artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

杉本博司「ハダカから被服へ」

会期:2012/03/31~2012/07/01

原美術館[東京都]

杉本博司の最近の展覧会には、基本的にキュレーターは必要ない。彼自身が展覧会のコンセプトを決め、作品を選び、展示を構成・レイアウトし、解説を書くことができるからだ。アーティストとしてのレベルの高さは言うまでもないことだが、彼のキュレーターとしての卓越した能力も特筆すべきだろう。
今回の「ハダカから被服へ」展でも、その手際の鮮やかさを堂々と見せつけていた。「なぜ私達人間は服を着るのだろう?」という問題設定に対して、自作と彼自身のコレクション、自らデザインを手がけた文楽人形や能の衣裳などを会場に散りばめて見事に解答を導き出している。中心になっているのは20世紀を代現するシャネル、サンローラン、スキャパレリ、クレージュ、さらに山本耀司、三宅一生、川久保玲などのファッションの名作を、黒バック、モノクロームで撮影した「スタイアライズド・スカルプチャー」のシリーズ。そこではタイトルが示すように、衣服があたかも彫刻(あるいは建築)のようなフォルムを強調して撮影されており、杉本らしい緻密で周到な画面構成力を見ることができる。1階の「近代被服のブランド化」のパートから、2階の「和製ブランドの殴り込み的パリコレ登場」のパートへと、視点を切り替えて観客を誘う展示構成も鮮やかなものだ。
ただ、このような啓蒙的、優等生的なキュレーションの展示を見続けていると、いささか胃にもたれてくるのも否定できない。写真、アート、建築、ファッション等々、あらゆるジャンルを杉本流の史観と美意識で裁断できるのはよくわかった。「で、そこから先は?」と、無い物ねだりをしてみたい気分にもなってくる。むしろ解答不可能な問いかけの前で、彼が立ちすくんでいる姿を見てみたいなどとも思ってしまうのだ。

2012/05/08(火)(飯沢耕太郎)

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谷内薫 展

会期:2012/05/08~2012/05/13

ギャラリー恵風[京都府]

粘土板にスタンプをしたり、切れ込みを入れてから折り曲げて立体化し、素焼きの後、薄く釉薬をスプレーするなどして焼き上げた陶立体。壁掛け型の作品と貝殻のような小品があり、オブジェでありながら使い方次第では器としても成立する。作風はいままでの延長線上で変化はないが、作品から受ける印象はここ1年でずいぶん変化した。すなわち、良い意味で角が取れたのだ。元々の尖鋭さを保ったまま間口が広がったのだから、これは強い。彼女の作品は、より幅広い層に受け入れられる新たな段階に入ったのかもしれない。

2012/05/08(火)(小吹隆文)

武蔵篤彦 展

会期:2012/05/03~2012/05/26

MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w[京都府]

本展のメインというべきは、3点の平面の大作と台形立方体が連続する柱状の作品1点だ。それらは不定形のパターンが連続する抽象画をデータ化してインクジェットプリントで出力し、その上から絵の具やメディウムを塗り重ねたものである。ジャンルの特定は難しいが、武蔵のこれまでの仕事から判断すればモノタイプ版画になるだろう。ほかには、ラムダプリントと絵画を組みあわせた2000年制作の作品なども発表されているが、それらは新作と対比するために出品されたと思われる。写真ではすでにインクジェットが普及しているが、版画でもこれだけの表現ができるとは知らなかった。美術史上、技術的発展が表現を一変させた例は幾つもある。今後、デジタル技術の発達は美術にどのような影響を与えるのだろう。そんな夢想へと誘われる機会だった。

2012/05/08(火)(小吹隆文)

柴田精一 展─ねじれた世界をねじあける

会期:2012/05/07~2012/05/26

ギャラリーほそかわ[大阪府]

柴田といえば、着色した紙を切り重ねて複雑な模様をつくり出す《紋切重》のシリーズで知られているが、板に風景や人物などを彫ったレリーフ作品も少数ながら展示していた。本展ではそのレリーフ作品ばかりが出品された。作品は実在の風景や人物、動物をモチーフにしているが、彼によると「現実の向こう側にあるもう一つの世界」がテーマになっている。また、作品の多くは表面が屈折している。そこに紙作品との関連性を見い出そうと思ったのだが、作者にあっさり否定されてしまった。本作についてはまだ自分の中で消化できていないが、彼の新たな側面として今後も注視したい。

2012/05/07(月)(小吹隆文)

高岡美岐 展

会期:2012/05/07~2012/05/12

O Gallery eyes[大阪府]

高岡美岐の絵画は、エモーショナルな筆致で絵具をどっぷりとキャンバスに塗りつけるのが特徴だ。以前の個展では、携帯電話で撮影した風景をもとに幾つもの水彩画を描き、そこからさらに選んだ構図を油彩画に仕上げると言っていた。その過程で風景は抽象化され、記憶や感情が画面に入り混じる。結果、彼女にしか表現しえない絵画世界が立ち現われるのだ。本展の作品は10年以上前に出かけた海水浴がテーマだが、前回の作品ほど抽象的ではない。どこか牧歌的な風情もあり、彼女の新たな世界を垣間見た思いだ。それでもぬめりのある分厚い絵具の質感や、ビュっと走る筆跡は健在。今時、こういう極太な存在感を持つ絵は貴重なので、このまま自分の世界を突き詰めてほしい。

2012/05/07(月)(小吹隆文)