずれてるし。でもその亜流感が妙に心をくすぐったりするのも事実。シダネルはフランス人だけど、こういうタイプの画家ってベルギー人に多くね?

2012/04/20(日)(村田真)

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