artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
ART KYOTO 2012

会期:2012/04/27~2012/04/29
国立京都国際会館アネックスホール、ホテルモントレ京都[京都府]
今年から名称を改め、会場も2カ所に増加した「ART KYOTO」。2会場はエリアは異なるが、地下鉄で直結しているため20分程度で移動できた。参加画廊は100に及び、ブース形式のゆったりしたスペースに大作が並ぶ国立京都国際会館と、ホテルの客室で小品をメインに展示するホテルモントレ京都という具合に性格分けもはっきりしていたので、これまでよりもバラエティに富んだアートフェアになったのではないか。つまり、グレードアップしたということだ。ただ、アートフェアの成否はあくまでも売上と動員であろう。その点、今回はまだ認知不足の感は否めない。来年以降も我慢強く継続して、関西に現代アートのマーケットを築くという目的を達成してほしい。また、今回は関連イベントとして「映像芸術祭 MOVING 2012」「ANTEROOM PROJECT」「Grassland」といった展覧会が京都市内各地で同時開催され、若手作家たちの自主企画「KYOTO OPEN STUDIO 2012」も同時期に行なわれるなど、ゴールデンウイークの京都は現代アートイベントの花盛りとなった。このような地域的盛り上がりをつくり上げることで、行政や地元経済界に観光資産としてのアートの価値をアピールするのも重要であろう。
2012/04/27(金)~29(日)(小吹隆文)
野村恵子「SOUL BLUE」

会期:2012/04/23~2012/04/29
Place M[東京都]
野村恵子の前作は、2009年にエモン・フォトギャラリーで展示された「RED WATER」。赤から青へと基調色が変化したわけだが、血を騒がせるような、光と闇の強烈なコントラストに彩られた風景の合間に、女性のポートレートやヌードを配する構成そのものはそれほど変わっていない。だが、東京の自宅のマンションから定点観測的に撮影し続けた風景の連作(ここでも基調となる色は青)などを見ると、かつての心を浮き立たせるような強烈なビートはやや影を潜め、時の移ろいを静かに見つめるような沈潜した気分が迫り出していることがわかる。20歳代でデビューした野村も、40歳代になり、両親を相次いで亡くしたこともあって、写真家としての現実世界への向き合い方が少しずつ変わり始めているということだろう。
こうなると、そろそろ彼女の現在の到達点をくっきりと示すような展覧会や写真集がほしくなってくる。そう思っていたら、どうやら野村自身も同じことを考えていたようだ。今回の展示には間に合わなかったのだが、秋にこの「SOUL BLUE」のシリーズを、赤々舎からハードカバーの写真集として刊行する予定があるという。野村本人は新作だけでまとめたいという意向のようだが、僕はいっそのことデビュー作の『DEEP SOUTH』(リトルモア、1999)以来の代表作を、総ざらいするくらいの写真集にしてほしいと思う。ひとりの女性写真家の成長の過程を見るということだけではなく、1970年代生まれ野村の世代が築き上げてきた写真の底力を、しっかりと見せつけてほしいのだ。
2012/04/27(金)(飯沢耕太郎)
霜田誠二 展「玄米麹で」

会期:2012/04/23~2012/04/28
ステップスギャラリー 銀座[東京都]
世界を股にかける(どっちかというと情勢不安定なアジア、東欧圏に需要が高い)パフォーマンス・アーティスト霜田誠二の個展。彼はパフォーマンスだけでなく、詩も書くし絵も描く。子もつくるし、ミソもつくる。今回はちゃんとキャンヴァスにアクリルで描いた絵と、額縁入りの手描き「突撃新聞」に、その場でつくる玄米麹や手描きTシャツなども販売。このアクリル画、なにか匂うと思ったら一部に玄米麹を塗り込めているのだ。タイトルは「麹中」か「酵母展」にすればよかったかも。ちなみにこの画廊は銀座4丁目のギャラリー58が入ってるビルの上階に位置する。さぞかし家賃も高いだろうと思いきや、オーナーでアーティストの吉岡まさみ氏によれば、エレベーターのない5階なので周囲に比べればかなり安いという。まあエレベーターのないビルの5階だと、巨大な鉄の彫刻展は無理だろうな。
2012/04/27(金)(村田真)
大小島真木 個展「獣たちの声は精霊の声となり、カヌムンは雨を降らし、人びとは土地を耕した。」

会期:2012/04/07~2012/04/29
island MEDIUM[東京都]
アンリ・ルソーが描いたような南国の濃密な空気が漂うDMに吸い寄せられて見に行ったら、ギャラリーは3331内の向かいの小さな部屋に引っ越していた。その小さな展示室に作品がところ狭しと飾ってあり、濃密感は十分。描かれているのは、タイトルにも謳われているとおり、森のなかに精霊たちがウヨウヨいて、人間と獣とのあいだに境界線がなく、ということは人間がまだ自然のなかにすっぽり包まれていたプリミティブな世界らしい。そんな世界が好きだから濃密な絵になったのか、濃密な絵を描いていたからそんな世界に入り込んだのか。ともあれ絵の内容と形式は一致している。
2012/04/27(金)(村田真)
近代日本洋画の開拓者──高橋由一

会期:2012/04/28~2012/06/24
東京藝術大学大学美術館[東京都]
朝一で石巻から上野の「高橋由一展」内覧会に直行。そういえば由一展て栃木とか香川では見てきたけど、東京では初めてかもしれない。この由一という名は本名ではなく維新後に名乗ったもので、ぼくはてっきり「油(絵)」から採った名だと思っていたが、チラシを見たら「画」のなかに「由一」が含まれていることが明示され、なるほどと思った。「油画」を縦書きにすると「由一」が2回も出てくるわけだ。展示は「油画以前」「人物画・歴史画」「名所風景画」「静物画」「東北風景画」の5章立て。この構成を見て国立新美術館の「セザンヌ展」を思い出した。どちらも人物、風景、静物を分け隔てなく描いてるし。ところで由一とセザンヌがほぼ同時代人だって知ってた? 出品作品は初期の博物画から代表作の《花魁》、3点そろえた《鮭》、晩年の《岩倉具視像》や《西周像》、劇画チックな歴史画、浮世絵の構図にヒントを得た風景画、愚直で不気味な《甲冑図》や《桜花図》など計132点で、ほかに原田直次郎による由一像や、由一の油絵の師チャールズ・ワーグマンの作品など関連資料も豊富に出ていて充実している(が、展示替えがあるらしく、ぼくの好きな《豆腐》が見られなかったのは残念)。ホイッスラーを彷彿させる《月下隅田川》や、火焔を描いた2点の「鵜飼図」などの夜景図も目を惹く。いかに浮世絵や狩野派を油絵に変えるか、いかに日本画や写真と差別化するか、いかに日本社会に西洋画を定着させるか、いかに油絵で食っていくかなど、さまざまな問題を抱えた由一像が浮かび上がってくる。
2012/04/27(金)(村田真)


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