artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

森淳一展「trinitite」

会期:2011/11/24~2011/12/24

ミヅマアートギャラリー[東京都]

彫刻とは本質的に「固まり」の表現であるが、内部が充填している(つまり無垢)とは限らない。石彫は無垢であることが多いが、ブロンズのような鋳造彫刻はたいてい空洞だ(木彫は無垢も空洞もある)。ところが森の彫刻は石彫にしろ木彫にしろ、まるでブロンズ彫刻のように空洞になっている。あたかも彫刻の摂理に挑戦するかのように、あるいは既成の彫刻から脱皮したかのように、外皮だけ残しているのだ。その反彫刻的身振りがおもしろいと思っていたが、今回はさらにそこに重い課題を乗せてきた。ギャラリー中央に鎮座するドクロの面のグロテスクな木彫は、その名も《トリニティ(三位一体)》。その名は不遜にも、1945年、ニューメキシコ州で行なわれた世界初の核実験のコードネームとして用いられ、そのトリニティ計画で使われたのと同じプルトニウム爆弾が、森の出身地である長崎に落とされたのだ。森が生まれる20年も前のことだが。その隣の部屋には既視感のあるマリア像《シャドウ》が飾られている。黒光りするセラミック製のマリアは両目がくり抜かれ、その黒く虚ろな目に見覚えがあると思ったら、長崎の浦上天主堂に残る「被爆マリア」と同じだった。展覧会名の「トリニタイト」とは、トリニティ計画の核実験によって砂が溶融してできたガラス質の物質のことを指すらしい。この《シャドウ》は「被爆マリア」の影であると同時に、高温によって表面が溶融したトリニタイトでもあるだろう。2011年の末尾を飾るにふさわしい作品に出会えた。

2011/12/20(火)(村田真)

薄井一議「昭和88年」

会期:2011/12/09~2011/12/22

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

タイトルを見て、ある種の感慨を覚える人が多いのではないだろうか。もし昭和という年号が続いていたとすれば、2013年が「昭和88年」になるわけだ。たしかに単なる語呂合わせのようではあるが、この言い方にはなぜか実感がある。というのは、平成以降の生まれの20歳以下の人たちは別にして、実はわれわれの感受性の質を決定しているのは、「昭和」の空気感であるように思えるからだ。薄井一議が試みようとしたのは、そのいまだに強く残っている「昭和」の匂いを、丹念に写真のなかに採集することだ。彼が主に撮影したのは、大阪の飛田、京都の五條楽園、千葉の栄町の界隈。いうまでもなく、かつて色街があった旧遊郭の地である。いまなお現役で営業している店も多いこのあたりこそ、「昭和」を最も色濃く感じさせる場所だろう。エロスと食が表面に浮上する場面では、人間の地金がより強く表われてくる。普段は押し隠している「昭和」っぽい色や形や肌合いに鋭敏に反応する感受性が、そういう場所ではあからさまに押し開かれて出てくるのだ。特徴的なのは、このシリーズの全体を覆いつくしている「どピンク」だろう。いかにも下品で俗っぽいピンク色が、奇妙な優しさ、鮮やかさ、華やかさで目に飛び込んでくる。こうして見ると、この「どピンク」こそが、「昭和」の生命力のシンボル・カラーであるようにも思えてくる。その派手な色が、いやに目に染みるのは、今年が殺伐とした「震災と原発の年」だったことにかかわりがありそうな気もする。なお、展覧会に合わせて英文の写真集『Showa88』(ZEN FOTO GALLERY)も刊行されている。

2011/12/17(土)(飯沢耕太郎)

柴田精一 展

会期:2011/11/18~2011/12/24

ギャラリーヤマキファインアート[兵庫県]

着色した紙を切って模様をつくり、それらを何層も重ねて複雑なイメージをつくり出す「紋切重(もんきりがさね)」というシリーズで知られる柴田精一。本展では、紋切重はもちろん、そのタブロー的展開の新作や、板を彫って現実の風景を表現するレリーフ作品なども出品。一作家に内在する多面性が明らかにされた。また果物に毛が生えたような初期の立体作品も展示され、ちょっとした回顧展感覚も味わえた。

2011/12/17(土)(小吹隆文)

The nm2 open atelier 001

会期:2011/12/22~2011/12/24

nm2(エヌエムスクエア)[大阪府]

作家の中島麦さん、森村誠さん、奈良市にあるGallery OUT of PLACEのギャラリスト野村ヨシノリさんの三人が大阪天満橋に合同アトリエを構え、そのお披露目として3日間アトリエを解放するという案内が届いたので訪ねた。駅から歩いて5分ほどの場所にあるビルの4階。中島麦さんの制作室には、小さなドローイング作品が壁面にずらりと展示され、中央の小さな部屋では、野村さんが推薦するアーティストの映像作品の上映されていた。森村誠さんの作品は実はこの日はじめて知ったのだが、ある特定の文字だけを残し、ほかの文字をすべて白く塗りつぶしたり、切り取ったりした本や雑誌を用いた作品の、ニヒルな性質となんとも偏執的な雰囲気が面白く、もっと話を聞いてみたかった。ぜひ次は個展を見てみたい。この合同アトリエは今後もときどき、作品の展示を行なったり交流の場としてまた公開される予定だという。京都では秋や卒業制作展のシーズンなどに、アーティストたちの複数の合同スタジオが一斉に解放され、作品展示やカフェ、ライブなどが行なわれる「オープンスタジオ」が定着している感があるが、大阪のこのあたりでもそのような動きはあるのだろうか。また新たな活動やアイディアがうまれる場所としても期待したい。


森村誠の制作室

2011/12/17(土)(酒井千穂)

ウィーン工房1903-1932─モダニズムの装飾的精神

会期:2011/10/08~2011/12/20

パナソニック電工 汐留ミュージアム[東京都]

近代とはいえ、ホフマンらが志向したものは、必ずしも純粋に抽象的な建築の空間ではないことがわかる。サブタイトルに「モダニズムの装飾的精神」と掲げているように、さまざまにデザインされた具体的な家具、照明、食器、文具、装飾、衣服に囲まれた艶のある場だった。その直後は前近代の名残とされたのかもしれない。だが、今から見ると、この時代だからこそ手がけることができた装飾は、かけがえのないものとして輝いている。

2011/12/16(金)(五十嵐太郎)

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