artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
宮北裕美「S・P・A・N・K」展

会期:2012/01/14~2012/01/29
MEDIA SHOP[京都府]
ダンサー、振付家として京都を拠点に活動している宮北裕美が初めての個展を開催。黒い紙にペンやパステルで描いた小さなドローイング作品が展示されていた。昨年から少しずつ描きためていたというそれらには一枚ごとに日付も記されている。展覧会のタイトルに似合うようなイメージを選んで展示したというが、一見、落書きのように画面のあちこちに散りばめられた線や図形、ユーモラスで奇妙な生き物たちのモチーフは、よく見るとどれも丁寧に描かれていて、音や光が勢いよく弾けるイメージ、というよりも、むしろ緩やかなリズムを感じる散文のような印象のものが多かった。絵はお世辞にも上手いとは言えない(失礼)。ただ、よくある「ヘタウマ」とか、意図的にかわいらしくアレンジされたものとは違う、なんとも言いがたい魅力があった。絵のなかの登場者や言葉のような模様を眺めていると、宮北の記憶、彼女だけが「所有」している物語や光景に想像が掻き立てられていく。初日には、宮北がサウンドアーティストの鈴木昭男さんと昨年から定期的に行なっているパフォーマンスセッション《空っぽ「ぽんぽこりん♪」》のライブイベントも開催された。二人のアーティストはそれぞれの音や動作にべったりと合わせるでもなく、かといって勝手気ままに踊ったり演奏している様子でもない。つかず離れず、音とダンスという互いの一瞬の印象から閃いたものを表現しているように見える。緊張感はあるのが、迷いはない。宮北の絵にも通じる雰囲気だ。

パフォーマンスセッション《空っぽ「ぽんぽこりん♪」》の風景。宮北裕美(左)と鈴木昭男(右)
2012/01/14(土)(酒井千穂)
タカオカ邦彦「icons─時代の肖像」

会期:2012/01/14~2012/03/25
町田市民文学館ことばらんど[東京都]
「顔」は写真の被写体として最も強い喚起力を備えたものの一つだ。「顔」の写真はすぐに眼を惹き付けるし、そこにさまざまな意味を引き寄せ、まつわりつかせる。写真家にとっては、魅力的だが扱いづらい被写体とも言えるだろう。とりわけ「作家の顔」は、そのなかでも特別な吸引力を備えている。作家は、彼らの本の読者が、それを読むことによってある意味勝手に付与してしまったイメージを引き受けざるをえなくなってくる。写真に撮られるときも、そのイメージを意識しないわけにはいかないだろう。そこに微妙な自意識のドラマが発生し、それが当然写真にも写り込んでくるのだ。
タカオカ邦彦は、ライフワークとして30年以上にわたって「作家の顔」を撮影し続けてきた。今回町田市民文学館ことばらんどで開催された「icons─時代の肖像」展は、そのタカオカの小説家、詩人、作詞家、脚本家など文筆家たちのポートレート90点余りを展示したものだ。全体は「肖像-portrait」「心象-image」「書斎・アトリエ-studio」の三部構成になっている。「肖像」のパートはモノクロームの顔を中心としたクローズアップ、「心象」のパートは普段着の姿、「書斎・アトリエ」のパートは仕事場での作家たちの表情を主にカラー写真で追っている。「作家の顔」というと土門拳や林忠彦(タカオカの師匠でもある)の重厚なポートレートを想像しがちだが、タカオカの作品はオーソドックスではあるがあまり威圧感がない。どちらかというと親しみやすい、等身大の作家像の構築がめざされているということだろう。
ちなみに、僕自身も1990年代半ばにタカオカに撮影してもらったことがあり、その写真も会場に展示してあった。こういう経験はめったにないことだが、自分の顔に展覧会で向き合うのは正直あまり気持ちのいいことではない。自意識のドラマが生々しく露呈している様を、本人が見るということには、相当に息苦しい違和感、圧迫感がともなうことがよくわかった。
2012/01/13(金)(飯沢耕太郎)
three展

会期:2012/01/06~2012/01/29
資生堂ギャラリー[東京都]
若手作家の支援を目的とする「アートエッグ」シリーズの第1弾は、その名のとおり3人組のユニット「three」。作品はふたつあり、ひとつは、メインギャラリーに天井から糸で約7千個のキャンディやグミを吊るし、全体で家の輪郭をかたちづくったインスタレーション。観客は1個ずつとって食べることができ、包み紙は1カ所に集められる。会期が進むにつれ家のかたちは下端から徐々に崩れていき、反対に包み紙(ゴミ)の山が大きくなっていく趣向だ。もうひとつは、大きく波打たせた壁一面に約6万5千個の醤油差しをとりつけ、そこに都市風景や群衆の映像を投影したもの。魚型の醤油差しが1個1個ピクセルと化しているのが笑える。どちらもポップな日常品を多数用いて現代社会のおかしさを突いているが、それだけでなく、アートオタクが喜びそうな謎解きも隠している。前者は、キャンディの山から観客に1個ずつとってもらうフェリックス・ゴンザレス・トレスのインスタレーションを逆転させたものだし、後者の波打つ壁は国立新美術館のファサードを想起させずにはおかない。ただ、家のかたちがわかりづらく、波打つ壁も完成度が低かったのが惜しまれる。
2012/01/13(金)(村田真)
イワサキタクジ展(ファントムと使途不明な日々)
会期:2012/01/06~2012/01/14
GALLERY MAKI[東京都]
希代の画家、イワサキタクジの新作展。展示した絵画をベースに、フィルム写真をスライド上映する「幻燈会」を随時おこなった。写真はこれまでと同様、この世を写しながらもあの世への入り口を垣間見させるような寂寥感があふれており、その視点はいつにも増して此岸と彼岸のあいだを彷徨う霊魂のそれを彷彿させた。入れ代わり立ち代わり映し出される写真を見ていると、そこに写されている風景の向こう側に連れて行かれるように錯覚するほどだ。そうした強い霊性は、写真だけでなく絵画にも通じるイワサキの大きな特徴だが、今回発表された絵画にはひときわ強く立ち現われていた。中世の宗教画をモチーフにした色彩豊かな絵画に描き出されているのは、生と死、父と母、男と女、神と悪魔、赦しと恐怖などの両義性。いずれかが明示されている場合もあるし、いずれにも解釈できる場合もある。生きることも死ぬことも、すべてを丸ごと引き受ける覚悟のようなものが、画面からひしひしと伝わってくる。これほど幅と厚みのある絵画は、少なくてもここ数年の展覧会では見られなかったから、今回の個展でイワサキはひじょうに大きな達成を遂げたと言わねばなるまい。さらなる展開が待望される、数少ない画家である。
2012/01/13(金)(福住廉)
松谷武判 展 円環を越えて

会期:2012/01/07~2012/01/22
LADS GALLERY[大阪府]
画廊の2室のうち、手前の大部屋では大作を中心とした展示が行なわれ、奥の小部屋では主に小品が並べられた。見応えがあったのはやはり前者。《流れ Mercuri Paris》、《円 26-11-2009》、《流動 LADS》といった大作が素晴らしかった。また、彼にしては珍しい星空のイメージを描いた作品もあった。聞けば、大作の一部は昨年に神奈川県立近代美術館で行なわれた個展の出品作とのこと。同展を見逃していただけに、嬉しさもひとしおだ。
2012/01/12(木)(小吹隆文)


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